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リア充の帰宅物語  作者: 絶望的メガネ
第一章 村と魔物と眼
4/11

新たな日常の始まり

ちょっと大変

最近嫌な目覚めだらけだったので今日の朝は清々しく感じる。

早めに起きることができたのでアラヴァルさっと起こして身支度を始めた。

今日はここに来て初めての訓練だ。

色々キツいこともあるかもしれない。

いや、あるだろう。

何があろうと抗ってみよう。

ここで生きていくために、そして元の世界に帰るために。


「おはようございます!」

「あぁおはよう」


部屋を出てすぐにカラベル隊長に出会ったので軽く挨拶。

あっちは寝起きでふわふわしていたがなんとか返してくれた。

すぐに欠伸をしていたのでここはそんなに厳しい場所では無いことが分かった。

少し安心だ。


「ほい、行こうぜ」


背中を軽く叩かれて後ろを向くと、少し遅れてきたアラヴァルが居た。

アラヴァルも欠伸をしながら歩いていった。

透はその後についていく形で歩いた。


ーーーー


「それでは訓練を始める!」

「ハッ!!!」


隊長の掛け声によって広場に集まった全員のエルフ、いや隊員達が呼応して返事を返す。

さっき会ったカラベルとは別人のようにキリッとした男が壇上に立っていた。

俺はひとまず隊長の指示を待つことにした。


「それでは訓練を開始する!」

「ハッ!!!」


「あっ、ハッ!」


ヤバい少し遅れて返事をしてしまった…

恥ずかしい。


「今日の予定はランニング5km、腕立て、背筋、スクワット、腹筋を100回ずつ、終わったら自主トレ、最後に体術、もしくは剣術の訓練を各自選択して行ってくれ」

「ハッ!!!!」


今度はちゃんと合わせられた。

それにしてもかなりハードなスケジュールだ。

休日が3日あるとはいえ訓練生は中々にキツい。

アラヴァルから聞いた話によると正式な隊員になるには隊員試験に合格しなければならないらしい。

試験の内容は隊長に剣術、もしくは体術で一本をとること。

一回でと取れれば良いらしい。

それでも難しいだろう。

隊長はかなりの実力者と聞いている。

一筋縄ではいかない相手なのは確かだ。


「ほら早く行くぞ」


またアラヴァルに背中を叩かれて、透はトレーニング場に足を運んだ。

道中村のエルフと交流があった。

老人のエルフ、パン屋を営むエルフ、子供のエルフに母親のエルフと色々なエルフと出会った。

皆幸せそうに暮らしていた。

何故こんなにも平和なエルフ族と人間が衝突したのか不思議でたまらない。


「それじゃ今から走るぞ!」

「因みに俺と一周差ついたらケツを引っ叩くからな!」


そんな冗談を聞き流しているとアラヴァルか耳打ちで話しかけてきた。


「あれ死ぬほど痛いから気をつけろよ」


どうやら冗談じゃ済まないらしい。

適当に走らずにしっかり走ろうと決めた。


一周200mのトラックでランニングを始める。

そこそこに短いトラックなので隊長の速度次第で簡単に追いつかれそうな距離なので少し緊張で息を呑んだ。


「あぁ怖い…」

「安心しろ直に慣れる」


大きな不安をアラヴァルの励ましで噛み殺して足を動かし始めた。

基本的に隊長を先頭に全員が動き始める。

隊長は常に一定の速度を維持、かつとても速い速度で走っている。

あの速度は体力に自信のある俺でも1km程度しか走れないだろう。

俺とアラヴァルは最後尾で前の人を必死で追いかけるべく走っていた。

とにかく尻を追うことで精いっぱいだ。

追い越すなんて夢のまた夢。


そんなことを考えていると隣から荒い呼吸の音が聞こえ始める。

ふと隣を見てみると滝のように汗を流し真っ赤な顔のアラヴァルが走っていた。

まだ2kmしか走っていないのにこの様子だと恐らくあの忠告が出来たのはよくケツを叩かれていたのだろう。

ペースも段々と落ちてきた。

可哀想だが後ろから靴の音がし始めたので、アラヴァルを置いて走ることにした。

直後強烈な肉を叩きつける音が響いたと同時に痛々しい叫び声が聞こえた。


何とか追いつかれずに走り抜いた透はクタクタに疲れて寝転がっているアラヴァルに水を持っていき合流した。

今にも死にそうな表情を浮かべているアラヴァルを少し気の毒にも思ったが、仕方無いだろう。

結局アラヴァルは四回ほど追いつかれてケツを叩かれたらしい。

まだ訓練は始まったばかりだ。

この調子で大丈夫なのか不安だがアラヴァルは何日も越えているらしい。

心配は無用だ。


ーーーー

次は各種筋トレ100回ずつだ。

筋トレはあっちでもやっていたがこの数は流石にやっていない。

