病
イェデン=ムビリ大陸北西部、アイナ王国クルイク地方。この地を治めているアイナ王国の貴族には、一人息子がありました。
少年の名前はハル。優しい両親、温かい人々の愛をうけて、すくすくと育ちました。そんなハルも12歳。しかし、その頃には人々と関わることも減ってしまいました。
町では不思議な「眠り病」がはやり、ハルの父までもその病気になってしまったのです。そこで、母はハルに言います。
「ハル、国王様に病気の報告と、薬を探してきてもらえないかしら」
「ぼ、僕にそんなことできないよ!」
臆病な少年は、母の頼みを断ってしまいます。父がこのまま眠り続けることは嫌でしたが、ひとりで王様に会いに行くのも怖くて嫌だったのです。
「お願い、ハル。大丈夫、ひとりではないわ。町に夜の妖精がきているの。彼は知識をあなたに授けてくれるわ。王都まで共にする仲間を探しているそうよ」
ハルは迷いました。ひとりでは怖くていけません。外には強い生き物がいると先生からきいています。……でも、誰か一緒なら。まだ病気の広まっていない王都なら、もしかしたら仲間になってくれる人もいるかもしれません。
「……僕、行くよ。母上」
勇気を振り絞って出した答えに、母上は優しく微笑むと言いました。
「ありがとう、ハル。でも、きっと長旅になるわ。今日は必要なことをしたらはやめに寝るのよ。……旅の支度は私がしましょう」
今日、必要なこと。ハルは少し考えてみましたが、なにをしたらいいのでしょう。準備以外にすることがあるのでしょうか?
「でも、母上。僕も何か手伝いを」
「いいのよ、私が頼んだことなのだから。でも、いつか自分で旅に出るときは自分で支度をするのよ?」
「……はい」
それならなにをしよう、僕はなにができるだろう。ハルはまた考えました。そしてひとつだけ、思いついたのです。
「母上、夜の妖精さんはどこにいるの?」
「町や周辺を散策すると言っていたけれど……。そうね、挨拶しておかないとね。……いってらっしゃい、ハル」
いってきます、と少し走りながら出ていくハルの後ろ姿を見つめながら、母は呟きました。
「ハル、これからあなたはいろいろなことを知るのね。……お父様にも見せてあげたかった」