メイドを断罪した
確かこの子の名前はミラ?だったか。
オリビアの家でも休憩できなくてつらいという感情を埋め込んだやつ。
じゃあ、どうわからせるかというのが重要になる。
そう考えていると、
「何ぼーっとつったってるんですか?ほら、早く起きろ!!」
ああ、もうプッチン来た。その態度はメイドかとすら疑わせる。
「ねえ、あなたって私のメイドよね?」
「ええ、そうですが?……頭までおかしくなったんですか?まあ、元からかもしれませんけど」
すると、メイドが水を運んできて私にかける。
「あら。ごめんなさい。手が滑っちゃって。聖女様ならこれくらい許してくれますよね?」
メイドが笑いながら謝る。本当に心から吐き気がする。
あげくのはてに私の体を叩かれる始末。
顔、腕、足以外ならいいと思ってるのだろう。
オリビアがなにも言わないことをいいことに。
わたしは、オリビアの神聖魔法を使う。
りお。神聖魔法で私をフル強化しちゃって。
『了解しました。聖女の固有魔法・バフを発動します。』
私は淡い光に包まれる。
「じゃあ、私のメイドだから罰……与えていいよね?」
小声で私の中のオリビアに聞く。オリビアの意識はないかもしれないが。
「ねえ、確かさあ。ミラって弟いるんでしょ?」
「だ、だからなに?」
「いや、貴族に危害を加えたら極刑でしょ?
だからさあ、弟の視力を奪うか、自分が犠牲になるか。選びなさい」
「そ、そんなこと許されると思ってるわけ?みんなから酷いこと言われるだけだよ?」
「許されるよ。ねえ?どんな気持ち?
お前の弟、あんたのせいで大変な目にあっちゃうよ?
ほーら、もっと笑顔見せてよ。いっつも言ってたじゃん。
“これは愛です。だからもっと笑ってください”って。ねえ?」
そんな絶望の顔見せないでよ。
こっちが悪いみたいじゃん。
ミラは目をきょろきょろさせて動揺していた。
「被害者面すんなって。ほら、もっとその顔見せてよ。
せっかくの面白い表情が台無しじゃん。」
胸の奥が熱くなる。
誰かに見てもらえている気がした。
その絶望の顔で、私の中のオリビアが喜んでくれると嬉しいなあ。
ねえ、オリビア。
私が、全員復讐してあげる。
弟のために働いているミラ。
だからこそ、弟を盾にされると崩れる。
「すみません。すみません。」
「聞こえないって。何が悪いと思ってるの?」
「いじめてすみません。」
「じゃあさ、一回働きみたいからさ。
顔洗うためのお水持ってきてよ。
そしたら考えを改めるからさ」
「は、はい!今すぐ持ってきます!」
そう言い残して走っていった。
この子は逃げない自信があった。
だって逃げたら、ただ一人の弟がなにをされるかわからないという恐怖にとらわれてるから。
今頃、安心してるんだろうなあ。
顔を触ると、口角があがっていた。
ミラが戻ってくるのは案外早かった。
「お嬢様、ただいま持ってきました。」
「ありがとう。」
水に触ると、水温はちょうど40度くらいか。
いつもは冷たい水なのに、調子のいいやつだ。
ねえ、りお。こいつにとびきりのデバフをかけること、できる?
『解析終了。デバフを使用できるようになりました。』
「じゃあさ、とびきりのデバフかけてよ。気絶するくらいの。」
『了解しました。デバフを多重発動します。』
次の瞬間、ミラは気絶した。
デバフがかかりすぎて、脳がパニックになったのだ。
ミラの顔面を思いっきり叩きながら、
「おはよう、ミラ。いい夢見れた?」
「え?なにを……か、体がっ動かない?」
ミラは椅子に縛りつけていたのだ。
体が動かないで、なにかされるかもしれない。
その恐怖が伝わってきて、わたしはいいことをしたように感じた。
「りお、しゃべれないようにして。」
『了解しました。口、喉にスタンをかけ続けます。』
神聖力の消費は激しいらしいが、オリビアはほぼ無限といっていいくらいの神聖力をもっていた。
「ねえ、実は私オリビアじゃないの。
あなたがいじめたからね、こんなことになったんだよ?
