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リア充の帰宅物語  作者: 絶望的メガネ
第一章 村と魔物と眼
8/13

万物を見通す眼

ジメジメとした森に似合わない真っ白なスーツを着た仮面の男がこちらを警戒しつつ一人づつ睨んでいる。

仮面の隙間から見える黄金の目には殺気を孕んでいるようにも思える。

今すぐこの場を離れなければいけないと脳が危険信号を出しているのに身体は一向に力が入らない。

本当に死を目の前にしている人間は何も出来ないと分かったとき力が入らないと聞く。

今、この状況はその言葉の通りだった。

するとハラバラが懐疑的な目で男を睨みつけながら一見呑気そうな質問を投げかける。


「お前、俺達になんの用があるダスか?」


男はそれでも無言を貫いている。

こちらの質問に答える気は無いらしい。

それどころかそのまま殺してしおうとしている勢いである。

その時、アラヴァルが手に持っていた剣を使い勇敢ーー否、無謀にも男に斬りかかる。

男は一瞬その黄金の目を光らせ、適切かつ最低限の動きで剣を躱した。

勢いを殺す対象を失ったアラヴァルはそのまま地面に激突した。


やるしかない、魔法を使えばみんなに見捨てられるかも知れない。異端として処刑されるかもしれない。

それでも俺は、みんなを信じたい。

勇気が沸かなかった時声をかけてくれたアラヴァルを、共通の趣味を持ち訓練を一層楽しませてくれたハラバラを。

俺は友を信じ声に意識を乗せて言葉を放つ。


「『止まれ』ッ!!」


仮面の男は一瞬黄金の瞳を見開き俺の魔法に驚いた。

俺はハラバラに合図を送ろうと隣を見たがそこにハラバラの姿は無い。

ハラバラを探そうと辺りを見渡してみてもハラバラの姿はない。

だがその時、何かを鈍器で強く打ちつけたような鈍い音が響いた。


反射的に仮面の男のいた方向ーー否、音の鳴っていた方向に視線を向けるとそこには男に鉄槌を豪快に打ちつけているハラバラの姿があった。

俺が合図をしなくともハラバラは男が動けなくなったことに気づいていたのだ。

俺は心の底からハラバラへ賞賛を送った。


「ナイスだ!ハラバラ!」

「当たり前ダス!」


すると転んでいたアラヴァルが透とハラバラの連携を見て居ても立っても居られなくなったらしく、剣を握りしめ立ち上がり、剣を仮面の男に振るった。

男は頭を手で擦りならいとも容易くアラヴァルの剣を避けて、隙のできたアラヴァルの鳩尾に拳をめり込ませた。

強い衝撃を打ち込まれたアラヴァルは軽く吹っ飛び木に打ち付けられ、意識を失う。


どうやら偶然不意打ちが成功しただけで男は相当な手練れらしい。

俺は背筋が凍る感覚を身体が強く感じ、怯えているのか足が竦んでいた。


「どうする?」


俺は気づけば考えるのを放棄しハラバラにすべてを押し付けていた。

そんな在り来りな質問を投げかけても何か進展があるはずもないのに。

それを理解していても口から零れていた。

だがハラバラは優しく「そうダスねぇ…」と話し始めた。


「こいつを"ぶっ飛ばす"ダスかねぇ…!」


「ッーーー!」


男は仮面をつけていても簡単に分かるほどに驚愕していた。

だがそれと同時に嘲笑もしている様に見えた。

こんなガキ二人に負ける訳がないと、そう感じたのだろう。

それでもハラバラが寄り添ってくれたんだ。

俺の我儘に。

やるしかない。


透は自分の掌に握り締められていた剣を更に強く握り、小さく決意をハラバラに伝えた。

それでも伝わっていたのかハラバラは透に対して優しく、そして強く頷いた。

するとその時初めて男が口を開いた。


「つまらんな」


男は心底呆れた様子だった。

だがそれは俺達からしたらチャンスだ。

こいつに一泡吹かせる為の重要なキーとなるだろう。

俺も体力がついてきた。

ある程度ならまだ魔法が使えるだろう。

俺は目でハラバラに合図し口を開く。


