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元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第1章

元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第1章(7終)お嬢様の修道服の袖口から

作者: 刻田みのり

 一週間が過ぎた。


 ランバダの一件は容疑者逃亡ということで現在もなお捜索中である。騎士団(と魔導師団)としても仲間を殺された恨みもあるだろうからかなりマジで追いかけるんじゃないか?


 騎士団といえばランスがランバダ追跡隊のリーダーとなった。


 この隊は魔導師団からキルドが派遣されている。あの戦いは彼にとっても思うところがあったらしく自分から入隊を希望したとのことだ。ぜひ、死なない程度に頑張って欲しい。


 俺やランスたちが倉庫の中で戦っていたとき外で待機していたイアナ嬢たちはケチャの率いるゲルズナーの群れに襲撃された。


 異世界の悪魔であるゲルズナーは光魔法や聖女の浄化で退治できる。さらにシュナの技で瞬殺できるので驚異とはならなかったのだがケチャには手を焼いたらしい。


 やはりあの子供は別格だ。


 とはいえケチャもイアナ嬢の防御結界とシュナを守るおばちゃん精霊(ラ・ムー)の雷の結界を突破することができず最終的には退却を余儀なくされた。


 俺はケチャとランバダの会話からイアナ嬢を何かのついでで狙ったのだと知った。


 奴らの真の目的が何かはわからない。だが、少なくともついで程度にはイアナ嬢を狙っているのだ。油断することはできない。


 この時点で俺は奴らのバックにメラニアがいるのだろうと判じていた。カール王子の可能性もあるかもしれないがそっちはかなり低いだろう。


 メラニアは次代の聖女であるイアナ嬢を排除して聖女になろうとしている。


 ……ん?


 ここで俺はふと思う。


 メラニアは聖女になろうとしているのにイアナ嬢の抹殺はついで程度だ。


 だとしたら真の目的は何なのだ?


 あの二人(いやコサックとかいう奴を含めれば三人か)に何をさせようとしているんだ?


 ああ、そういやメラニアはドラゴンの魔石を集めているんだったな。


 それも奴らと関係しているのか?


 疑問ばかりが浮かんでくる。


 ぶん殴って全部解決できたらどんなに楽か。


 しかし、そんな簡単にはいかないことも俺は知っている。難儀だけどな。


 とりあえず奴らのことはランスたちに任せよう。もちろんシスターキャロルも裏で動くのだろうけど気にしない気にしない。


 よし、俺はこれまで通りお嬢様のために頑張るぞ。


 ……なんて思ったんだけどなぁ。


 *


「……」

「……」


 ノーゼアの街の外れにある平原。位置的には南門の近くだ。街道からちょい離れているのでたまに広範囲攻撃魔法の練習をしている奴もいる。


 俺もちょい全力で訓練したいときにここを利用していた。


 いや、ほらうっかり狂戦士化しかけて暴れてもまずいし。これでも周囲に気を遣ってるんだよ? 誤解されやすいけど。


 その平原で俺とイアナ嬢が対峙していた。


 ちなみに二人きりではない。イアナ嬢の横には苦笑するシュナがいる。


 腕を組み仁王立ちになった(たぶんお嬢様から教わったこの表現は合っているはず)イアナ嬢が俺を睨みつける。可愛い顔が台なしになってるぞ。


「あんたねぇ」


 おや?


 声に呆れが混じってるぞ。


「なーんで一人でこんなところに来てるのよ。あたしを放っておいて何をしたい訳?」

「……」


 イアナ嬢。


 どうしてそんな「彼氏に放置された彼女」みたいなこと言ってくるんだ?


「あんたとあたしはパーティーを組んでいるのよ。だから、どこに行くのも一緒にいないといけないの、わかる?」

「……」


 わかりません。


 とか言ったら怒るんだろうなぁ。


 わぁ、面倒くせぇ。


「別にただの訓練なんだから一人でやってもいいだろ。イアナ嬢は俺と手合わせでもしてくれるのか?」

「えっ、あたしとしてくれる……」

「ちなみにちょい本気でやるから怪我は覚悟してもらうぞ」

「……」


 喜び書けたイアナ嬢の表情が一転する。


「あ、あんたはか弱い女性にわざわざ怪我させるって宣言するの? どういう神経してるのよ」

「いやいや。ちょい本気の手合わせなら怪我くらいするだろ。少なくとも俺は親父にそう教わったぞ」

「あんたの父親ってどんだけ武闘派なのよ。それともあれ? 先頭狂?」

「いや、ただの使用人だな。まあ『武芸は一流の使用人のたしなみ』とか『筋肉は嘘をつかない』とか『ガタガタ言わせる前にぶん殴って黙らせろ』とか言うような人だが」


 俺はあえて筆頭執事とは口にしなかった。


 ライドナウ家の筆頭執事である俺の父親はある程度この国の貴族に明るい者なら名前を知っていてもおかしくないからだ。


 ましてやイアナ嬢はグランデ家のご令嬢。ウィル教の教会に入っていたとはいえライドナウ公爵家の話をどこかで聞いていても不思議ではない。貴族なんて貴族同士の噂話が大好きだからな。


