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第8話

 ――公にはできぬ依頼を片付けた後は、泥臭い連中が集う場末の酒場で飲んで締める。

 それがコイコイとグツヮにとっては習慣、いや儀式のようなものだった。

 だが、その夜は違った。

 水を差すように近づいてきたのは、一人の男。

 髪を整髪料でオールバックに撫で付け、質のいいジャケットを纏った、どこかきっちりとした印象を与える人物であり、明らかにこの場には相応しくない。

 名乗りはせず、ただ机に魔道具を置き、依頼を持ちかける。

 最初は怪しさしかなかった。

 だが、次々と置かれる紙幣の束、束、束――。

 それは、目の色を変えるには十分すぎる報酬だった。

 象鼻の魔道具を弄んでいたコイコイに、男は片手で抱えられるほどの大きさの箱を手渡す。

 それは奇妙な箱だった。

 鉄の枠組みで補強された木箱――形は迷宮で発掘される宝箱そのもの。

 だが異様なのは外観である。

 箱全体を覆うように、精緻に彫り込まれた「手」の彫刻が、上下から箱を掴むように重なっていた。

 まるで封じ込めるかのように。だが同時に、開ける者を誘うようでもあった。

 その妖しさに、コイコイは背筋を冷やす感覚を覚えた。

 

「箱?」

「ソレの臭いを覚えろって渡されたんだ! そしたら、臭いはするがヤバそーなじいさんが出てきやがった!」

「爺だな、やっぱわざとか」


 ギルド(マスター)ほどの実力者が、二人組の杜撰な尾行に気付かないはずがない。

 案の定、尾行の標的は自分たちへと擦り付けられたのだろう。

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるディライトをよそに、ケインはコイコイへ視線を向け、淡々と問いかけた。

 

「列車へと乗ってですか? どこからにせよ、かなりの距離があると思いますが」

「前金ならたんまりもらってるからな。魔導列車乗るくらいわけねーぜ」

「俺がお前だったら、それ持って逃げるけどな。お前らが追ってた爺、|〈冒極〉のギルマスだよ」

「ギルマス? ……ギルド長か!? やっぱりハメやがったあのクソ野郎!」

「テルヲ長をご存知ないとは、三流もいいところですね」

「う、うるせ――ぐあッ」


 ケインの冷ややかな視線を受け、地に伏しながらも睨み返そうとしたコイコイ。

 だがその頭部に、さらに無慈悲な重みがのしかかる。

 呻き声を漏らすコイコイを見下ろしつつ、ディライトは黒幕の存在を問いただした。


「で、オールバックでM字ハゲが目立つおっさんって今どこいんの」

「ディライト君、世の中のおっさんが皆M字ハゲだと思わないでください」

「しるかよ――ぐッ! あ、あのクソ野郎とは、教会で落ち合う予定だったんだッ」


 なおも否定を貫こうとするコイコイに、さらなる制裁が加えられる。

 痛みに耐え切れず、ついに彼は魔道具を手に入れた後で落ち合うはずだった集合場所を吐き出した。


「教会? 中央区の聖堂じゃなくてか?」

「元、ですね。数年前に廃墟となった教会が町外れにあります。今は行く宛のない者たちの住処になっていますね」

「そこにいるってわけね。M字ハゲオールバック野郎が、箱とやらを持って」

「その箱、十中八九”魔匠”が制作したものでしょう」

「こっちから探す手間が省けたね。とりあえず、そいつに聞けば分かるでしょーよ。今の情勢が」


 ディライトとケインへとコイコイたちをけしかけ、魔道具を奪おうと暗躍する存在がいる。

 少なくとも〈冒極〉にとって敵であることは疑いようがなかった。


 そのオールバックの男が個人であれ組織の一員であれ、捕らえさえすれば魔匠の魔道具を狙う真意を聞き出せるはずだ。

 これ以上の情報は望めない――そう判断したディライトは、コイコイから足を離し、ケインへと視線を返した。

 つまり、その瞬間だけコイコイから目を逸らした。

 ゆえに、異変へと最初に気付いたのはケインだった。


「ディライト君!!」


 ケインの声が響いたのと同時に、ディライトの背後で魔力の“揺らぎ”が走った。

次話は明日22:30投稿です!

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