旅の始まり
朝陽が部屋に入るころ、ハルは目を覚ましました。
「あれ……」
くぅ、とお腹が空腹を訴えています。昨日、帰ってきてすぐに寝てしまったようで、服もそのまま。クローゼットを開けてみると、真新しい丈夫そうな服が入っています。少し着てみたくなったハルは、まずは身体を綺麗にすることにしました。
「僕は王都に行った後、どうしたらいいんだろう。薬のことなんてわからないし……」
起きてから、そのことが頭から離れません。黒塔守とは王都についたら別れることになるでしょう。ひとりになった後どうすればいいのか、そもそも王様なんて初めて会うのでなんだか怖いし不安です。
その不安は朝食になっても消えません。朝食をとり、もう旅に出なくてはいけないのに……。新しい服もなんだか自分を拒んでるみたい、そんなことを考えていました。
「ハル、身体に気を付けて。……その服、よく似合ってるわ」
「うん。ありがとう。でも、僕に薬を見つけられるかなぁ」
「大丈夫よ。あなたならできるわ。その服はね、おばあ様たちがつくってくれたものなのよ。どんなときも、ご先祖様があなたを守ってくれるわ」
ハルのおばあ様たちはこの町よりずっと北に住んでいる、そうハルは聞いています。ご先祖様たちはみんなハルや母と同じ赤い瞳をしていて、代々国王様からこの町をまかされている、と。
「うん……。僕、頑張るから、母上も元気でね」
「ええ、大丈夫よ。……外にあなたの仲間がきているわ。馬も外に繋いであるの」
ハルは母に連れられて、外に出ます。やっぱり活気のない町ですが、今日は町の人々が外に出て、ハルに手を振りました。ハルが昔から世話をしていた白い馬がハルに寄ってきます。
「いってらっしゃい、ハル。町の人が丈夫な鞄を作ってくださったのよ。これを持って行って」
「ありがとう! 素敵な鞄だね」
つやつやした真新しい革の鞄には、袋がふたつと小瓶、それに包みが入っています。
「お弁当と旅のお金よ。それと包みはお守りなの」
「大切にするね、絶対」
「素敵なお母様をお持ちですね」
黒塔守が静かに歩み寄り、ハルに声をかけました。黒塔守の握る手綱には、黒い馬が繋がれています。
「黒塔守さん、おはようございます」
黒塔守は昨日と同じように布面をつけています。その布面のせいで表情はわかりませんが、どことなく温かい雰囲気を持っていました。
「おはようございます。準備はできているみたいですね」
「はい、大丈夫です。もう出発ですか?」
「ええ、今行けばまだ昼間に着きますからね」
そういうと黒塔守はハルの母に会釈をしました。母も微笑んで会釈をします。
「それじゃぁ、母上、いってきます」
「ええ、いってらっしゃい」
ハルと黒塔守は馬を引いて、歩き出しました。母や町の人が手を振っています。旅の始まりです。