 イアナ嬢がはぁっと深くため息をついた。


「武芸は一流の使用人のたしなみって、それじゃまるでダニエル・ハミルトンみたいじゃない」

「……」


 ワォ。


 イアナ嬢、いきなり大正解かよ。


 俺が内心吃驚しているとシュナが話に混ざってきた。


「あ、ダニエル・ハミルトンなら僕も知ってるよ。あれだよね、素手でレクサスの森のエンシェントグリーンドラゴンを退治したっていう元冒険者の」

「……」


 親父。


 あんたの武勇伝がこんなところまで広まってるんだが。


 俺が動揺を面に出さぬよう腐心しているとシュナが「ん?」と何かに気づいたような声を発した。


 イアナ嬢が反応する。


「何?」

「えっと、偶然かもしれないけどジェイの姓がハミルトンだなーって」

「あーそう言えばそうね」

「……」


 うっ。


 イアナ嬢の視線が。


 俺はだらだらと背中に汗をながした。ごまかすのに必死なので額とか見える位置での汗とかかかないのだ。手汗はびっしょりだがな。


 えっ、器用な真似?


 いやいや、きちんと訓練を受けた執事ならこのくらいできて当然だろ。


 少なくとも俺はそう教わったぞ。


 俺をじっくり眺めてからイアナ嬢が首を傾げた。


「うーん、同じハミルトン姓だけど顔は違うのよねぇ。あっちはもっとごつい感じだし。たまたま同姓だったってところかしら?」

「……」


 俺は心の中でぐっと親指を立てる。


 よし、バレずに済んだ。


 と思ったのにシュナが。


「でもダニエル・ハミルトンも武器より拳で戦うタイプだよ。珍しくない?」

「ああ、それもそうね」

「……」


 おい、シュナ。


 せっかくこの場を乗り切れそうだったのに余計なこと言うな。


 あと、親父はいつも素手で戦う訳じゃないぞ。あくまで素手でも戦えるってだけだ。どんな武器や武術でもこなせる戦神みたいな奴だからな。


 あんな化け物と一緒にするな。


 俺は無言で毒づくが睨むようなヘマはしない。そんなことをしたらかえって認めるようなものだからな。


 可能であれば俺がライドナウ家の元執事であることを秘密にしておきたかった。


 理由は簡単。妙な詮索をされたくないからだ。


 シスターキャロルのせいで騎士団とかに俺の名が知られてしまっているがライドナウ家の元執事なのは知られていない。あくまでも広まっているのは冒険者としてのジェイ・ハミルトンだ。


 シュナのせいで雲行きが怪しくなるかと思われたそのとき激しい爆音が轟いた。


 反射的に音のした方へと振り向くと黒っぽい煙が離れた場所で上っていた。俺たちの位置からは結構遠いので熱波とかはほとんどない。


 ああ、誰かが攻撃魔法の練習をしているのかな?


 シュナが目を細めてそちらを見ている。


 イアナ嬢がやや迷惑そうに。


「もうっ、こっちは話をしているのにうるさいわね」

「んー、どうもウィル教のシスターが何かやってるみたいだね。ここからだとよくわかんないけど」

「……」


 シュナ。


 お前、すげぇ目がいいんだな。


 ……じゃなくて。


 俺はめっちゃ嫌な予感がしてきた。


 ウィル教のシスターって。


 いや、まさかな。


 そんなことはないはず。


 ない、よな?


「おーいっ!」


 シュナが件の方に手を振り出した。両腕を大きく広げて存在を主張している。


 て、わぁ、やめろやめろ!



