表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/41

二撃目 この道はいつか来た道、ああそうだよ鋼鉄の茨道だよ

 皆さんこんにちは。ラッシャーき……げふんごふん、みんなのアイドル、ヴェルヘルミナちゃん六歳です。

……うん、冗談だから季節の変わり目によく出るアレなひと見る目は勘弁して下さい。


 衝撃(笑)の誕生日から五日が過ぎましたが、どっこいしぶとく生きてます。

アレです、温室でしか育たない繊細な蝶と違って、クマムシは熱帯から極地方、超深海底から高山、温泉の中まで、海洋・陸水・陸上のほとんどありとあらゆる環境に生息してますからね!

しかも極度の乾燥状態、百五十一度の高温からほぼ絶対零度の極低温、真空から七万五千気圧の高圧、高線量の紫外線、X線(半致死線量は五十七万レントゲン。人間が五百レントゲンだからどんだけですかいな)、ガンマ線等の放射線に耐えるしね。

何せ宇宙空間に直接さらされても十日間生存できる最強生物だし。どっかの最強生物は、まずクマムシさん取り込むべきだったんでないだろうか。


 あ、ちなみに只今はケレンディア歴(ちなみにヴェルヴェリア大陸の他に三つ大陸があり、それらを含んだ世界の総称がケレンディアだそうな)3765年、始源の月、緑の11日です。

1月2月月曜日火曜日とかでいいじゃん面倒くさいなーもー、と思わなくもないですが、郷に入っては郷に従えと昔の人は言いました。


 ついでに言うと、始源の月ってのは一年の最初の月のこと。

そっから祖神そしん、白、くろ、天、地、大海おおみ、精霊、時、うまれめぐりかくれで、一年十二ヶ月なのは同じだけど、一ヶ月は一週間七日×4の四週間28日で、赤から始まり青、黄、緑、白、黒、始源の曜日があって、始源の日は基本安息日だけど、関係あるのは敬虔な祖神教会派信者の人くらいじゃないだろうか。

で、各月の名前はケレンディアの創世神話に由来してるそうで、始源の混沌から祖神が出で、始源を光と闇に分け、更に天地と海を分け、精霊を生み出し、時により数多の生命を誕生させ、月日と生死の廻りが定まったところで世界を譲りお隠れになられた、その行程を十二ヶ月に、世界を構成する火・水・土・風・光・闇の六大精霊と始源を曜日に当てはめてたのだとか。


 それはまあ割とどうでもいいので置いといて、現状は、ここは何処のミンチン女学院ですかと突っ込まざるを得ない有り様ですが、温室でなけりゃ育たない繊細な園芸種と違って、ヴェルヘルミナの約99%を占める市川鷹は、先祖代々由緒正しい三河武士、つっても足軽よりかは多少マシな程度のごっつい下級という筋金入りの原生種。図々しさと生命力においては、寧ろ特定外来種レベルです。


 ……御歳九十と五でもじいさまは田舎で半農半猟生活してたし、じいさまんとこに遊びに行くたびに、罠猟の仕掛けや食べられる野草の種類と見分け方、雉や鹿や猪のさばき方、代々伝わる甲冑組手術を教わったり、じいさまの友人の和尚さんとこで、座禅や修験道の流れを汲む山岳修行なんかをしたもんで御座います。よもや小学校の夏休みに、千日回峰行ならぬ三十日回峰行するとは思わんかったけどな!

小学校上がってすぐに両親が飛行機事故で亡くなって、じいさまに引き取られてからは、日々是鍛練、家訓まんまのエブリディエブリタイムでしたがね。

そんな市川一族の家訓(一族訓か?)は“常在戦場”、婿・嫁に来る善男善女は先祖伝来の甲冑組手術を仕込まれる。そんな戦闘民族の末裔にとって、放置は自分を鍛える絶好の好機、むしろご褒美なんですよね。


 台所から拳大の岩塩一つ、納屋から古い大型ナイフ一振りとちびた砥石、底の凹んだ鉄鍋、端の欠けた木の椀と柄杓、取っ手の壊れた桶、火種入れるのに丁度良さげなヒビの入った陶器の壺、端っこに穴が空いてるけどまだまだ十分使える笊、籠、麻袋等々を失敬して、転生初日(余談ながら転生記念日、始源の月の黒の7日は、市川鷹ぜんせのリアル誕生日と同日でした)から狩猟採取生活をエンジョイ&エキサイティングしまくってます。

鍛練については、まだ体が出来上がらないうちから無茶な鍛練すると、却って悪影響を及ぼすので、とりあえず今のところはブッ倒れるまでひたすら走るくらいしかやってません。

