【8】
アタシは今日、「大切なこと」とだけ聞いて、シュミエル様に呼ばれていた。
ちょっと待っててくれ、といわれ、現在シュミエル様の部屋の前。
さっき見知らぬ男がシュミエル様の部屋に入っていったが、新しいギルドメンバーだろうか。
「まだかなぁ…」
私は首にある、紅とのお揃いのアクセサリーに目を落とした。
紅は私のパートナーであり、片想い中の人である。
「入ってきてくれ。」
突然シュミエル様の声がした。
失礼します と言いながら入った部屋には、シュミエル様、その護衛、さっき入っていった真っ白な鎧や剣、そして真っ赤なマントを見にまとった男がいた。
「シュミエル様、お呼びでしょうか。」
シュミエル様はとても嫌そうな顔をした。
「お前はいつになったら敬語を止められるんだ?」
「私がシュミエル様に敬語を使わなくなるのは一生あり得ないでしょう。何せシュミエル様は…」
あの英雄ですから。と言おうとしたところで止められる。
「やめてくれ、依留佳。昔のことだろう?あれはもう思い出したくもない!」
しばらくの沈黙の後、シュミエル様が口を開く。
「話がずれたな。依留佳、今日からお前は霊夜君のパートナーだ。紅君には私が伝えておこう。」
アタシは狂いそうになった。
紅から私を離してこの見知らぬ男と組ませる?そんなの嫌だ。アタシは紅と一緒にいることで今までこの狂った世界を切り抜けてきた。
紅がいなければアタシは無力なただの女だ。
私はシュミエル様に反論をだす。
「シュミエル様!お待ち下さい!紅のパートナーはどうするのですか!?」
アタシの反論にたいしてシュミエル様は真顔で答える。
「紅君には新しいパートナーをつける。ということで、霊夜君、君のパートナーはこの依留佳だ。よろしくたのむ。」
霊夜と言う男は紅とは真逆の情けない声を出す。
「は、はぁ…よろしくおねがいします…」
アタシはもう反論できず、シュミエル様に従うしか出来なかった。
アタシはありったけの憎しみを込めて言った。
「よろしくおねがいします。けれど、足手まといになったら許しませんから!」
アタシは紅とのパートナーを指を震わせながら解除し、霊夜にパートナー申請を送る。
霊夜も躊躇う素振りをみせつつ、OKボタンにふれた。
「よし、これから二人は常に一緒に行動してもらう。依留佳、霊夜君は昨日ギルドに入ったばかりだから色々教えてやれ。」
アタシは素直にしたがった。
「分かりました…シュミエル様。」
アタシは霊夜をつれてNPCレストランに来ていた。
長い沈黙で、先に口を開いたのは霊夜だった。
「なぁ依留佳…」
アタシはカチンときた。
「いきなり呼び捨て?まぁ、べつにいいけどさ…」
アタシはもう怒る気力さえ失っていた。
長いため息をつく。
「依留佳、なにかあったのか?」
アタシの中でなにかが切れた。
「なにかあったかって?ふざけるんじゃないわよ!あんたのせいでアタシは紅と離された!あんたさえこのギルドに入ってこなかったら、アタシはまだ紅のところにいたのよ!」
こんなに怒り、泣いたのは初めてだった。それほどアタシの紅への思いは強かった。
これだけ怒ったのに霊夜はまだ質問を重ねてくる。
「こんなこと聞くようで悪いけどさ…紅って人、どこにいるんだ?」
アタシは我慢できなかった。
「なんであんたにおしえなきゃいけないの?教えてもらってどうするの?」
口を開けて呆然とする彼に向かって私はまだ怒鳴り続ける。
「紅に会いに行く?行ってどうする?…ねぇ、答えなさいよ!アタシは貴方となんて組みたくなかった。けれど、シュミエル様の命令だから仕方なく従ったわ。貴方はどうなの?こんなに短気なアタシと組みたい?」
怒り続けるアタシに、霊夜は謝り続けた。
「ごめん…俺が馬鹿だった。けど俺は君と組んで後悔はしてないよ。」
霊夜はそれだけいうと再び黙った。
アタシはなぜここでパートナーを解除して紅の元へ走らなかったのか。霊夜から離れていればアタシは後で後悔することは無かったのだ。