 **



「あら、ジェイ」


 俺たちが離れた位置で大きな爆発を引き起こしたウィル教のシスターたちに近づくと、見慣れた顔に迎えられた。


 俺のお嬢様ことシスターエミリアと元ライドナウ家メイドのシスターキャロルだ。


 お嬢様は俺からイアナ嬢へと顔を向けるとにっこりと笑った。


「こんにちは。イアナさんもご一緒だったんですね」

「え、ええ」


 爆発を引き起こした人物に何事もなかったような挨拶をされたからかイアナ嬢が少し複雑そうな表情で応える。


 というかこの二人、顔見知りだったのか。


 俺がそんなことを思ったからかイアナ嬢がちょいむっとした。


「あによ、あたしがシスターエミリアたちと知り合いだと悪いの?」

「いや、そんなことはないが」

「じゃあ何でそんな顔してんのよ」

「……」


 うーん、顔に出てしまったか。


 まさか本当にお嬢様がこんなところにいると思わなかったから自覚している以上に動揺しているらしい。俺もまだまだ修行が足りないな。


「あのねぇ」


 イアナ嬢がはぁっとため息をついた。


「あたしはウィル教の僧侶なのよ。ノーゼアに来てウィル教の教会に顔を出しても変じゃないでしょうに」

「まあそうなんだが」


 いつの間に、という疑問を口にするよりも前にシュナが俺たちの間にずいと割り込んできた。


 彼は片膝をついてお嬢様の手を両手で包む。


「初めまして、麗しくも可憐なシスター。僕の名はシュナ。聖剣ハースニールに選ばれ雷の精霊の加護を受けし者です」

「まあ、あなたが雷の剣士の。お噂は伺ってますよ」

「それは光栄です。よろしければこの後お食事でも」


 おい。


 俺のお嬢様に気安く触るんじゃねぇ。


 減ったり汚れたりしたらどうするんだ。


 俺がシュナをお嬢様から引き離そうとするとそれよりも早く強烈な冷気があたりに満ちた。


 シスターキャロルだ。


 すっげえにこやかなんだけど逆にそれが怖い。


「あらあらあらあら」


 お嬢様が苦笑しながらシュナの手から逃れ、流れるような動作でその場を離脱する。


 シュナが突然のことに戸惑っているが自業自得だ。つーか一回死んでおけ。それだけの罪をお前は犯したんだからな。


 冷気を止めず、それどころかむしろ強めてシスターキャロルは言った。


「雷の剣士様、お初にお目にかかります。私はキャロル。以後お見知り置きを」


 笑みに邪悪さを添えて。


「もっとも、あなたに以後があればですが」

「へぇ」


 シュナが立ち上がりながら微笑で返す。


「僕はシスターエミリアとお話したいんだけどなぁ。君、どうしてこんなことするの?」

!「あら、不届き者からあの子を守るのは当然のことでは?」

「君もシスターだよね。その言い方だと何だか君がシスターエミリアのメイドか護衛みたいに聞こえるけど」

「そうですか」


 シスターキャロルとシュナのいる周辺だけが別の空間であるかのようにドーム状の冷気の壁に覆われる。


 俺とお嬢様それにイアナ嬢は二人から少し距離をとった。


 強い冷気のせいでうっすらと壁の中が白く見える。だが、どうにか中の二人の様子は視認できた。


 シュナが聖剣ハースニールに手を伸ばしている。


「僕とやり合うつもり? やめた方がいいよ」

「あなたこそ。地べたに額を擦りつけながら泣いて謝罪してください。半殺しで勘弁してあげます」

「うーん、僕が君に詫びないといけない理由が思いつかないんだけどなぁ」

「おや、雷の剣士ともあろうお方が存外残念な頭なのですね。かえって哀れです」


 二人が言葉を交わす毎に冷気が気温を下げて中を白く染めていく。あれは常人ならまともに動くこともできぬくらい寒いだろう。


 しかし、今中にいるのは常人たちではない。


 シュナが聖剣ハースニールを僅かに抜き、すぐに鞘に収めた。


 ガラスを砕くような音を響かせて冷気の壁が崩れていく。


 あれは前にお嬢様から聞いた異国の剣技「居合い」のようなものか?


 実際には聖剣ハースニールを抜いて冷気の壁を斬ったのに早業過ぎて剣筋すら見えなかった。


「えっ、今の何?」


 イアナ嬢が目を白黒させるがとりあえず放置。


 てか、俺も吃驚だ。


 あいつすげぇな。今さらだけど。


「さすが隠し攻略キャラ。うん、十周クリアしないと攻略フラグが立たないだけあって格好良いですねぇ。ユカちゃんが推していたのもわかります」

「……」


 え?


 楽しそうなお嬢様の声だが、俺には何を言っているのかわからない。


 つーか、隠し攻略キャラって?


 十周クリアって何?


 ユカちゃんって誰?


