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九狩目 フォー・ルームス

虫とか滅べばいいのに、という方はご注意ください。

作者はGと蛾じゃなけりゃ大概平気です。

もうね、Gとか何で絶滅しなかったの……四十六億年の本気出せよ地球……!

 おはこんばんちわごきげんよう、カレルレン=ナガンさんじゅっさいです。

 記念すべき傭兵(ぼうけんしゃ)デビュウとなる最初のお仕事で、サモ・ハンの兄貴、にクリソツ(死語)のオサーン拾うとか、あ……ありのまま(略)な斜め上の展開に草生えましたが、臨時収入(ボーナス)入るし訳だし、寧ろ幸先いいんじゃないかな、ってポジティブシンキングしてます。

 なお、サモ・ハンの兄貴、もといウイチタの旦那は、二十年ほど前までは協会(ギルド)の傭兵(ぼうけんしゃ)としてブイブイ(死語)いわせていたそうな。

 その頃の稼ぎを元手に、かみさんと傭兵(ぼうけんしゃ)向けの宿、五福亭を始めたところ、痒いところに手が届く各種サービスや良心的な料金プランで利用者の心を掴ん(ハートキャッチ)で大当たり。

 顧客である中堅以上戦争の犬(イカれトンチキ)未満の皆様のご要望にお応えしていくうちに各国に支店ができ、ホテル王に俺はなる! を実現したアメリカンドリームの体現者なんだとか。

ってアメリカねーし。

つか、そんなお偉いさんがいい年して昆虫採集ってどういうことなの。

 なお、本命の依頼については、ウイチタの旦那を最短ルートで最寄りの人里に送り届けたその足で調査区域に駆け戻り、きっちりしっかり片付けましたが、何か。

 調査拠点まで戻って、荷物の中から救急セット出して湿布&テーピングで応急手当までした私ったら、白衣の天使(ナイチンゲール)、はあと、みたいな?

 ……まあ、そんな痛い寝言は廃品回収にでも出しといて。

 調査そのものはうまくいったんだけど、その過程でちょーっと「これヤバくね?」なことが判明してくれやがりそうです。

具体的には、あれ? これってレリンクォルの協会(ギルド)、機能してないとこがある、ってことじゃね? と。

 依頼を受けるにあたってされた説明から、調査自体は十中八九、官民合同のプロジェクトなんだろうってことがわかる。むしろわからなかったらそっちの方がヤバいんのとちゃう? だ。

 三か国の国境が接する場所での調査、って部分をちょっと穿った見方で見てみれば、表向きはあくまでも、国という首輪の付いてない民間団体の一所属者でしかない我々傭兵(ぼうけんしゃ)を使った、環境調査の名を借りた示威行動(デモンストレーション)とも取れる。

 つか、そう考えるのが妥当じゃね? 万が一、よろしい、ならば戦争だ! ってなった時に備えて国境とその周辺地域の地形を把握し、かつ、不確定要素である傭兵(ぼうけんしゃ)を自国の戦力として取り込み易くするために友好的な相互協力関係を作っておく。

うん、納得納得。

 大人は汚い? 何を仰るウサギさん。白河の清きに魚は住みかねるのはいつの世でも、異世界でも同じことなのじゃよー。

キレイなだけの世界で生きてたけりゃ、社会との関わり一切絶って自分一人で完結して生きてろって話ですわ。

 ……じゃ、なくてだな。

 つまり、そーいう側面がこの調査にはあると予測される訳でして、なので調査対象の生物数って、基本そんな無茶な変動しないはずなんですよ。

だって問題あるレベルになる前に、トラブルシューティングしてんだもん。

 それが、どーした訳か、レリンクォルとの国境に接した一部地点限定で、過剰発生が起きている。

あくまで環境調査なんで、調査結果は誰でも閲覧可能なんですよ? 例えば、前世の職場でお世話になった上司によく似た、あからさまに元軍人臭漂うお役人とか休日(オフ)を楽しむ現役軍人とか、協会(ギルド)の新人(ニュービー)とかでも、手続きさえきちんとすれば見られます。

 んで、何が気になるかっつーと、他の地域では常に一定数で生息数が推移してるのに、問題の地域では、年々発生数が増加してるのですよ。

 ……これって、隣から流入してるってことなんじゃね? だって限定された一部地域でしか発生しとらんのですよ?

