魔法少女☆トンカラトン
トン トン トンカラ トン
トン トン トンカラ トン
トン トン トンカラ トン
どこからか奇妙なリズムで『トン、トン、トンカラトン』と歌う男の声が聞こえる。
その声に気付いたのは、月明かりが煌々と照らす夜道を歩く女の子だ。
10歳くらいだろうか。
午前1時になろうかという時刻に彼女は一人で歩いていた。
しかし、その女の子もまた奇妙な格好をしている。
黒いローブにトンガリ帽子、そして目を覆い隠すような長い前髪。
彼女は自称、魔法少女だった。
☆☆☆
次第に『トン、トン、トンカラトン』という歌声が大きくなってきた。
どうやら奇妙な歌の出所は、前から自転車を漕いできた男のようだ。
この自転車を漕ぐ男も奇妙な格好をしている。
全身、包帯をグルグルに巻き付け、背中には日本刀を背負っているのだ。
男は、妖怪『トンカラトン』
彼の「トンカラトンと言え」という言葉に従わない者は、背中の日本刀で斬り殺されてしまう。
☆☆☆
魔法少女の目の前でトンカラトンは自転車を停めると、腹の底に響くような低い低い声で言った。
「トンカラトンと言――」
「うわっ!臭っ!アンタ臭いんだけど!」
トンカラトンの言葉を遮るように、魔法少女は鼻をつまみながら声を上げた。
長い前髪で表情は窺い知れないが、彼女の眉間には深い皺が浮かんでいる事だろう。
それほど、嫌そうな声だった。
「包帯野郎だとは知ってたけどマジ臭すぎ!浮浪者かっての!……っと!」
捲し立てるように罵倒する魔法少女に対し、トンカラトンは音も無く刀を抜いて袈裟切りするように振り下ろした。
それを後ろへ跳んで回避しながら、魔法少女は「金生水」と魔法を唱える。
金属を水に変える呪術だ。
しかし、トンカラトンの日本刀に変化はなかった。
追撃を仕掛けるように、自転車からトンカラトンが高く跳躍した。
空中で日本刀を上段に構え、落下に合わせて振り下ろす。
「キモいから近づかないでよ!」と悪態をつきながらも、横に転がるようにして避ける魔法少女。
ギンッと嫌な音を立てながら、日本刀がアスファルトの地面を深く抉った。
回避行動をとらなければ、魔法少女は文字通り一刀両断されていたことだろう。
それほど重い一撃だった。
☆☆☆
着地した体勢から、ゆっくりと立ち上がりながら日本刀を中段に構えるトンカラトン。
魔法少女も回避した際に脱げてしまったトンガリ帽子を拾いながら立ち上がった。
「……何者だ」
刀を構えた状態で、トンカラトンが訊いた。
過去に、これほどまで抵抗できた者はいない。
その事実が魔法少女に対する興味を生んだのだろうか。
「は?なに、ナンパ?ロリコン?」
鼻で笑うように答えると、魔法少女はトンガリ帽子を右手で構えながら魔法を唱える。
――魔法の杖(マジカル☆ステッキ)
グニャリと帽子が溶けるように歪んだかと思えば、次の瞬間には杖に変わっていた。
木製の杖である。
しかし、それは老人が歩行の補助に使うような杖だった。
☆☆☆
最初に動いたのは魔法少女だ。
とん、と地を蹴り一瞬で間合いを詰めると、杖を薙いだ。
トンカラトンがそれを日本刀で受けると同時に魔法を唱える。
――木侮金
金属を木で打ち破る呪術だ。
だが、それを唱え終える前にトンカラトンは後ろへ飛び退き、日本刀が破壊されるのを防いだ。
「……チッ」
舌打ちしながらも、さらに歩を進めて再度間合いを詰め直す魔法少女。
――木生火
――比和
一つ目の呪文で杖が炎に包まれ、二つ目の呪文で炎の勢いが強まる。
それをトンカラトンの胴体めがけて突き出した。
☆☆☆
なぜだ?
それがトンカラトンに浮かんだ疑問だった。
彼女が燃える杖を右手で突き出しながら、空いた左手で指を鳴らしたのは分かった。
しかし、その瞬間身体が動かなくなったのだ。
その結果、杖は胸に深々と突き刺さり、炎が包帯を伝って全身を包んでいる。
凄まじい痛みが全身を駆け巡るが、声すらも上げられない。
トンカラトンは妖怪だ。
人間と違い、この程度では死ねない。
少女が口端を歪めながら、いつの間にか落としてしまった日本刀を拾うのが見える。
トンカラトンは本能的に恐怖した。
☆☆☆
燃えるトンカラトンを日本刀で突き刺し、肉を抉り、腹を一文字に斬りつけ、蹴りつけ、地面に倒れても踏みつけ続けていた魔法少女も、やがて飽きたのか暴行を止めた。
いつしか炎は消えている。
「ふぅ、やっぱり無抵抗で声も出さない奴はつまんないわ」
かろうじて人の形を保っているトンカラトンを見下ろしながら呟く。
『つまんない』と言いながらも、彼女の頬は紅く染まり、相変わらず嗜虐的な笑みを浮かべている。
「そろそろ、いただこうかしらね」
魔法少女は虫の息のトンカラトンの上に馬乗りのように跨ると、とある呪文を唱えた。
☆☆☆
上気した顔で魔法少女が腰を上げると、トンカラトンは消えていた。
彼の日本刀も、乗っていた自転車も消えている。
「きゃは!」
魔法少女は満足したように小さく笑うと、闇夜に溶け込むように歩き去って行った。