ちなみにポイントは“踵から走る”。トップ兵法家、新免武蔵守藤原玄信先生もご推奨の走法です。

戦争は数だよ兄貴、は真実だと思いますが、戦は走って走って走れなくなれば負け、もまた真実だと思うのですよ。


 朝起きたら台所で火種と固くて古いパンだけ貰って森に入り、まずはブッ倒れるまでひたすら全力で走りに走り、ぶっ倒れたらその場でクールダウン。

起き上がれるまで回復したら小川の側まで移動して火を起こし、前の日に仕留めてさばいて岩塩とドライハーブをすり込んどいた獲物(内訳は大ウズラと勝手に命名したレグホン大のウズラが八割で兎が二割。たまーにおまい保護色どこいった的など派手な雉っぽいヤツ)を炙り、鉄鍋に水と昨日の食べ残しの骨と塩を入れて火にかける。

待ってる間に生でも食べられる野草や果物を集め、頃合いを見計らって鍋から木の棒箸にして骨を除き野草とパンを投入すれば、こんがり肉と野草入りパン粥ガラスープ仕立てが出来上がるので、それを食べられるだけ食べ(基本パン粥は一回で食べきられるよう作ってる)、小川で洗い物をしたら、三時間ばかり食休みを兼ねた瞑想に入る。


 基本的にケレンディアの生物は、保有量の差こそあるが魔力を有している、らしい。

これを内部魔力と言い、それとは別に世界に満ちる魔力、これを外部魔力と言うが、魔法を使うにはまず自分の内部魔力の扱いに慣れなければならない、らしい。

らしい、って言うのはヨハンナさんによる寝る前のお話から推測したにすぎないからで、それが正式なやり方か今一不明なためである。


 寝る前のお話の体裁を借りた諸々の教育(暦や読み書き等々)は、自分が追い出されたら私の教育なんてロクにしない、つか実際は教育どころか養育すらロクにしやがらなかった訳だけど、それを予測してただろうヨハンナさんの、精一杯の愛情でありレジスタンスだったんだろう。

そんな精一杯の思いを前に、それを受けとるべき本来のヴェルヘルミナを食い潰してしまったと思うと、罪悪感半端ないです。正直すまんかった、ってレベルじゃねーぞ。


 とにかく、内観するなら座禅だろうなと、市川鷹ぜんせの“プロデュースド・バイ・じいさま&和尚、たのしい禅宗・初級編”の記憶を辿り、適当な木の根元に座禅組んで瞑想したのですが、それらしきものを感じたのが二日前で、それをより確実に感じ取れるようになるのが当面の課題でしょうか。

確実に感じ取れるようになったら、内丹術とかタントラに繋げていくのもいいかもしれないなー。

ヨガが流行ってんで習いに行ったら、スタイリッシュでシャレオツなヤツじゃなくて、本場で修行してきたガチの苦行僧サドゥーが出てきたのはいい思い出です。


 瞑想を終えたら、日が傾くまでは獲物の残量(小川からそう遠くない辺りに手頃な風穴があったので、捕ったら獲物はそこで保存してる)と相談して、解した麻袋で作った紐で罠こさえて設置したり、狩りに出られない場合を想定してなんちゃってジャーキーや干し果物、木の実のビスコッティもどきといった保存食作りに当てる。


 なんちゃってジャーキーは、脂を除いて薄切りにした兎肉に多目の岩塩と干して粉にした香草をすり込み、木の枝に刺して風穴の中で干すだけだし、干し果物も、枝のまま取ってきて日中は外で干し、帰る前風穴に入れておくだけと余り手間はかからない。


 唯一手間がかかるのがビスコッティもどき。

まず、ドングリ(見た目がそれっぽいのでドングリと命名。ただし大きさはウズラ卵大と結構でかい)を籠一杯に拾います。クソ苦くて食用に向かない種類もあるので、よく注意して拾いましょう。

拾ったドングリは虫食いなどがないか選別したら、外側の硬い皮と種子を覆う薄皮をきれいに剥きます。

剥いたドングリは麻袋に詰めて小川に三日ほどさらしてから、灰と一緒に茹でてしっかりとアク抜きをし、笊に上げてよく乾かします。きちんと乾燥するよう、水にさらす前に刻んでおくことをお勧めします。

乾いたら、平たい石の上で挽いて粉にする、という工程を経てドングリ粉を作ります。粉ができたら、後は、クルミなどの木の実と少量の岩塩、植物油、水を加えて練り合わせ、石の上で焼くだけでできあがりです。

たたらったった、たたらったった、たたらったったったったたたたたた♪ 鷹さん○分クッキングでした。


 卵も砂糖もバターも入ってないビスコッティもどきは、ネットのアーカイブで読んだコミックを思い出しつつ、椿っぽい木の種を、炒って砕いて茹でて煮詰めて作った植物油と胡桃のコクと、干し山葡萄のおかげで、どうにか不味くはないけど美味くもないくらいにはなっている。

ぶっちゃけ微っ妙ーなレベルですが、脂質と糖質(炭水化物)とビタミンが一挙に取れるんで、正直味とか二の次なんですよねー。

むしろ、ついでに作ったドングリコーヒーの方が私的には重要でした。あとタンポポコーヒー。

そこらに自生してるハーブ摘んで干して、スパイス兼ハーブティ作っちゃいるけど、カフェインレスの代用でも、あえて言おう、コーヒーであると!