 つーことは……レリンクォルではこういった調査がされてないんでないかい? ヴェルパ側じゃそーいうの観測されてないし。

 何やってますのんレリンクォルの協会(ギルド)は。

 まあ、おっさんたちがレリンクォルに拠点置いてないって聞いた時点で、レリンクォルってちょいあかんのとちゃいますのん? て思いましたからねー。

 なので、今後の活動地域からレリンクォルをカットするって方針になっちゃうのは、コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実! だと思うんだ。

 ナオンと彼らだけの蜜あふるる約束の地ならまだしも、嬉しげでもなんでもない約束された厄ネタの地とか、真っ平御免ですわー。

 ……と、眠れない午前二時、慣れないふっかりした寝台で寝返り打ってます。

 調査を終えてリーデトに戻り、協会(ギルド)に報告書提出も済んだし、公衆浴場で塗り込んだ虫除けその他諸々落としてサッパリしてくんべ、という矢先、大旦那様の恩人だかなんだと、ウイチタの旦那んとこの番頭さんに捕まってしまったとです。

 いや、依頼として成立した以上、仕事ですやん? それが何故に恩人なんつーポジションになるの? 解せぬ。

 あれ臨時の依頼だから、仕事だから、恩人とかそーいうのじゃないから、と真摯にご説明申し上げたのに、旦那様が是非ともお礼申し上げたいと仰ってますので、の一点張りに負けたとです。

あれは、「はい」って言うまで絶対引かない、勇者に魔王退治を強いる王様クラスの猛者と見た。

 押しきられて連行された先は、ウイチタの旦那の記念すべき最初の城で、にっこにっこと恵比寿大黒福禄寿、布袋もびっくりの素敵スマイルに出迎えられて、気が付けばどうぞお泊まりやす、と退路が塞がれてました。

 それでも、意地と気合いと根性で、宿泊費ゼロを四十パーセントオフまで持ち込んだ自分を誉めてあげたい。

 仕事は仕事。そこに私情や義理やらを持ち込んだら、面倒なことになるのは火を見るより明らかだし? 依頼人とはつとめてビジネスライクな関係であることが望ましいとは思いませんか? 誰だってそー思う。私もそー思う。

 ま、ウイチタの旦那も、この先私がうまいこと出世して二つ名付きにでもなれば、贔屓の宿とか宣伝できるかもしれない、って見通し(かわざんよう)してんのかもしんないし。

 ちなみに、ウィルオザワイクスのおっさんたちは、ウィルオザワイクスってクランの名前が既に看板なんで、個人の二つ名はないらしい。

つーか二つ名とか何それ厨二病? 厨二病なの? ないわー、とマナーモードで笑いを堪えたあの日が懐かしい。

 ごろんともう一度寝返りを打てば、分厚いフェルトを何枚も重ね、布で覆ったマットレスに重ねられた敷き布団の柔らかさと、二枚重ねの毛布の暖かさに、人間をダメにする寝具の実力を魅せ付けられる。

 風呂も、終い湯だったけど一人で浸からせてもらったし……贅沢は敵だ! 勝ってくるぞと板橋区、清く正しく葛飾区! と言い聞かせても、こう、ごろんごろん思う存分転がることのできるベッドは魅力的なんだよ……!

