勝利の代償
脳を繋ぐ首を失った身体は切れ目から鮮血を噴水のように噴き出し、血と同じように身体に入っていた力も抜けていきその場に崩れ落ちた。頭の方は斬られた反動で宙高く舞い、体と同様に血を噴き出し遅れて地面に落ちた。
ヒビ割れた仮面の隙間から見えた金色の瞳はゆっくりと力を失い、眠るように瞼を閉じる。身体中を流れていた命の源である血液を失い続けた頭と身体は青白く変色していき熱を失う。
ーーー バイアス・シュトリーク 死亡 ーーー
目を覚ますとそこは見覚えのある天井だった。
デジャブを彷彿とさせるような状況に困惑して周りを見てみると右隣には包帯が多く巻かれているハラバラが布団に寝かせられていた。
反対に首を回すと今度はアラヴァルが文字通り全身包帯巻きで寝かせられていた。
「アラ…ヴァル…?」
つい心配になってしまい手を伸ばして声を上げてしまった。
すると部屋の奥の方にある扉が開かれる。
「起きたのか? 心配したぞ!」
扉を開いた者の正体はカラベルだった。
カラベルはひどく心配したような様子でこちらに近づいて、布団に飛び込んできた。
このまま受けると骨が悲鳴を上げる未来が見えた気がしたのですぐに横に避けるとカラベルはクッションを失い薄い布で守られた硬い地面に激突し、悲鳴を上げた。
「いったぁぁぁ!」
「団長が怪我人に配慮せず飛び込んできたのが悪いんですからね!」
「心配しただけなのに酷い!!」
ちょっとした冗談を交えつつ、死戦を越え生きてるという自覚を持ち始め自然と目から雫が落ちる。
「怖かったのか?」
透はすぐに自分の目の下を確認し、少し濡れている事に気付いてすぐに服の袖で拭った。
「いや…!そんなこと…無いです!」
俺は照れ隠しのように顔を背け声を無理矢理に明るくした。
カラベルは透の横に座り直しゆっくり背中を撫で下ろした。カラベルの優しさが背中越しに染み染みと伝わってくる。
俺は更に涙を流した。大声を上げて。もしかしたらハラバラもアラヴァルも起きていたかも知れない。
ーーー
「じゃあそろそろ状況を整理しよう」
カラベルがそう言うとハラバラと透で当時の状況説明が始まった。ちなみにアラヴァルは既に目を覚ましているが、傷が深かったらしく今も治療に励んでいる。
今回の立役者は間違いなくアラヴァルだろう。盛大に祝ってやらないとな。
「シェルラニさんとカラバリさんは赤い謎の男によって殺されたダス」
「それで?」
「その後三人で逃げた時金髪で黄金の眼を持った仮面の男、バイアス・シュトリークと名乗る男が追いかけてきて負けそう…って時に団長が来ました」
「赤い男の情報は?」
「バイアス曰く七眼英傑?の五の眼らしいダス」
「名前はドゥーベ・ルートヴィヒ…!」
「ま、当然知らない名前だな、もっと先代に遡れば知ってるかもな」
情報をすべて話したが進展は無さそうだ。タナベルさんなら知ってそうだがどうなのだろうか。聞いた話によるとエルフの平均寿命は1000年程度と聞いている。
タナベルさんが何歳かまでは知らないが500は流石にいっているだろう。この村はその前からあり情報を遮断しているのかもしれない。
七眼英傑、名前の響きは英雄の集団の様だが実際は違うだろう。それはドゥーベが俺達の命を狙い、シェルラ二さんとカラバリさんの命を奪ったことで、大体証明された。
あまりこの世界に長居はしたくないがあの問題を解決しないと気が済まないし、恐らく飯も喉を通らないだろう。
皆んなを助けることができるのは俺だ。
「お怪我は大丈夫です…か?」
美しい音色を奏でるような声が鼓膜に届き、顔を向けるとそこにはリリベルの姿があった。
可愛らしい顔立ちをしたリリベルが一生懸命心配そうな瞳でこちらを見つめている。
思わず見惚れてしまいそうである。
透は慌てたように言葉を返す。
「い、いや、全く問題ないよ! 元気ピンピン!」
「ふふっ」
どうやら俺の元気さが届いたらしい。クスッと笑ったリリベルの顔は子猫を彷彿とさせる様な可愛らしさがあった。
「君が心配してくれたおかげで全部治ったかもね!」
そんな適当なことを言ってこの娘を喜ばせているが、実際この言葉が怪我に効きまくっているのは確かだ。
この笑顔を守りたい。ひとまずの目標が出来た。
「君を守る、何があってもね」
「ふぇ?!」
あっちの世界でこんな言葉を放つとみんなに笑われてしまうかもしれない。でも今は本気だ。
そんなちょっとした思いを心に決めて一日を終えた。
〜〜〜一ヶ月後〜〜〜
「俺も強くなったな」
少し大きくなった右腕に力こぶをつくりそれに触れて成長を確認する。やはりここ一ヶ月で強くなった。
こうなった理由は少し前に遡る…。