二重重ねは聞いてないって
さて、この状況をどう打開しよう。
馬車のドアから降りる。
降りた瞬間、断頭台までの景色が一直線に広がっていた。
まるで私が駅伝ランナーみたいに、観客が見ている。
まあ、私はこの景色に慣れているが。
観客というのは、平民たちだろう。
いつも見下している貴族が無様な死に様を見せるのか、期待しているのだろう。
私は馬車から降ろされ、一歩一歩踏み出している。
あれ?ちゃんと歩けてるかな。
緊張しすぎて、歩くという行為でさえ忘れそうだ。
罵詈雑言が飛んでくる。
あぁ。うるさいなあ。
とか思っていると、私は急にしゃがんだ。
すると、さっき頭があったはずのところに卵が投げられていた。
もしそのまま歩いていたら、卵が当たっていただろう。
しかも腐っている卵だ。
これを毎回くらいながら処刑されるのは、どれだけイラついたことか。
私は投げたやつをにらむ。
初めて、二年間私の顔面に腐った卵を投げたやつの顔が見れた。
五十くらいのデブの男だった。
リアル魔人ブウだ。
死んだら天国で、あの魔人ブウが地獄に落ちろって祈ろう。
覚えとけよ?
なんてことを思っているうちに、もう断頭台についてしまった。
やっばい。なにも考えてない。
……よし、これは夢なことに賭けよう。
――いや、なんで動くんだ?
これ……夢じゃ、ないやつだ。
私には後ろに手錠をかけられていた。
首には逃げられないように首輪をつけられ、前の兵士に引っ張られている。
思いっきり首を後ろに引っ張ったらワンチャンあるか?
そうして、後ろに逃げるんだ。
脱走ルートのために後ろを振り返ると、
騎士が二人、すごい形相でついてきていた。
あ、逃げちゃいけないやつですよね?
逃げたらその槍でぷすっと刺しちゃうやつですよね……?
絶対痛いやつだよね。
……やめとこ。
私はいつも夢の中で後ろに誰かいるとは思っていたけど、
振り返れなかったから、こんな騎士がいるとは知らなかったのだ。
つまり私は――騎士三人に囲まれ、首輪・手錠までつけられ、
逃げることはほぼ不可能だということがわかっちゃったのである。
うん、詰んだ。
そして、断頭台に上がる。
「オリビア・フェルセン。しゃがめ。」
私はうなずいてしゃがむ。
罪人だからって乱暴に扱わないのが武士道ってやつなのか。
一気に頭をつかんでルネットに首をはめることだってできたはずなのに。
私は兵士に頭を軽く触られ、ルネットに首をはめられる。
そして罪状が読まれる。
「罪人、オリビア・フェルセン。
神託を偽り、十年ものあいだ聖女だと騙し、民をも欺いた。
その罪は、神への冒涜だとみなす。
よって、王国法第七条四項より死刑を言い渡す。」
重く響く鐘の音が、空を切り裂くように鳴り渡った。
集まった民衆の間に、低いざわめきが広がる。
ギロチンの紐を兵士が切っている。
その振動が首元へと伝わる。
この瞬間だけは、やっぱりいつになっても慣れない。
私は叫んだ。
「次は金持ちで性格のいいイケメンと付き合いたーい!」
――やけくそだ。
せめてこれくらいはしよう。
まずはありがとう。
そして、グッバイ新しき人生。
すると、ギロチンの刃の代わりに高い鐘の音が鳴った。
その瞬間、音がなくなった。
さっきまでうるさかった民衆の声も、すっかり聞こえない。
みんな止まっていた。
空中の鳥でさえ、飛んだまま静止している。
やはり、時間停止は重力を無視するのがお決まりなのか。
すると、目の前にウィンドウが現れる。
『——ようこそ、高崎りお。異世界へようこそ。
あなたには、その体の少女を救うというミッションをしてほしいのです。
成功すれば、あなの望む未来を与えましょう。
私は時間がありません。そのかわり、あなたには成長加速のためのシステムを用意しました。
何卒お願いします。』
突然、ウィンドウが消える。
は?言いたいことだけ言っただけか?
私の名前知ってるなら、お前の名前を教えるのが当たり前だろ。
ぷんぷんに怒っていると、再びシステムが現れる。
『時間移動を開始します。気を付けてください。』
私の体は光で包まれた。
こいつ、また言いたいことだけ言いやがった。次は許さな、、
光がほどけて、糸のように空へと舞い上がっていった。
そして、気づけば断頭台から――豪華な寝室のベッドの上にいた。
うん。さっきまでとは、0と1くらいちがうな。
それよりも、転生×巻き戻しなんて、そんな二段重ねあり得ていいのか。
いや、だめだろ。普通に。
でも、ベッドの上はふかふかだし。
もう、考えても仕方ないな。
生きてるって最高。
せめて、今だけは断頭台の夢を見ませんように。