 あー、でも明日っつーか今日の朝飯は、ウイチタの旦那が一緒にどうかね(拒否権なし)って言われてるんだよねー……正直気は重いけど、食べ物に罪はないからなあ。

 美味しくいただくためにも、さっさと寝なきゃ、とかもだもだしてるうちに、いつの間にか寝落ちてたらしく、気が付きゃホームのベンチ、ではなく次の朝でした。あらびっくり。


「やあ、おはよう。よく眠れたかな?」


 部屋まで届けられた水差しと洗面器で顔を洗い、当たり障りない白シャツと地味な焦茶の胴着(チョッキ)、トラウザースに着替え、この二年で随分と伸びた髪をザッパに括って身支度終了、のタイミングで、旦那様がお待ちです、とやってきた丁稚くんに案内されたのは、宿の裏庭。

 え、朝飯は? と思ったら、アメリカの公園で仲良しファミリーが弁当広げてそうなウッドテーブルと、丸太縦半分にぶった切ったベンチの上に、皿が並んでいる。

 テーブルの横には石を組んでこさえた簡易かまどがあり、中華鍋っぽい大鍋が置かれてて、油の煮えるいい匂いがする。

中でいい塩梅に揚がってるのは、でっかいカマキリ(腹部のみ・消化管切除済)だけどな!

 あー、これあれか。虫とかマジ無理、と「お断りします」されたんで、食べることに拒否反応見せなかった奴を巻き込んだと、そーいうことですねわかります。


「ちょうどいい塩梅に揚がったところだよ。一緒にどう? 美味しいよ?」


 有無を言わさぬ系の笑顔で何言うてますのん。まあ、食うけど。


「……ご相伴に、預かります」


 前世で鍛えたビジネス会話と笑顔のコンボで返すと、ささどうぞ、とベンチにかけるよう促された。

 ベンチに座り、改めてテーブルの上を見れば、炙った羊の肋肉(リブ)とソバの実の入った粥? スープ? らしきもののほかに、こないだ言ってた青唐辛子の炒め煮と、色から察するにソバ粉を使っているのだろう、平べったい無発酵パン、こっちでは初めてお目にかかる、微妙に埃っぽい香りが特徴的な、プーアル茶にそっくりの発酵茶の椀が並んでいる。あら、バター茶じゃないのね。


「珍しいでしょ? これはねえ、ナートゥムの料理なんだ」

「確かに珍しいですが、美味しそうですね。これは、ウイチタさんがお作りに?」

「そりゃあもう。ソバもグリーンペッパーも、種から育ててるんだよ」

「大したものですね」

「まあ、今は亡き故郷を偲ぶ縁(よすが)、ってやつだからねえ」


 鍋から引き上げた揚げたてカマキリ(腹部)を大皿に乗せたウイチタの旦那が、ほくほく笑顔を携えてテーブルに運んでくる。

 ……うん、ソレが食えんのも美味いのも分かってるけど、免疫のない素人さんにはビジュアル的にちょっとキツいかもしんない。

初心者はイナゴの佃煮から入ることをお勧めします。

 にっこにっこといーい笑顔で青唐辛子の炒め煮をよそった皿に、包丁で切り分けた揚げカマキリ(腹部)を乗せ、どうぞと差し出すウイチタの旦那に、こちらもどうもと愛想笑いとお辞儀を返す。

 ナイフ、フォーク、スプーンは見当たらない。ってことは……


「おや、どこかでナートゥムの料理を食べたことがあるのかい?」


 青唐辛子の炒め煮と揚げカマキリを、ソバ粉を水で練って焼いただけの無発酵パンで包むように摘んで口に運ぶと、ウイチタの旦那が驚いたような顔をした。

 いえいえ前世の記憶の賜物です、なんてこたぁ言わないが、


「ありませんが、多分こうじゃないかと……違ってましたか?」

「いやいや、合ってる。合ってるよ。けど、君、ナートゥムの出じゃないだろうに、手掴み平気なの?」

「美味しいならいいじゃないですか」


 とりあえず笑顔で流す。

いいよね、元手かかんないでとりあえず物事を有耶無耶にできる笑顔って。

 まあ、食事の後はこないだの飛び込み依頼の話になるんだろうし、食えるときにしっかり食っておかなくちゃ。

 それにしても、マジ美味いわーカマキリの分際で。

バターで炒めて羊の乳のカッテージチーズと煮込んだ青唐辛子は、シンプルに塩だけの味付けだけど、カッテージチーズ自体はあっさりしてるので、クリームコロッケみたいにとろりとした卵嚢の濃厚な味と合わさってもくどくなく、青唐辛子の強烈な辛さをまろやかに包んでくれる。