 お嬢様は一体何の話をしているんだ?


 俺の意識が盛大に脇へと逸れている間にシスターキャロルとシュナは再度睨み合っていた。


 今度はシスターキャロルのまわりだけ冷気が生じており結界を形成している。


 シュナの方も雷の結界を張っていた。あの結界はケチャの攻撃を通さないほど強いのでシスターキャロルも突破は難しいだろう。


「キャロも強いのは強いんですけどなかなか私の前での戦闘ってないんですよね。魔改造したとしてもさして活躍の場もないですし。でもこうして見ると雷の剣士と遜色ないパラメータなんですね。ああ、私がヒロインだったらうまく使えたのに。キルドくんも捨て難いんですがやっぱり氷魔法といったらキャロですよね」


 お嬢様がまたぶつぶつ言っている。


 あ、あの悪い癖が出てるな。


 というかキルドのことも知っているのか。


 ふむ、キルドの奴もお嬢様目当てに教会に通っていたようだな。


 後でちょいとお話しないといけないなぁ。


 シスターキャロルが大きく腕を振って頭上に青い光を発現させた。小さく唇を動かしているのは呪文の詠唱だろう。


 俺には彼女の声が聞こえなかったが何をしようとしているのかはわかった。彼女との模擬戦でも何度となく受けた攻撃だ。


 青い光が氷の槍と化す。


 一本だけではない。二本、三本……八本の氷の槍が作られた。


 シスターキャロルがシュナへと投げるようなジェスチャーをすると氷の槍が一斉に発射された。


 シュナは動かない。


 一切の抵抗もなく氷の槍はシュナを守る雷の結界に着弾した。


 爆音が轟き白い煙と氷の粒が拡散する。


 シスターキャロルは攻撃の手を緩めない。彼女はさらに八本の氷の槍を撃った。爆音が重なり白煙が広がっていく。氷の破片が飛び散り、そのいくつかが俺たちの足下に転がった。


 シスターキャロルがあからさまに顔を歪めて失望を露わにする。


 シュナは無傷だった。


 その肩には誇らしげに親指を立てるおばちゃん精霊。


 うわっ、見ちゃったよ。


 というかあのおばちゃん精霊姿を隠してないだろ。


 シュナがショックで寝込んでも知らないぞ。


 おばちゃん精霊が片手を上げる。


 バチバチと放電量を増やしつつ雷の結界が一回り大きくなった。呼応するようにシュナが上段に聖剣ハースニールを構える。


 おばちゃん精霊がシスターキャロルを指差した。


 シュナが吠える。


「ライトニングバーストストリームッ!」


 振り下ろすと同時に剣撃が螺旋状に回転しながら放たれる。バチバチとスパークする剣撃は雷の結界の一部を取り込んでその勢いと威力を増幅させた。


 剣撃が氷の結界に命中する。


 パシュ。


 乾いた音とともに剣撃が消失する。


 氷の結界には傷一つない。完全に攻撃を防いでいた。


「私の氷はただの氷ではありませんよ」


 シスターキャロルが告げた。声には愉悦の色。


 ああ、あいつもう勝ったと思ってやがるな。


 俺がそう判じているとシュナが雷の結界を解いた。


 跳躍。


 おばちゃん精霊の力もあってシュナの身体能力も常人を超えていた。高く飛び上がったシュナを見上げているとケチャ戦で目にしたあの大技を思い出した。


 あれはケチャにも通じた技だ。まあ、すぐに回復されたのだが。


 落下しながら突き刺すように聖剣ハースニールを構え直す。その刀身は夥しい数のスパークを放っていた。


「サンダーフォールッ!」

「……」


 あれだ。


 冷静に考えると、あれって迎撃に対してかなり無防備になる技じゃないか?


 シュナには悪いがついそんなことを思ってしまう。


 そしてそれはシスターキャロルも同じらしかった。


 彼女は素早く氷の槍を形成するとそれを上向きに発射した。


 シュナは避けようとしない。いや、避けられないのか?


 落下するシュナと上昇する氷の槍がその距離を詰める。


 シュナの聖剣ハースニールが放電を倍加させた。一気にスパークの明滅が激しくなりその光はシュナを包む。


「うおおおおおおおおッ!」


 シュナの雄叫びが放電の音に重なった。



 **



 大技・サンダーフォールを繰り出したシュナとシスターキャロルの放った氷の槍が空中で爆発する。


 想像以上の爆音が轟き灰色の爆煙が広がった。


 おっ、これはさすがのシュナもただでは済まないか?