「『止まれ』ッ!!」


再度男の動きが止まる。

すぐにハラバラが動き、数百キロにも及ぶ鉄槌を振り下ろした。

身動きの取れない男は頭に直接衝撃を喰らったが、少しよろけるのみですぐに立ち直ってしまう。


「同じことの繰り返しだな」


明らかに効いていない。

厳密にはダメージは入っているが、戦闘不能にまでは至らない。

このまま消耗戦になっても負けるのは濃厚。

かといって一撃必殺も無い。

すると白いスーツの男が突然かしこまった様子でこちらに視線を送った。


「私は千里眼の使い手であり、七眼英傑(しちがんえいけつ)の五の眼担当の屈強なるドゥーベ・ルートヴィヒ様の右手。バイアス・シュトリークと申します。」


「どうした?急に自己紹介なんかしだして、命乞いでも始めるのか?」


透は相手にペースを持っていかれまいと必死にバイアスを煽った。

だがはたから見れば哀れだっただろう。

そしてその惨めな状況はバイアスの言葉により更に加速する。


「命乞い?そんな事はありませんよ」


透は少し嘲笑を含んだ言葉に苛立ちを覚える。


「私は生物を殺す前に懺悔の想いを込め自らの名を名乗るという習慣があるのでそれを遂行したまでです。」


その言葉により明らかに空気が変わる。

今迄がただの遊びだと思わせる程にバイアスの目付き、そして気迫が変わった。

それは俺達の勝利する未来を簡単に曇らせてしまう程であった。


透はその気迫に圧倒され声も出なくなってしまった。 

透の武器はその声だというのに。

するとハラバラが鬼気迫った様子で何かを語りかけているーー否、あれは叫んでいるという表現のが正しいだろう。


「げろ…に…ろ…」


あまり声が聞こえない。

もう少し大きい声で喋ってくれ。


気づけば眼の前には拳を振り下ろそうとしているバイアスの姿があった。

目に明らかな殺気を宿らせ迫ってくる様子は獲物を狩る虎と大差無い程にである。

透が死を覚悟したその時。

暖かい感触が頬を覆った。


「何呆けた面してんだ?敵前だぞ!」


そこには透を抱えバイアスの攻撃を避けたアラヴァルの姿があった。


「やはり自ら攻めに回るのはあまり良い手とは言えないか」


小さな声で何かを言うバイアスの声が聞こえたが、ひとまずは無視でいいだろう。

アラヴァルが目を覚ましたことにより構図が2対1から3対1になり、有利な状況を加速させた。

勝ち目が生まれたことにより透の目に光が宿る。


「ーーまだ勝てる…!」


希望を取り戻し、透は口を開いた。


「そういえば俺は名乗ってなかったな…!」


「興味の無いことだ」


「俺の名前は佐々波透だ!!」


透はバイアスに対して指を突きつけ言い放った。

バイアスは動揺を見せずに言い返す。


「所詮、負け犬の遠吠えですね」


今、本当の戦いが始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


先陣を切ったのはハラバラだった。

重たい鉄槌を持ち上げバイアスとの距離を詰める。


バイアスの魔法は【千里眼】と言うらしい。

この名前とこれまでの行動から察するにこの能力はただ単に遠くが見えるのみではなく、未来視、弱点探知、索敵など万能な能力だと推測できる。

そしてバイアスは未来視と弱点探知を使ったカウンターを得意とするだろう。

それが攻撃に失敗した理由と中々攻め入ってこなかった理由だろう。

そしてこれらの魔法は俺の魔法で完封出来る。


そういえば人によって使える魔法が違うのは単純に得意不得意があるからなのだろうか。

そうならば俺も外の世界に出て千里眼を会得したいものだ。


余談はここまでにしてこれまでの推測からするにこの戦いは俺の体力が尽きない限り負けることは無いということに繋がる。

だが俺の体力はそれほどあるわけではない。

少なく見積もってあと3回と言ったところだ。

つまり少なくとも3回以内で決着をつけなければならないということだ。