ソバ粉の無発酵パンはちょっとボソボソしてるように感じられるけど、青唐辛子の炒め煮と揚げ卵嚢が水分あるから、一緒に食べるにはこれぐらいでちょうどいいんだろう。

 今までずっとヨーロッパ的な文化の中にいた訳ですが、ここにきて中央アジア的文化が出てくるとは思わんかったです。

 うわあ安らぐわー。マジ安らぐ。くっそ何でナートゥム亡(の)うなってしまったん? 裂き縄の儀式でしばいたるけぇ、滅ぼした奴体育館裏に来いやぁ。

 つか、ソバがあったってことは、米味噌醤油の三種の神器も、探せばあるかもしんない。いや、ある! あーるー、きっとあるー。

夢と希望が広がるわー。




     †     †




 ――面白い。

目の前で、祖国以外では下品とされる作法で黙々と朝食を摂る少年に、ウイチタは目を細める。

 位階は青(カエルラ)。クランには属しておらず、ウイチタと遭遇したのは、ゴルゴン=マンディダエの発生状況調査の依頼中で、それが協会(ギルド)に正式に登録してから最初の依頼(しごと)だったそうだ。

 遭遇当初は何とも掴みどころのない存在に感じられたが、遭遇地点から最寄りの集落までの二日間で、それなりの親切心と礼儀正しさを持ち合わせていることが見てとれた。

 実力は、年齢と経験の不足さえなければ、藍(インディクム)でもやっていけるのではなかろうか。

 だが何より、ゴルゴン=マンディダエを倒して直ぐに、依頼札の半券交換をした慎重さが、目に付いた。

 依頼札は、契約成立後二つに割り、一方を依頼人、一方を依頼を受けた当人が持つ。

 依頼人が持つ方の半分には依頼を受けた側の、依頼を受けた側が持つ半分には依頼人の内部魔力の波形が記録されており、依頼人が踏み倒しを図ろうとしても、半券を抑えてさえおけば、協会(ギルド)はもとより、商工組合にも手を回し、債券として回収することが可能になるのだ。

 身に付けた装備と、森を抜けた時点で外した覆面の下にあった、くすんだ緑褐色で染まった顔と髪は、深い森に踏み込む危険を十分理解していることを示していたし、大きな背嚢(バックパック)とは別に、首から提げた鞄に綴じ込まれていた地図のうち、薄い木の皮を使った写しには、ぱっと見ただけであったが、遭遇地点までの細かな注意点と、万一に備えた最寄りの人里までの最短撤退ルートが書き込まれていた。

 位階が上がることで、自身の実力をやたら上方修正してしまう輩(やから)は少なくないが、カレルレンと名乗ったこの子供は、自分の実力を高くも低くも見積もらず、何がどこまでできて、何がどこまでできないかを冷静に見ている。

 ついでにいうなら、面(つら)も不味くはない――というより、はっきり美形と言える顔立ちだ。

あと十年、このまま変わることなく成長すれば、砂糖を煮詰めたような甘ったるい恋愛小説(ゆめものがたり)に憧れる小娘が思い描く、きらきらと目にも眩(まばゆ)い麗しの貴公子様のできあがりだ。

 まだ名も顔も売れていない駆け出し(ニュービー)だが、売れていない今のうちに唾を付けておき、五福亭(うち)で売り出し(プロデュース)するのも悪くはない。

 さて、どう引き込もうかとウイチタは思案する。

 それらの条件に加えて、年若くはあるけれど、懐かしい故郷の美味に物怖じしない貴重な人材である。せめて知人枠でも確保しておきたい。

 皿の上のグリーンペッパーと卵嚢の素揚げを平らげ、羊の肋肉(リブ)にかぶりつく姿に、在りし日の記憶を重ねながら、ウイチタは、若い時分にはトロそうなお人好しと侮(あなど)られ、商売を始めてからは信用を得るのに一役買った柔和な顔の、皺を刻んだ目元を柔らかく綻ばせた。

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