鬼灯
揺ら揺らと揺れる景色はまるでゆりかごのようだった。
その腰掛け板に座るにはやけにその腕はか細く、不釣り合いだった。
「本当にこのまま行ってしまっていいんですか?」
その男の子はニコリと微笑んでこう言った。
「ええ、お願いします。」
やけに儚い男の子だな、とそう思った。
「今まで僕は頑張ってきました。
塾、ピアノ、習字
親が言うことは何でもやってきました。」
「うん。」
「親に何と言われても頑張ってきました」
「うん。」
「親はいつも言うんです、お前は自慢の息子だと。」
「うん。」
「だから僕は思うんです、親に恥をかかせてはいけない、立派な親の息子らしく立派じゃないといけないなって」
「…うん。」
「親は、すごく僕の事を気にかけてくれるんです。
食事の時には学校の事について聞いてくれるんです。
僕は笑って友達の事を話すんです。
でも、笑うのに疲れたんです。
友達と遊ぶのにも疲れたんです。
もう、もう、何もしたくないんです。」
「…うん。」
そこまで男の子は一気に話したかと思うと、張り詰めた糸が切れるように、震え始めた。
そしてバッと手で顔を覆ってしまった。
肩が少し小刻みに震えるのは舟に乗っているからだけでは説明が付かないように思える。
「だから、だから、僕は、僕は。
痛かった。苦しかった。辛かった。寂しかった。
親と、一緒に居たかったんだ…。」
オールを止める。
「寂しいから、頑張ったんだね?」
返答は返ってこない。
まだ向こう岸には着いていない、まだ大丈夫だ。
「親に、ありがとうと伝えてきた?」
返答の代わりに首を横に振っている。
「まだ間に合うから、言ってきておいで。」
と言うのを最後に男の子は家に帰っていった。