 日が傾きだしたら残りの肉と果物を食べ、帰り支度をして風穴の出入口を木の枝でふさぎ、日が暮れる前に屋敷に帰る。

帰ったら帰ったで、屋根裏部屋で残り湯が使える時間まで瞑想して、残り湯使ってついでに洗濯して、屋根裏部屋に戻って隅っこに干して寝る。

ベッドはあるけど、使用人部屋の中古品の更にお下がり(私の服も使用人の着古しだ)なので、マットは硬いし、所々擦り切れてるペラい毛布は、ヨハンナさんがいた時は二枚使えたけど、私一人になったら一枚にされたのでなかなか厳しい。

これはアレか、虐待からの生還本でも書けってか。全米が涙した真実の物語的な。

せめてもの救いは、サヴィニャック家の所領が、一年を通して温暖な気候の王国南部にあることだろう。これが北部だったら私の生命がマッハでピンチだ。


 大体そんな感じで一日を過ごしているので、サヴィニャック子爵夫妻と異母姉妹がどーいう人物か、顔形すら今一よう分からんです。まあ、向こうも見たかないでしょうからねー、サヴィニャック子爵婿養子らしいし。


 奥方様ご懐妊でヤることヤれずに女中に手を出したらこっちも大当たり、のパターンかと思ってたんですが、奥方様ご懐妊前から手ぇ出してた模様。つうか、若くてちょっと小奇麗な女中は基本“お手付き”とか、やるな婿養子。

母が私を身籠って半年後に奥方様がご懐妊なんで、奥方様と致せないんで女中に手を出したお約束とは逆だから、ある意味斬新なパターンじゃね? これ。

つーことはヒロインちゃんは異母妹になる訳か。


 じゃなくてだな。

私はどうやらサヴィニャック子爵にはこれっぽっちも似ておらず、ヨハンナさんが言うには「祖父似の凛々しい顔立ち」だそうで、今の今まで生きてこられたのも、父との血縁を示す要素が見当たらないからではないか、なんて思ってみたり。


 外観としては、ヨハンナさん譲りの癖のない黒髪、瞳孔の周辺に、やや不定形な円環状の鈍色が入った薄い氷青色の、セントラル・ヘテロクロミアの繊細? 可憐? 儚げ? 何それ食えるの美味しいの? みたいな、幼いながらも力強さを内包した獰猛さが垣間見える三白眼の、鋭利な目鼻立ちが印象的なショタっ子です。

ロリっ子じゃありません。ショタっ子です。男の娘ならぬ少女の少年です。


 ……うん、市川鷹ぜんせでもそうだったっけなー。

日本人離れした長身と彫り深めな顔立ちが、凛々しくも雄々しいじさまによく似て男前だと、よく言われました、親戚一同から。

学校の制服姿は女装呼ばわり、近所の女子校の子どころか、共学だっつのに自校の後輩から手紙だのチョコレートだのを渡され、私服でデパートとかPAとかの女子トイレに入れば痴漢扱い……あれ、何だろう、前がよく見えないや……って戻ってこい私、それは思い出したらあかんやつや……!


 そんなこんなで、当面は体の基礎作りに専念し、ある程度体が出来たら片手剣・両手剣・短剣・槍・弓・杖・短杖・斧・鎚と甲冑組手術の基礎練を少しずつ取り入れ、十歳の誕生日までにはある程度モノにして、家を出られるようにしたいと考えてる。


 何故に十歳かと言うと、ヴェルヴェリア大陸には冒険者ギルドなるものがあり、十歳になれば冒険者登録ができるらしい、からだ。

これは、孤児や貧民窟の無戸籍児に対するセーフティネットみたいなものなのだろう。庇護それが建前であっても、後見人の庇護下で登録した十歳未満の子供も、十歳になった時点で登録しなおすことができる、らしい。

後見人の庇護下にあるが、後見人から虐待や搾取を受けている場合はギルドが後見人になるので、産業革命下の大英帝国や第三世界の児童労働者みたいなことにはなかなかならないとか。

侮り難し、剣と魔法の世界の社会保障。もっとも医療保険と国民年金はありません。

でも、医療費払えないから病院の裏口から患者が放り出される、なーんてこたないから安心だね!


 ちなみに、そこらもヨハンナさんから聞いた話でございます。

御伽噺のついでに、ちょろっと聞いた限りだったけど、結構熱心に話してくれましたっけ。


 まずは十歳の誕生日、その日を迎えるまで、強く雄々しく逞しく、雑草のようにしぶとく図太く生きようと思います。

いよいよ乙女ゲーム世界に転生した意味を失ってきます。

Q.どこに行く気だお前は……。

A.最終人型決戦兵器の領域ですが、何か。


……新しいなお前の乙女ゲーム!


※5月30日 内容含めて一部修正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