交渉術
「ここが騎士団本部か!」
騎士団本部。
それは監獄とは少し離れた場所にあった。
ここまで逃げてきたのには苦労した。
俺が途中から別の道に逃げ、壁を破壊して出ていなければ一網打尽にされていたであろう。
俺がここを出てすぐに監獄から鋭い金色の柱が立った。あれが光なのか、炎なのか、将又雷なのか、それは俺の目では分からなかった。
ただ一つ理解できたのはそれに触れれば無傷では済まないという事だ。
「にしても何だったんだ…」
俺はこそこそ隠れながら騎士団本部に潜入した。
ーーー
門をくぐるとサッカーコートくらいの開けた場所があった。地面は土であり、恐らくここはグラウンドのような場所であるということは簡単に想像できる。
門の壁を伝い『速く』と唱え超速で建物へ向かった。
建物に着くと2人の騎士が立っている。
腰に剣を携え堂々たる立ち振る舞いでそこに立っている。俺は二人に『見るな』と認識阻害をかけ中に入った。
そろそろ体力に限界が近づいてきた。
異能は簡単には使えないだろう。
ひとまずカーマインを探そう。
カーマインを探すため忍び足で歩き部屋を周っていく。
それにしても人が少ない。何かあったのだろうか。
疑問を持ちつつ歩いていると明らかに豪華な部屋がそこにはあった。
扉や壁には装飾が施されており、先ほどまでの灰色に包まれた岩壁は綺麗さっぱり無くなっている。
恐らくここがカーマインの居場所であろう。
俺は勢いよくドアを開け指を差した。
「お前がカーマインだな!」
中に居た男は如何にも好青年という見た目をしており、カーマインという名前の通り赤いマントを身に着け、金と紅の鎧を身に纏っている。
「あぁそうだ、俺がカーマインだ」
俺は少し近づいて手と額を地面に擦り付ける。
「頼む! 俺の冤罪を証明してくれ!」
「あなたがここまで無断で来ている時点で色々問題なのだが、そこまでして来なきゃならない理由があったのだろう。何があったんだ?」
俺は事の顛末を事細かに話した。
カーマインは俺の話を黙って頷き、真剣に聞き続けた。
話し続けた事により喉が渇き、少し喉を押さえて辛そうな表情を顔に出してしまった時、カーマインは水を出してくれた。
なんて優しいのだろうか。
説明が終わった時、カーマインは少し間を置き口を開く。
「例の件、君にも非があることは確実だが、冤罪に関してもありえはなくは無い。寧ろこの国の差別意識を鑑みたとき、全然あり得る話だ」
「てことは?」
「その話引き受けよう」
カーマインがどんな手を使い俺の冤罪を証明するのか不安だが、それよりも目的のカーマインを説得する事に成功した事実が嬉しい。
俺は込み上げる喜びを噛み締めその場を離れようとしたとき、カーマインに呼び止められた。
「君、このまま外には出れないだろう。僕の部屋で寝ることを許可するよ」
「ありがとな!」
「あぁ、そういえば」
「?」
「君、名前は?」
「佐々波透だ!」
その日はそのまま寝ることになった。
どんだけお人好し何だろうか、普通は初めて会った人を自分の部屋に泊めるなんて事しない。
まあ何はともあれ物事が良い方向に進んでいる事には変わりが無い。
今後の幸運を祈って寝るとしよう。
俺はその後何を考えていたのかあまり覚えていない。
疲れていたらしくすぐ寝てしまったようだ。
ーーー
俺は窓から差し込む光によって目が覚めた。
「ーーーさん…おーい」
「あぁ?」
何だか騒がしい声が聞こえる。
体が重く感じる。
まだ起きたくないと体が拒否している。
それでも起きなければならないと脳が無理矢理体を起こす。
「透さん!起きて!」
「ハッ!!」
「はぁ…やっと起きた」
カーマインの力強い目覚ましによってその日の始まりを迎えた。
ひとまず朝食を素早く口に放り込み、今日の予定を立てる会議を行う事にした。
今日行う事その壱!
カーマインの権限を使い騎士団に入団する。
その弐!
俺を貶めた騎士に会い、無実の証明をカーマインの力を使いしてもらう。
もし見つからなかった場合は潜入を継続する。
これでも頭を捻って考えた策だ。
少しカーマインに頼り切りな気もするが、本人は嫌な顔一つ見えず二つ返事で了承してくれたので、まあ良いだろう。
ひとまずはカーマインの斡旋で騎士団に入るとしよう。
俺はムショに入る時に精神異常者だと思われたのか何故か名前を聞かれなかったというご都合展開なので本名佐々波透を堂々と名乗ることが出来る。
幸先は良い。
カーマインの部屋から騎士登録をする事務の部屋に行く途中、疑問が頭に浮かぶ。
「そういえば騎士団ってどんなことしてんだ?」
するとカーマインは忘れていたと言わんばかりの表情で口を開いた。
「そういえばまだ言っていなかったね」
少し興味の引く内容に俺の意識はカーマインに向いた。
「基本的には王国内の治安維持だ。主にパトロールや護衛を行っている」
「ふむふむ」
「この国は治安が良いので基本的に仕事が無くなる場合が多い。だから戦争や罪人、他には七眼英傑が襲来した場合に国が崩壊するのを防ぐ為に日々鍛錬を積んでいる」
今聞き捨てならない単語が聞こえた。
七眼英傑。
俺やアラヴァル、ハラバラを死ぬ寸前まで追い詰めた男達。
ここでその名前が出てくるのは少し予想外で動揺する。
「七眼英傑は罪人とは違うのか?」
「流石に普通の罪人と同じ扱いをするのは無理がある。七人の悪魔で成り立つその組織には序列があり、その一番下に位置する七の眼をその身体に宿した者ですら小国を一晩で荒地に変える程の力を持つ」
「そんなに強いのか…」
確かにあの五の眼を宿らせた男、ドゥーベ・ルートヴィヒ。
この男の部下であるバイアス・シュトリークですら三人の力を振り絞っても力及ばなかった存在。
信憑性は身を以て感じている。
「恐ろしいよ…本当に。」
「あぁ…」
俺は言葉を失った。
「そろそろだな」
「?」
「着いたよ、ここが事務室だよ」
「おお!」
そこには日本の事務室とは一風変わった部屋があり人が忙しなく動いていた。
山積みになった紙。
あれは仕事の量をそのまま表していると考えられる。
ここから俺の騎士道が始まる…!
少し規模が小さく現実的だがな。