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次の人生では、絶対に死にません。  作者: 真夜中20時


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異世界の味はバター味

身支度が終わり、私は鏡を見た。

やっぱり、綺麗。かわいいじゃなく綺麗という言葉が似あうのがオリビアだった。


夜を抱いたような純黒の髪と、心の奥を覗くような落ち着いた金の瞳が、鏡の中で静かにこちらを見つめていた。

何時間でも見ていられる。いや、目を離したくない。


「オリビア様、朝食のお時間ですよ。鏡に何かついていたのでしょうか?」


「え、ええ。それじゃあ、いきましょうか。」


緊張する。だって、ほかの家族の中にこっそり入ってばれないかとか、いろんな不安が押し寄せてくるんだもん。

別に、オリビアになったことに罪悪感を覚えてはいない。


ただ、もし私が現実世界に帰ることとなったとき、オリビアには今までよりもいい環境にいてほしい。


長い廊下を渡り切った先には赤い扉があった。

扉の近くでは執事が二人、ドアの前で待っている。


執事は軽く会釈をすると、扉をゆっくり開けた。


扉が開いた瞬間、空気が変わった。

とても暖かい雰囲気だった。日差しで部屋がより美しく輝く。


一番最初に入ったときに目に入ったのは大きなシャンデリアだった。

そして、高級感のある赤色のカーペットの上に長机が置いてある。


私の家族たちはすでに集合していた。

緊張してきて逃げたくなってきた。


ちゃんとマナーできたっけ、私。

まずい。そんな、うまくできる自信ない。


「おはようございます。」


私は家族に挨拶する。

父はわずかに眉を上げ、私に視線を向けた。

母は静かにカップを置き、微笑みながら席を少し空けてくれる。

兄はナイフを置き、椅子にもたれて「遅かったな」とぼそりと呟く。


妹だけが、私の袖をそっと握って、にこっと笑った。


「すみません。メイドが無礼な態度をとっていて、ちょっと躾をしていたら遅くなってしまいましたわ。」


「そんなこと俺に任せて、次から早くご飯に来い。」


兄が少しめんどくさそうに注意する。


「今度から気をつけなさい。」


父も少し忠告を。


そして、妹は袖をつかんで「大丈夫だった?」と聞いてくる。

いや、かわいいな。天使かよ。天使で最高とか満点です。


「何もなかったわ。心配してくれてありがとう、ティア。」


私はそっと微笑み返す。


「さあ、冷めちゃう前にいただきましょうか。」


この気まずい空間を変えてくれる母ナイスすぎ。


私の家族は父フレドリク、母エレオノーラ、兄ファビアン、妹アティア、

そして私オリビアからなるフェルセン侯爵家である。


侯爵とは、貴族の位だ。

上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順に偉いのである。

つまり、私は王族と公爵にだけ媚びを売ればいいというわけである。


朝食はとてもおいしかった。


焼きたてのパンの香ばしい香りが、まだほんのりと湯気を立てながら鼻先をくすぐる。

そのパンに、銀のナイフで丁寧にすくったバターをのせると、じわりと溶けていく。


ひと口かじると、外はさくっと軽く、中はふんわりと温かい。

バターの塩気とミルクの甘みがじゅわっと広がって、思わず目を細めてしまった。


ああ、これが貴族の朝食ってやつか。

前の世界では、コンビニの菓子パンをかじりながら駅へ走ってたのに。

今は、まるで夢の中にいるみたいだ。


銀の食器に盛られた果物は、まるで宝石のように輝いていた。

熟れたイチジクの甘い香り、薄くスライスされた洋梨の瑞々しさ、そしてほんのり酸味のある赤いベリー。


どれも、口に入れるたびに「これは現実か?」と疑いたくなるほど美味しかった。


ああ、食った食った。

礼儀作法とかどうしようとか考えていたが、そこらへんはうまくできた。

体が覚えていたのだろう。まさかこれが私のチート能力なのか? ちょっとしょぼいな。


さて、部屋でごろごろしますか。


私がナプキンを静かにたたみ、椅子から立ち上がったその瞬間、後ろにいたメイド長が丁寧に告げる。


「オリビア様、今日は午後から舞踏会の準備がございます。衣装合わせと髪型の打ち合わせがございますので、昼食後にサロンへお越しくださいませ。」


舞踏会か。そうだった。

今日の夜は、貴族たちが集まる社交の場。

つまり、私が“オリビア”として振る舞わなければならない最大の試練。


「わかりました。準備しておきます。」


声が震えないように、ゆっくりと返事をする。

母が私の様子を見て、ふっと微笑んだ。


「緊張しなくても大丈夫よ。あなたは、いつも通りでいいの。」


その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。

そうだ、私は“オリビア”なのだ。今だけでも、完璧に演じきらなければ。


「ティア、あなたも今日はドレスを着るのよ。楽しみね。」


母が妹に話しかけると、ティアはぱっと顔を輝かせた。


「うん! オリビア姉さまと一緒に踊れるかな?」


「もちろんよ。あなたが一番素敵なパートナーになるわ。」


そう言って、ティアの髪をそっと撫でる。

ああ、こんな日々がずっと続いてほしかったな、オリビアには。


それにしても、舞踏会か。

オリビアの経験ではあまりいい思い出がある舞踏会は少ないが、今回は大丈夫だよね?

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