王都への道
「ハルさま! よろしければこれをお持ちください!」
町を出て少し馬で走ると、すぐに小さな村に着きました。ハルはあまり訪れたことはありませんが、この村のことは勉強したことを覚えています。確か、この村を抜けるのが王都への近道です。黒塔守と話し合って、村の中では馬を引くことにしました。
「人気者ですね」
「みんな僕が薬を探しに行くことを知ってるんです。あんまり期待しないでほしいなぁ……」
いざ旅に出ても、ハルの不安は消えません。この村に着いてから何人もの人々が保存食をくれました。保存のきく食料は貴重です。
「そんなものですよ。だから頑張るのでしょう? きっとあなたにしかできないことなのでしょうね」
黒塔守さんも何か目的があるから旅をしている、だとしたら何のためなんだろう? ハルはそんなことを考えながら歩いていました。しかし、村から出る門に着いたときにあることに気づきました。
「すみません、黒塔守さん……」
「どうかしましたか? 忘れ物でも?」
黒塔守さんは足を止めません。ハルも歩き続けますが、話も続けなくてはいけません。忘れ物ではないことも伝えないと。
「いえ、忘れ物じゃなくて……。保存食を積んでいったら、乗る場所がなくなってしまって……」
気づけばハルの馬の背を保存食が埋め、子供のハルでも乗ることができなくなってしまっていました。
「……人気者も考えものですね。よかったら、後ろに乗ってください」
「なんかほんとにすみません……」
黒塔守は大丈夫です、とだけ言い、馬を走らせます。ハルの馬も後ろからついてきています。
「あの、黒塔守さんはずっと旅をしているんですか?」
「ええ、もう長い間……。でも大陸北はまだまだ知らないことばかりです」
「夜の国ってどんなところなんですか?」
ハルは大陸の北半分のことは勉強していました。でも、南半分、ましてや夜の国のことなんて知りません。夜の国はとても変わった国でした。神話に登場する重要な国でありながら、誰もその国の話を詳しく知りません。
「夜の国ですか。そうですね、いつか連れて行ってあげましょう。百聞は一見にしかず、といいますから」
「本当ですか? ありがとうございます。約束ですよ」
ハルにはまだ、この旅に不安がありましたが、少しだけ楽しみになりました。旅に出ることで知ることもあって、それは家で勉強ばかりしていてもわかりません。
「妖精として、嘘はつきませんよ。……あの道を右に行けば王都ですね?」
「は、はい。そうです。でも途中に町がありますよ」
黒塔守は少し考えました。旅をする中でひとつ、聞いた話があったのです。分かれ道で馬を止めると、口を開きました。
「……ここを左に行くと、森がありますよね」
「えっと、ケニスの森のことですか? でもあそこは狼が出ますよ。それに王都とは方向が違いますね」
ケニスの森の狼は穏やかですが、人間を襲うものもいると聞きます。クルイク地方にはその森に近づくものはほとんどいません。何も知らない旅人や子供ならまだしも……。
「ええ、その森です。聞いた話ですが、その狼の中に言葉のわかる狼がいるそうなんです。何百年も生きているそうなので、いろいろ知っているかと思いまして。寄ってみませんか?」
「う……。寄るんですか?」
人を襲うかもしれない狼、襲われたらひとたまりもありません。でも、言葉が通じる狼に会うことができれば……。
「行き……行きましょう」
ハルの言葉を聞くやいなや、黒塔守は馬を左に走らせました。ケニスの森はそう遠くありません。
「わかりました。なに、大丈夫ですよ。あなたならきっと」