第十一話:魔王の焦りと、不器用な刺客
海の向こう、禍々しい雲に覆われた『魔王城』。
玉座に座る魔王は、偵察兵からの報告書を読み上げながら、額に青筋を立てて震えていました。
「……砂漠を森に、凍土を楽園にだと? ふざけるな! 我が魔界は『不毛で過酷な環境』こそが美徳! もしあの小僧がここに来て、魔界を花畑にでも変えてみろ……魔王としての威厳が丸潰れではないか!」
魔王は危機感を募らせ、傍らに控える腹心の美少女悪魔、リリスを呼び寄せました。
「リリスよ。貴様に特命を与える。その少年の正体を探り、可能ならば……その『耕す力』を封じよ。……いいか、絶対に魔界を耕させるなよ!」
「御意、魔王様。このリリスにお任せを。甘い誘惑で、その少年の魂を闇に堕として差し上げましょう」
凛、魔界の入り口(?)で迷子になる
一方、ドワーフの国を救った凛たちは、次なる「困っている人」を探して旅を続けていました。
「うーん、なんだか急に空が暗くなってきたね。紅、この先に村があるかな?」
「あるじ、ここからは魔気が漂っています。おそらく魔族の領土に近いかと……」
「魔族の人たちも、きっとお腹を空かせているよね。あ、誰か倒れてる!」
道の真ん中で、リリスが「行き倒れの美少女」を装って倒れていました。
(……ふふ、来たわね。この可憐な姿を見れば、どんな男も駆け寄って抱き起こし、私の術中に……)
「大丈夫ですか!? 今、助けますからね!」
凛は全力で駆け寄りました。あまりに速すぎて、リリスの視界からは一瞬、凛が消えたように見えました。
「わわっ!?(速すぎるわよ、何なのこの子!?)」
次の瞬間、凛はリリスの体をヒョイと抱き上げました。
リリスは驚きました。自分の体は悪魔の魔力で守られ、本来ならヒューマンには持ち上げられないほど「重い(魔力の質量)」はず。しかし、凛はそれを羽毛のように軽く抱き上げたのです。
「顔色が悪いですよ……。えいっ!」
凛は、自分にできる唯一の癒やし(だと思っている)、**『無限の生命力(お節介)』**をリリスに流し込みました。
カァァァァァッ!!
「な……なに、これ!? 体が、体が熱いっ!? 闇の魔力が、どんどん純粋な聖なる魔力に書き換えられていくぅぅ!?」
リリスの体内で、彼女が数百年かけて練り上げた邪悪な魔力が、凛の「お見舞い」によって一瞬でキラキラと輝く聖なる力へと浄化されていきました。
失敗した誘惑、始まったおもてなし
「……はぁ、はぁ。な、何をしたのよ、あんた……」
リリスがフラフラと立ち上がると、そこには凛がニコニコしながら、どこからか取り出した「ドワーフの国特産・黄金ジャガイモ」を差し出していました。
「これ、食べて元気出してください! 僕にできるのは、これくらいですけど」
「……(毒? 呪いのアイテム? いえ、なんて神々しい香りのイモなの……)」
空腹には勝てず、リリスが一口かじると、脳内に宇宙が広がりました。
あまりの美味しさと、凛から溢れる圧倒的な「善意」のオーラに、彼女の戦意は粉々に砕け散りました。
「……おいしい。……じゃなくて! 私はあんたを調査しに来たんだからね!」
「調査? へぇ、熱心な学生さんなのかな。僕のことなら何でも聞いてください! 一緒にジャガイモ食べながら話しましょう」
リリスの背後では、紅が「殺気を隠しきれない笑顔」で、クラリスが「新しい信者候補を見る冷徹な瞳」で、レオンが「また被害者が増えた……」という同情の眼差しで彼女を見つめていました。
女神の独り言
「凛……。魔王軍の幹部を『学生さん』と勘違いして、ジャガイモで餌付けしましたね。リリスさんの魔力、今や完全に『天使』の属性に変わっていますよ。魔王城に帰ったら、門前払いされること間違いなしです」
「リリスさんも、一緒に困った人を助けに行きませんか? 楽しいですよ!」
「……っ、仕方ないわね! 監視のためよ、監視のためについて行ってあげるわ!」
こうして、パーティーには**「元・悪魔(現・ジャガイモ中毒の迷子)」**が加わりました。




