新たなアイデア
「あ゛あああぁぁがぁぁ!!」
「早く治せ!!」
「『治れ』ぇぇぁぁあ」
また失った左腕が癒える。すぐに意識を奪われてその場に倒れる。
本当にきつい。こんな拷問を受けるとは思ってもいなかった。
こんな酷いのか、騎士というものは。
「お前は騎士の中でも戦闘のみに参加する部隊だからな、お前には騎士道の訓練など無用! 苦しみ強くなれ!!」
また目が覚めたのは医務室のベットの上だ。
左腕はある。手を握ったり開いたりしてその感触を噛み締める。
「にしてもキツすぎないか?」
昨日気絶していた時間より少しだけ短くなっている。
本当に効果はあるらしい。それでも痛いものは痛いし怖いものは怖い。
今すぐにでも逃げ出したいが、それでまた目の前で誰かが死ぬのは御免だ。
「お! 起きたか。今日からちゃんとした訓練を開始する。異能を駆使してある人と模擬戦をしてもらう。」
「その人優しいんですか?」
「いや、おっかない人だ」
最悪だ。
俺は嫌々広場へと足を運んだ。
ーーー
広場に着くと1人模擬戦場で剣を振るポニーテールの女がいた。
「おーい! 連れてきたぞ」
「本当か?!」
そこには新しいおもちゃを見つけて喜ぶような視線を向けてくる女がいた。
見た感じ勝気な女子といった感じ。うちのクラスにも居たな男顔負けの声量の女子が、何故か告白してくる時は声が小さかったが。
「よろしくな! 私はライナ・ユージンだお前は?」
「佐々波透だ! よろしく!」
「いい声量だ! 殴り甲斐がある!」
平然とやばい事言っちゃってるよこの人。
「あ! 因みに私より強く無いと結婚は無理だ!」
狙ってないよ!確かに顔は整っていて可愛いが異世界で出会いは求めていない。
「じゃあ早速やろう」
俺は木剣を両手で握りしめてライナに向ける。
ライナは軽いステップを踏みながら片手で木剣を向けてくる。
「では、始め!!」
俺はすぐに土を軟化させ詰めづらくする。
ライナは泥に足を取られ動きづらそうにしている。
俺は剣を振った。
振り下ろす瞬間に剣の重量を増やし剣の重みで速度が上がり背中に一直線に向かった。
「もらった!」
その時ライナが叫ぶ。
途端にライナは身をかわし鋭い突きを三発打ち込んでくる。
俺は二発を剣で防いだが一撃を漏らし鳩尾に受けてしまう。
「うがぁっ!?」
俺は腹を突かれたダメージで痰を吐き、その場に蹲る。
上を向いた頃には顔の先に剣が向けられていた。
「私の勝ちだな」
負けた。
圧倒的な差をつけられ敗北した。
強すぎる、完膚なきまでに打ちのめされたのは身体だけで無く心までもだ。
そこそこ強いと思っていた。
自分の実力をしっかり評価出来ていると勘違いしていた。
自分は強いと奢っていたのだ。
木剣を地面に突き立て俺は立ち上がる。
剣をライナに向けて宣言する。
「もう一回だ!」
その時、奥底に眠っていた闘争心を思い出した。
いつからだろうか、恐怖や不安を塗り潰そうと明るく振る舞っていたのは。
いつからだろうか、何かに打ち込む情熱にノイズが入っていたのは。
必死に生きていた。
何もかも分からない世界で、生きることに必死だった。
実は諦めていたのかもしれない。
また家族に会うことを、家に帰ることを、友達と話すことを。
「ライナ、お前に対して俺の全てをぶつけて勝つ!」
「かかって来い! 全部受け止めさせてもらう!」
俺は剣を握りしめライナの頭を斬りつける。
だがライナは簡単にそれを予想し、回避する。
ライナは剣を鳩尾に突き刺す。
「かかったな、ライナ!」
「なっ!?」
感触が無い。
ライナが突いたと思っていた透の身体はそこには無く、ライナの剣はただただ虚空を突いているだけだった。素振りのように、相手が居ないかのように。
「あいつ何をしているんだ? 透は後ろにいるではないか」
ラジャイの目には透が後ろに立っているのに何故か前を突いた間抜けなライナが映っている。
「お前が見ていたのは俺じゃ無い」
その時、透の木剣がライナの首筋に触れた。
ライナは木剣を落とし立ち上がり、透に目を合わせる。
「お前、案外強いんだな」
「褒めてくれて嬉しいよ」
「因みにあれどうやったんだ?」
「ああ、あれは君に認識阻害を使って俺を見せてたんだ」
すると横から手を叩いているラジャイが乱入してきた。
「お前も案外やれるのだな。俺より何倍も伸び代を感じる」
「ラジャイさんに褒められたぞ!」
するとライナが落とした木剣をラジャイが拾った。
まさかな......
「おい透!!」
「ふぇ??」
「次は俺と手合わせだ!!」
いやまて、今の俺なら勝てるのでは?
認識阻害と液状化を使えば!!
「はい!」
「では行くぞ!」
ーーー
その日は身体の痛みに耐えながらベットについた。
結果は察してほしい。