プリズンブレイク
俺は今手に縄をかけられ街を歩いている。
周囲からの視線が痛い。
どうやらこの街では罪人はすぐに晒されるらしい。
すると遠くから卵が投げつけられ体に当たり割れた。
「イテッ!?」
扱いが酷すぎる。俺にも非があったことは認めるが状況的にこうするしか無かったんだ。
馬に乗った騎士に連れられ、着いた場所は牢屋の前だった。
俺はゴミのような扱いうけ薄暗い檻の中に投げ捨てられた。
「畜生、なんでこうなった…」
檻に鍵を閉めた騎士は睨みつけながら唾を吐き捨てる。
態度は最悪だ。
檻を壊してここを出るか?
落ち着け、ここはひとまず様子を見よう。
というか俺が異能使い?って分かっているのに警備が薄くないか?
すると壁越しに掠れた声が聞こえた。
耳を澄ますと俺に対して何か言っているようだ。
「お前、あの騒音の犯人らしいな」
「あぁ、そうだよ! 文句でも言いたいのか?」
つい苛ついて敵意剥き出しで喋ってしまった。
「いやいや、そんなことはないさ」
「じゃあなんだっていうんだ?」
「簡単さ、あの騒音は普通じゃ出せない」
「ッ?!」
俺は静かに息を呑む。
「お前、異能使いだな」
「そうだが?」
少し震えた声で俺は必死に冷静さを取り繕う。
「ついでにこの国には"人類最強の騎士"が居る。お前が脱獄するのは難しいってことだ」
「…」
そんな会話でこの日は幕を閉じた。
ーーー
〜次の日〜
朝はとても目覚めの良いとは言えない起き方だった。
「早く起きろぉぉ!!」
雄々しいとても大きな声で無理やり起こされる。
俺は眠い目を擦りながら強引に起きた。
そのまま騎士に連れられ俺は王の前に立った。
「何ですか? 王様?」
俺は少し不機嫌な声で問いかける。
王は厳格な面持ちで重い口をゆっくりと開く。
「昨夜、貴様の罪を聞いた。私が貴様に裁きを与える。貴様は死刑だ。」
「は?」
「牢屋に帰れ」
俺は頭の整理がつかないまま自分の牢屋に帰った。
布団とは言えないような質素な布に包まり、俺は状況をまとめる。
俺は死ぬらしい。何もできないまま。あいつらに何もしてやれないまま。五の眼を潰せないまま。
ひどく落ち込んでいた俺に気づいた隣の男は掠れた声で何かを語りかけてきた。
「お前、死ぬんだろ? 王に呼ばれたってことはそういう事だ」
「だったらなんだよ…」
「お前に言ってなかったが、一つお前が逃げる方法がある」
俺はその言葉に少し期待を持ってしまった。
どうせこの状況で生きて帰ることなんて出来るわけが無いのに。そうやって期待することの反動で絶望の波はより強く押し寄せてくる。
「お前、冤罪だろ?」
「は?」
思いがけない言葉が飛んできた。
何故それを知っているんだ?
「あくまでこれは予想何だが、お前はあの騒音を出したとき「助けて」と叫んだ。つまるところお前はあの騒音を出さざるおえない状況に居たと考えることが出来る。そして恐らく人類最強はそれを聞き取れている」
「で、どうやって逃げるんだよ」
「まずはここを出ろ、強引にだ。そして人類最強の騎士、カーマイン・インダスタリア様を信用させるんだ。自分は冤罪だって弁明しろ。彼は寛大な人だ。きっと信じてくれるさ」
俺は決意した。
ここを出てカーマインとやらに会いに行く。
そして俺の冤罪を証明する。
脱獄は今夜行う事にした。
ーーー
予定の時間になった。ここからどうやって出ようか。
透明化したいところだったが、この透明化は俺に対して行うものではなく俺を視認する全ての人間に認識阻害をかけなければならない。
それなら…!
「『溶けろ』」
その言葉により檻が溶けた。
俺の前だけではなくここにいる全員の檻が溶けた。
「やってくれると思っていたよ」
隣にいた男は囚人には見合わない好青年の様な見た目であった。
そしてあの掠れる声は今はもう無くなりただの青年の声になっている。
不思議だが今はどうでも良い。
このどさくさに紛れ俺はカーマインに会いに行く。
その為にはこいつらに先に行かせ階段を突破する。
ここは地下牢となっているらしく階段が一つしかない。
この階段を突破する事が第一関門だ。
そして第二関門はここを出ること。
最後にカーマインと出会うという3つの関門がある。
それらをすべて凌ぐ事で俺は自由の身になれるはずだ。
「おっしゃぁぁぁ!! 何か知らねぇけど出れるぜぇぇ!!」
大量の囚人が階段へゾロゾロ進んでゆく。
俺は真ん中くらいの立ち位置でその波に乗っかった。
ついでに小声で「『興奮しろ』」と命令を出してほぼすべての囚人を興奮させた。
それでもただ一人、俺の異能でも興奮しない者が居たーー否、もう姿を眩ませたのだろう。
今度会ったときにはお礼をしないと。
囚人の津波が押し寄せた監獄の看守はその勢いを抑えきれず門まで突破されていった。
だが俺は共に門へ進み脱獄した。
ーーこの日はこの国では集団脱獄事件として記録される事になった。