三者面談の時間です
「カ、カーマイン様の指名で騎士に!?」
「あぁ」
何故か困惑した様子の受付嬢が紙に慌ただしく筆を進める。
「てか騎士ってこんな機械的な決め方なんだな、少し浪漫が......」
「キカイテキ?って言うのかは知らないが他の国と比べれば少し珍しいだろうな」
他の国の決め方も気になるな。
それよりもこの受付嬢、慌てすぎじゃ無いのか?
そんなにカーマインが珍しいのだろうか?
俺は疑問をすぐに吐いた。
「なんでそんなに慌ててるんですか?」
「カーマイン様の推薦は初なんですよ!!」
「お前なんで言わなかったんだ!!」
「別に言う必要があったのかい?」
「大アリだよ!」
どうやらカーマインは言葉が少しばかり足りていないらしい。
こんな目立つ事して大丈夫なのか?正直先が思い遣られる。
「ふぅー、ひとまず名前は何ですか?」
大きく深呼吸をした受付嬢はどうにか平静を取り戻し、マニュアル通りの対応を始めた。
あんなに動揺していたのにこの変わりようだ。
仕事をする上では多分素晴らしい。
「佐々波透です」
「佐々波透様ですね。はい、受理しました。」
「これで君も騎士の一員だな」
「意外とすぐいけんのか」
すんなり入れてしまった。
なんだか安心感がある。
少し前に一応俺も鍛錬は積んでいたからだろうか、エルフの村の中で必死に強くなろうと頑張ったんだ。もう誰も死んでほしくは無い。
「じゃあ行くよ」
「え?」
「今から鍛錬している騎士達に会いに行く」
行動力が俺並みだな、カーマイン。
ーーー
「ここが鍛錬場だ」
汗臭く漢らしい臭いが漂う場所かと思いけや、案外普通な場所だった。
室内はよく換気されていて少ない人数の騎士たちが重い金属の塊を持ち上げたり剣を振ったりしている。
「外もあるよ」
外に出てみるとそこには様々な騎士達が馬に乗ったり、剣を打ち合ったり、組み合ったり、筋肉を磨いたり、辺りを走り体力をつけようと鍛錬している。
「室内の三倍くらいはありそう!」
「実際そのくらいだろう」
そんな話で盛り上がっていると奥から一人の見たことあるような騎士が近づいて来た。
「彼が噂の?」
重く低い声で訊ねてくる。
「あぁ、新入りだよ」
「なるほど、なら自己紹介をしておこう」
「はい!」
「私はラジャイ・ハーバー、一応部隊長をやらせてもらっている」
なんでわざわざ部隊長が来たんだ?
気になった俺は質問しようと口を開く。
「なぜわざわざ部隊長が?」
するとカーマインが横から会話に乱入してきた。
「それは彼の部隊に君が入るからだよ」
「あぁ」
そういうことか。それならわざわざ俺に話しかけてきた事にも合点がつく。
疑問が一つ解消されたところで今度は俺の番になった。
俺は足を広げ拳を突き出す。
「俺の名前は佐々波透だ!よろしくな!」
「俺はいいけどラジャイには敬語にしとけよ」
カーマインからツッコミが飛ぶ。
カーマインとちょっとした漫才を展開しているとラジャイの様子がおかしい。
少しつまらなかったのなら謝ろう。
「すいませんお見苦しいものを……ってあれ?」
明らかに雰囲気が違う。
空気が変わったことにより緊張して目が離せない。
少し間が空き目が乾燥して瞬きをした時、ラジャイの腰の剣が即座に抜かれ俺の首元を切り落とさんと素早い速度で振られた。
「待て」
そこでカーマインからエネルギー弾のようなものが剣に飛び出し、ラジャイは思わず剣を止めた。
俺はすぐに距離を取り、カーマインの後ろに隠れる。
「透に何か不満があるのか? 言ってみろラジャイ」
「次からは敬語にしますので許してください......」
何故だ?何がそんなに嫌だったんだ?
何故俺は彼の逆鱗に触れたんだ。
分からない。
何が原因なのかこれまでの行動を振り返るも、そもそも出会ってすぐなのですぐに考えは滞った。
するとラジャイが口を開いた。
「お前、何故牢獄から出てきた?」
「ーー!?」
まさかこいつあの時俺を捕まえた門番か?
それなら辻褄が合う。
名前を聞いて急に態度が変わった事、あの鎧に少し嫌悪感があった事。
しかしすぐ見つかったのなら話が早い。
俺とカーマインは同時に顔を合わせ、頷いた。
「ラジャイ、少し場所を変えよう。話がある」
「カーマインさん、これは貴方でも許されるべき案件では無い。説明してもらいますよ」
ーーー
俺たちはカーマインの部屋に向かう事になった。
部屋に入るとカーマインは長机を出して、椅子に座った。
配置は俺とカーマインが隣同士で正面にラジャイがいる。
こんなに早く見つかるとは思わず心の準備がまだ出来ていない。
しかもこの手の人間は言いくるめるのに時間がかかりそうだ。
正義の線引きがあるのだ。彼の中に明確な線引きがある。
あまり言及はされていないが他の人間の反応から察するに恐らくカーマインは騎士の中でもトップレベルの権力を持っている。
その権力を持ってしてでもこいつは曲げられる気がしない。
「カーマイン、姑息な手を使わず正面から弁明しよう」
「ああ、それが得策だろう」
「それで話ってのは?」
重厚な雰囲気が漂っている。
少しでも間違えた発言をした瞬間俺の作戦は水泡に帰すだろう。
まだあまり努力はしていないような気もするがこんなに早く詰むのもいい気はしない。
それなら1番適切な行動は......
「本当にすみませんでした!!」
「?」
「俺が紛らわしいせいで面倒なことに巻き込んでしまい申し訳ございません!!」
「なるほどなぁ」
カーマインが何か理解した様子で頷いている。
それは対してラジャイは少し困惑気味だ。
俺の作戦は正面から謝罪をし、和解する事だ。
これならラジャイの性格でも問題無いだろう。
ここからさらに畳み掛ける。
「更にまた騒音被害まで出した事、本当に申し訳無いと思っています...!」
「ま、まぁ反省の意思があるなら。それにこの件は俺にも原因があると思ってはいた」
ならなんで斬りかかったんだよってツッコミは喉の奥に仕舞っておく。
「なら!」
「いや、完全に許した訳ではない。透の異能と何処から来たのかをここで告白してもらおう。」
仕方ない全て話すしか無いか。
異能に関してはまだカーマインにも話していない。
少し怖いが背に腹は変えられないだろう。
「俺の異能は念じた事象が起きる。こんな感じで」
俺は『燃えろ』と唱えた。
途端に指先に炎が生まれる。
カーマインとラジャイは興味津々で炎を見つめている。
「なるほど、で何処からきた?」
「それなんだが少し特殊な事例なんだよ」
「というと?」
「俺は空から降ってきた別世界の人間なんだ」
「「ええ!?!?」」
「お前てことはあの大罪人ガイツ・レンガーが逃げた世界に行ったのか?」
「ガイツ?なんだそれ」
「お前には知る権利があるここからは他言無用で頼む」
何やらあまり喋るべきでは無かったようだ