辺鄙な村の優しさ
忘れちゃいそうな設定だらけで困ってます笑
周りの壁を崩し焚き火の火を消して透はその場を後にした。
あの女神の言うことは正直信じたくないが、状況が事実を裏付けてしまっていたため、信じるしかない。
とりあえずやることは変わらない。
大賢者とやらも気になったが、村を見つけて人と交流することから始めよう。
人の里に近づいたからか独特な臭いが消えた。
ここに来たときからしていたので違和感は無かったがいざ普通の空気を吸うとさっきまでの違和感がぶり返してきた。
恐らく魔物の臭いだろう。
今思えば俺の予想してた魔物と大きくかけ離れていた。
ゴブリンやスライムなどの王道な感じかと思いけや、あんなグロテスクな化け物が現れるなんて。
狩りの仕方もグロテスクなんて聞いてないよ。
そんな不満を地面に投げ捨てて透は歩を進めた。
順調に村に近づけている。
透は慢心していた。
頭が回っていなかったのだ。
なぜ強力な魔物が潜んでいる森で、村が存在できているのかを。
ーーーー
「何だか肌寒くなってきたな」
気温が下がってきたのもあるが、透は孤独を感じていた。
もう一日近く人と会っていないのが大きな要因だろう。
早く誰かと喋りたい。
そんな想いが頭の片隅に残っていた。
だが精神の弱った透でも、異世界は容赦無かった。
村を目指し森を歩いていると、段々霧が立ち込めてきた。
白い靄がかかった森は透の方向感覚をさらに狂わせる。
自然の脅威なのか、将又人為的な罠なのか、今の透にはそれを知る手段など存在しない。
魔物の気配は無くなったが、人の気配も全く無い。
本当に辿り着くのか疑心暗鬼になりながらも透は進む。
だってそれだけが救われる道なのだから。
「なんで…おかしい…!」
いつまで経っても村に着かない。
いや同じ場所を周ってるようにも思えた。
この霧に透は惑わされていた。
木の実も尽きた。
辺りに食料は見当たらない。
万事休すだ。
此処からでも声が届くかもしれないと、一欠片も無いような希望に賭けて透は叫んでみることにした。
「おぉぉーーーい!!」
木によって声がこだました。
返事は返ってこない。
「誰かぁぁぁ!!!」
自分の声がそのまま返ってきた。
返事は返ってこない。
「居ないのかぁぁぁ!!」
少し涙が零れた。
返事は返ってこない。
「誰も…居ないのか…」
心が折れた。
返事は返ってこない。
何も進展が無くここで息絶えるのだと覚悟したその時、何かの声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
優しい声だ。
自分を包みこんでくれるような、でも力強さが垣間見える声が耳に届いた。
魔物の可能性もあるので警戒し前を向いた。
そこには耳の尖った長髪の男が立っていた。
「エルフじゃない…!? だが…弱っているのか…!」
男は透に駆け寄り肩を貸し、そのまま村へ連れて行った。
酷く安心したのか全身の力が抜けてしまう。
そこで意識は途切れた。
ーーーー
目を覚ますとそこには藁の屋根があった。
見覚えのない天井に驚き上体を起こすと、そこには耳の尖った白髪の老人とさっき助けてくれた男、そして耳の尖った美しい金髪の同い年くらいの少女が囲炉裏を囲んでこちらを見ていた。
「大丈夫かい」
最初に口を開いたのは老人だった。
透は「はい」と弱々しく返事をする。
「事情は後でで良い、まずは食べなさい」
その言葉で囲炉裏にあった鍋に気づいた。
すると少女が椀についでこちらに差し出す。
透はすぐに受け取り鍋を口に運んだ。
一日ぶりのまともな食事に透の口は幸せでいっぱいになった。
「美味い…美味いよ…」
透は視界がぼやけだしたことで瞳に涙が溜まっていることに気づく。
周りもそれをみて優しい目でうんうんと頷いている。
短い時間ではあるが、是迄の過酷な環境を乗り越えた甲斐はあった。
ーーーー
その後一通り食べ終わったあと事情を話した。
「まずは自己紹介からだったね」
「私の名前はタナベル。この村の長をやっているものだ。」
「次は俺だな。名前はカラベル」
「ここの騎士団の団長で長の息子だ。」
「で、こいつが俺の娘のリリベル、ほら挨拶しろ」
「リリベルです…」
「俺は佐々波 透って言います! あの名字はあるんですか?」
つい気になったので聞いてしまった。あえて言ってなかった可能性もあったので迂闊だったか?
するとタナベルが口を開いた。
「珍しい名前だね、東の人間かな?」
「あとエルフに苗字はない。あるのは人間だけだ。」
タナベルの優しい口調に透は安心した。
東の人間に自分のような名前がいることは聞き捨てならなかったが、話の腰を折るのも少し違う気もしたので、ひとまず黙っておくことにする。
「にしても透はエルフを見ても殺そうのしないのか…珍しいな!」
カラベルの意外な一言に俺は固まった。
後に聞いた話なのだが人間とエルフは敵対関係にあるらしい。
この村に近づいた時に霧によって迷ったのは、魔物を近づけない用途もあるが基本的には人間から村を守るのが目的らしい。
それでも助けてくれたエルフの方が人間よりも信用できる。
人の街に行けるのかは問題だが、ひとまずここでこの世界の一般常識を身に着けよう。
この村でエルフの偏った知識が身につく可能性もあったが、ひとまず見ないふりをしよう。
村に着いたので次の目標を考えようと思う。
何もしないのも暇なので人と交流が出来る騎士団に入ることにした。
自衛の術を手に入れるのもこの世界なら大事なことだろう。
他にも騎士団の団員に話を聞いたりできるかもしれない。
この話をカラベルにしてみたところ快く了承してくれた。
顔合わせをする前に他の団員にも話はいったらしいが歓迎ムードだったそう。
やはりエルフは信用できるし優しい。
そんなことが身に沁みて理解できた。
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「それでは新入団員!! 挨拶をしろ!!」
カラベルの掛け声に透は元気よく「はい!」と返し多くの団員の前に出た。
人の前で話すのには慣れている。
生徒会で人前で話す時も俺は全く緊張しなかった。
やはり成功体験は自分への自信につながるようだ。
「佐々波 透です! ここの常識はほぼ分からない箱入り娘なので色々ご指導お願いします!」
一瞬の静寂のあと全員の歓声が透を包みこんだ。
自己紹介は大成功だ。
下手なことを言わないほうが大事だろう。
どうやら部屋は二人部屋らしい。
同じ部屋なのは自分と同じく最近入ったアラヴァル。
見た目はメガネをかけていかにもという感じであったが、話してみると親しみやすくいい人柄で好印象。
人を見た目で判断すると視野が狭まり良いことはあまり無いだろうと実感した。
アラヴァルに色々聞いてみたがどうやら村の外の事は何も知らないらしく何か特別なことを聞くことは出来なかった。
情報が遮断されている村なら仕方が無い。アラヴァルに罪は無いのだから。
元の世界の村に比べてここは少しいやだいぶ文明が進んでいない部分があるが食料や水などに困ることは無い。
本当に良かった。
最初に来たのがこの村で。
治安の悪く貧困な村ならばこんな待遇は受けれなかっただろう。
つくづく自分の運には感謝だ。
ひとまず明日の訓練に備えて寝ることにした。
昨日の夜とは違い今度はフカフカのベットで寝ることができる。
この幸せはいつまで続くか分からない。
透は毛布の暖かさを感じながら眠りについた。