ねえどんな気持ち?あ、言ってもしゃべれなかったね。
じゃあ、さっさと始めようか。」
私はミラが持ってきた水を手に取る。
「やっぱり顔洗わないとね?」
ミラの髪をつかんで、水の中に沈めた。
ミラが顔を上げようと抵抗しているのが伝わってくる。
抵抗する力がなくなった瞬間、少したって引き上げる。
「あー、意識なくなっちゃったか。また起こさないと。」
意識が戻らない間、痛みを与え続けた。
これを、繰り返す。
20分くらいたったころだろうか。
「自ら死なせてほしい」
と懇願してきた。
——うーん、このまんまだと7時の朝ごはんに間に合わないな。
そうだ、りお。魂壊すことできるよね?
確か、前聖女は魂をつかさどるって言ってた。
『はい。聖女は魂に関連する魔法を使うこともできます。』
そういうことなら話が早い。
りお、ミラの魂破壊して。
『了解しました。ソウルブレイクを発動します。』
「私って優しいでしょ?
いじめたあなたの望みを叶えてあげるの。じゃあ、バイバイ。ミラ。」
ミラの全身が青白く光った。
ミラはとても焦っていた。
なにかが始まると気づいたのだろう。
全力でくねくねしてもがいていた。
やっぱり第六感ってあるじゃん。
急にその抵抗が止まり、ミラは廃人のように動かなくなった。
まだ心臓は動いている。
動かなくなったミラを椅子から解放して床に寝せた。
やっぱりチャンスは……上げないとな。
「りお、魂の蘇生もできるでしょ?」
『私たちが一度触れたことがある魂なら蘇生が可能です。』
このまんま蘇生しても大して変わらない気がする。
そうだ、魂を少し改造するしかない。
命をこっちは700回くらい落としてるんだ。
せめて、それくらいは許してほしいものだ。
「りお、こいつの人格を強制的に変えたい。
そうだな……この子が、仕事にまじめで責任感があって、
そしてほかの人を思いやれる子になってほしい。
あと、この拷問の記憶と今までいじめていた記憶は改ざんして。
ちょうどいい風に。他は、変えないで。」
『了解しました。ソウルクリエイトを発動します。』
この子にもチャンスをあげたい。そう思った。
たしかにオリビアは死んだ。
こいつも原因の一人だ。
それは許せることではない。
だが、みんなにもチャンスは平等にあるべきだ。
私が復活したように、ミラももう一回次の人生を頑張ってほしい。
ミラの体が黄色く光った。
そして次の瞬間、ミラはなにごともなかったように動き出した。
「え?私、オリビア様の部屋で寝てたんですか?すみません!」
私は、変わってしまったミラを見て少し怖く感じた。
魂を操るということはいろいろな漫画とかで禁忌とされているが、
その理由がわかる気がした。
「もう、おっちょこちょいだな。ミラは。もうこんな時間よ?」
時計はもう6時半を指していた。
朝食まであと三十分である。
「いけない。急ぎますね!ここにちょうど暖かい水が。
でも、なんか濁ってますね。新しくついできます。」
ミラが部屋を出て行く音が静かに遠ざかる。
その音が聞こえなくなったとき、私は深く息を吐いた。
手のひらが震えている。
光の粒がまだ指先に残っていた。
『……これで良かったのですか?』
りおの声は、機械的な響きではなく、どこか人間めいていた。
「わからない。」
口から漏れたその言葉は、思っていた以上に重たかった。
「正しいかなんて、関係ない。
ただ、オリビアの代わりに何かを終わらせたかった。それだけ。」
外では朝日が昇り始めていた。
窓を透ける光が、床に薄い金の帯を作っている。
聖女の力は世界を癒すのに、私の心はとても冷たかった。
『あなたの行動は矛盾しています。
慈悲と破壊、どちらも選んだ。』
「……そうね。でも、あの子にも純粋な気持ちはあったはず。多分、これでいいのよ。」
私は微笑んだ。
ミラの笑顔を思い出す。
あれが本当の笑顔か、それとも私が作った笑顔かはわからない。
でも、少なくとも——もうひとりのオリビアはそれを見届けた。
秒針がひとつ進むたび、静寂が増していく。
それでも、私は少しだけ安心していた。
たとえ偽りでも、やり直しを与えることができたのなら。
それは、きっと救いのかたちのひとつだと信じたい。