アラヴァルは顔を青くして唾を飲み込んでいる。

何故ここに入ったのだろうか。

正直この体力でよく入ろうと思ったものだ。

俺ならもうちょっと家で体力をつけてから入る。


筋トレは隊長の掛け声で始まる。

勿論途中で中断してしまった者は問答無用で引っ叩かれる。

アラヴァルの顔を見れない...。

最初の方は順調だった。

アラヴァルもなんとかついてきている。

ーーだが地獄はまだ始まったばかりだった。


「お前ら何か順調だな! もう1セット追加だ!!」


終わった。

もう体に力が入らないのに。

そんなの不可能に近い。

アラヴァルは衝撃のあまり卒倒していた。

泡を吹いて失神しているアラヴァルを見つけた隊長はニヤニヤしながら近づき、腕を振り上げてケツを引っ叩いた。

甲高い音が響いた。


アラヴァルは強制的に現実に引き戻され、尻を摩りながら立ち上がり叫びながらスクワットを始めた。

それに呼応して全員がスクワットを始める。

隊員達が一体となって筋トレをするのはなんだか楽しく感じた。

だが恐らくキツいのは次の日からだ。

透以外は筋肉痛を抱えながら筋トレに打ち込んでいる。

恐怖以外を感じることが難しくなった。


なんとか筋トレを乗り越えて次は自主トレだ。

俺は趣味のウエイトリフティングに臨むことにした。

趣味とは言ったものの得意では無い。

スナッチ55キロ、ジャークは70キロである程度やってればいける記録だろう。

自分で言うのもなんだが何でもやれば出来る方だ。


ダンベルのある場所へ向かうとそこにはガチムチマッチョの男が佇んでいた。

床にあるダンベルを見ると100キロはある。

物凄い圧に少し後退りした時男は透に気づいた。

男はゆっくり近づき口を開いた。


「お前もやるダスか?」

「ふぇ?」

「いやー嬉しいダスねぇ」

「一緒にやってくれる人が現れるなんて!」


俺の予想していた声はとても低く重圧的な声だと想っていたがそれとはかけ離れた高い声であった。

無邪気な少年のような声で話しかけてきたのでつい変な声が出てしまったことには気づいてないようだ。


「おいらの名前はハラバラダス」

「バラバラダス?」


長い名前だ。

てかダスって語尾名前から来てたのかよ。


「あ、違うダス、"ハラバラ"ダス」

「あ、そうなの。なんかごめん」

「そんな事より名前! 教えろダス!」

「俺の名前は佐々波 透だ!」


ハラバラは俺の名前を聞いて大笑いした。


「珍しい名前ダスねぇ〜。おいらは好きダスよ!」


なんか面白い奴で安心した。

こいつはいい友達になれそうだ。

なにせ趣味が合う唯一のエルフなのだから。


「もっと姿勢良くするダス」

「こう?」

「そう!正解ダス!」


ハラバラはウエイトリフティングがとても上手かった。

そのおかげでフォームが改善されてもう一段上のダンベルが持ち上げられるようになった。

流石だ。

そんなこんなで自主トレは終わった。


ーーーー

次は選択式の武術を学ぶ。

ハラバラは体術を選んだらしいが俺はカッコよかったのでもう一つの剣術を選んだ。

男の浪漫なので仕方ないだろう。

剣術の場所に着くとアラヴァルが居た。

その奥には剣を持った男が切り株の上に座っていた。

よーく姿を見たら隊長だった。

しかも寝ている。

悠々自適な人である。


他の隊員が起こして訓練が始まった。

俺は剣を握るのは初だったので素振りからだ。

何百、何千と剣を振る。

慣れないグリップで何度か剣を投げてしまった事もあった。

大体アラヴァルに当たっていたが。

そういえばアラヴァルは何をしているのだろうか。

透は奥で剣術の指導を行っている人達を覗いた。

そこには他のエルフにボコボコにされているアラヴァルの姿があった。

可哀想に…。


それにしても難しい。

剣を縦に振るだけでも難しいのに剣を使うなんて考えつかない。

俺が剣で何かを斬るビジョンが見えないのだ。

そんな雑念を俺は木刀で真っ二つに斬り、再度素振りを始めた。


すっかり日も落ちきった頃訓練が終了した。

手のひらを見てみると豆だらけで汚くなっていたが、不思議と不快には感じなかった。

それは成長の証であるからだ。


明日もまた訓練だがモチベーションは保っていけそうだ。

自主トレでは趣味も出来るしな。

ハラバラという新しい友達も出来た。

さっさと訓練生を抜けて仕事に出たいと考えていたがここも体験してみれば案外悪くない場所だ。

こうして透の初の訓練は無事終了した。





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