短期決着を狙うにしても火力が足りない。

だがひとまずやるしか無いだろう。


透はハラバラの動きに合わせて叫んだ。


「『止まれ』ッ!!!」


バイアスの動きが止まる。

その隙にハラバラが岩石を砕く勢いで鉄槌を叩き込み、アラヴァルが剣で斬りかかった。

その後魔法が解けバイアスはその場でしゃがみ込んだ。

それを隙と勘違いしたアラヴァルが再度斬りかかった。


「待て!!」


透の声はアラヴァルには届かずにアラヴァルは剣をバイアスに向けて振り下ろした。

その時バイアスは面を上げ待っていたと言わんばかりの勢いで簡単に剣を避け拳を打ち込む。

だがハラバラがアラヴァルに対してタックルをした事によりアラヴァルに多少と言うには少し重い衝撃を与え、間一髪のところで回避した。


「ナイス!」

「危ないダスよ!」


体力的にはあと三回は止めることができそうだ。

いや三回が限界だろう。

ハラバラとアラヴァルの攻撃は問題無く入っている。


この調子で一回二回と着実にダメージを与えていった。

そしてこれが最後。

最後の一撃だ。

相手は相当弱っている様子である。

この一撃で終わらせる…!


「『止まれ』ッ!!」


バイアスの動きが止まる。

そしてハラバラとアラヴァルが一気に畳み掛ける。

それに乗じて透も剣をしっかりと握りしめ、明確な殺意を持ち斬り掛かった。

刃はあまり手応えは無いが肉を少し抉る程度の斬撃を残した。

それでもバイアスは動き出した。

こちらの攻撃手段は尽きた。


「ッーーー!?」


俺はだんだんと視界が暗くなっていった。

内臓をひっくり返すような吐き気に頭をガンガンと殴りつけるような鋭い痛みが走り、目が回るように目眩の症状が現れだす。

俺はその場に膝を崩して無様にも倒れてしまった。

バイアスは何も仕掛けてこない。

だが逃げても背を向けた相手では、流石に攻めるのが苦手だったとしても始末するのは屁でもないと思われる。


攻撃する為の機転を失った俺達の攻撃の手は止まった。

すると仮面にヒビが入り真紅の鮮血が頬を滴っている金髪の男、バイアスが立ち上がった。

バイアスはゆっくりとこちらに近づいてくる。

いくらハラバラでも手負いでは分が悪い。

それでもハラバラは諦めていなかった。

アラヴァルという心強い味方が隣にいたからだ。


「まだ負けていないダス!!」


「あぁそうだな!!」


アラヴァルは自分の両頬を強めに叩いて自らを奮い立たせ、剣を握りバイアスへと突撃していく。

当然の如く躱すバイアスはすぐに肘をアラヴァルの背中に突き立てる。


「うぐッ」


意図せずとも声を出してしまう肘打ちの威力は想像もしたくなくなる程であるのは容易に理解できた。

だが現在意識はアラヴァルに集中していた。

全く周りが見えていない。

そう思わせるほどにバイアスは殺気のこもった目でアルヴァルを睨みつけていた。

その隙に背後からハラバラは近づいていく。


一歩、また一歩と近づいていきアラヴァルの射程圏内に入ったときハラバラは動き出す。

鉄槌を高く振り上げて重力を味方につけた一撃をバイアスの脳天に打ち込んだ。

だがバイアスはそれを全く見ずに簡単に躱してしまう。


「ーー遅っそ」


気づけばハラバラは鳩尾に拳の跡を作り、暗い森の中で倒れてしまっていた。

バイアスは透が疲弊し魔法が使えなくなるのを虎視眈々の狙っていたのだ。

透とハラバラがダウンした中ただ一人決意を固めている人物がいた。


「貴方で終わりですね」


バイアスがそう勝利を宣言したが、その相手には届いていない。

何も響いていない。その言葉を無視するかのように男は剣を握り、殺意を瞳に宿らせ、闘志を滾らせている。

男は口を開き言い放った。


「俺はエルフ傭兵団の訓練兵、アラヴァルだ…!」

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