 と、俺が思ったのも束の間、爆煙からシュナが現れた。


 雷の結界に守られている。


 彼は聖剣ハースニールを再度構え直し、下向きに突き立てる態勢で落下していた。頭がした、足を上にしてほぼ逆立ちのようにして落ちている。あれでは着地の受け身など取れそうにない。無茶するなぁ。


 シスターキャロルが露骨に顔をしかめた。


 彼女は氷の結界ごとバックステップで後方へと移動する。


 そしてさっきまで彼女がいた場所に無数の氷の槍を配置した。


 わあ、えげつねぇ。


 落ちてきたところを氷の槍で串刺しにしようってか。


 シュナの落ちる勢いは迎撃されたせいでかなり削がれていた。それでも今から落下地点を変えることは難しいように見える。


 お嬢様が言った。


「まあ、こんなものですかねぇ」

「……」


 どうやらお嬢様の中では二人の戦いの行方が見えてしまったようだ。


 ま、俺もシスターキャロルの勝ちかなあって予想がついたんだけど。


「じゃ、このあたりで止めますね」

「えっ」


 このあたりで止める?


 俺が耳を疑っているとお嬢様は修道服の袖口から二本の棒を取り出した。赤茶色のそれはそこそこ長く、とても修道服の袖に仕込めるような物ではない。


 ええっと、お嬢様それどうしたんですか?


 棒の持ち手の部分にそれぞれ一個ずつ小さな魔石が付いている。


 うん、魔道具なんですよね。それはわかるんですけど、それで何をするつもりなんですか?


 俺はぱくぱくと口を動かすが声が出てこない。


 横に目をやるとイアナ嬢も無言で口をぱくぱくさせていた。何だか可愛い。


 じゃなくて!


 えっ、声が出せない?


「あ、そうそう。この止めまスティックを使用するときは使用者以外音の伝道が制限されるんです。音の指向性とかいじっているうちにこうなってしまったんですよねぇ」


 お嬢様がとても楽しそうに説明してくれている。


 しかし、俺には何を話しているのかさっぱりだった。


 お嬢様、せっかくの説明を理解できなくてすみません。


「それでですね、これをこうすると」


 お嬢様が二本の棒を交差させるように打ちつけた。無音だが俺の本能が「やばい音がした!」と騒いでいる。


 音も無くシスターキャロルの作った氷の槍が全て粉微塵になった。


 ぎょっとしたシスターキャロルがこちらを向く。おいおい、お前がそんな顔をするなんてよっぽどだぞ。


 何の障害物もない地面に聖剣ハースニールを突き立てるとシュナがくるりと身を回転させて着地した。さすがはご都合主義ウェポン。落下の衝撃もダメージもゼロですか。


 シュナの肩の上でおばちゃん精霊が笑顔を凍りつかせていた。何だか理解不能なことが起きてるって感じで首をひねっている。


「それにしてもあの雷の精霊、すごく綺麗ですね。何だか儚そうで、それでいて気品のある天使みたいというか。ああいうのが加護してくれるなんてさすがは雷の剣士ですねぇ。ああ、ユカちゃんにもこの勇姿を見せてあげたい」


 え?


 綺麗?


 何だか儚そう?


 貴賓のある天使みたい?


 いやあれはおばちゃんですよ。


 お嬢様、まさか目を悪くされたんですか?


 俺はおばちゃん精霊とお嬢様を交互に見る。これは一体どういうことなんだ?


 シュナが地面から聖剣ハースニールを引き抜くと横振りに払った。大きく口を開いて何かを叫んだようだが止めまスティックの影響のせいか声は一切聞こえない。


 技を放つ動作をしても何も発動しなかった。


 ほんの僅かなスパークすらしない。


 シュナが目を見開き、慌てたふうに何度も聖剣ハースニールを振った。その度に技の名を口にしたようだが声は一言も出なかった。


 なるほど。


 俺は理解した。


 シュナがチュウニの如く技の名を叫んでいたのはあの技名が発動のキーワードだったからだ。だから声の出せない今シュナは技を繰り出せないでいる。


 となると、ますますピンチだぞ。


 あぁ、これは本当にシュナに勝ち目がないな。


 ……て、思ったのだが。


 突如、シスターキャロルの氷の結界が消えた。


 シスターキャロルがまたこちらを見、悟ったかのようにシュナへと駆け出す。


 どうやら体術のみで決着をつける気でいるらしい。


 俺がそう判じるのと同じタイミングでシュナもシスターキャロルとの距離を詰めた。


 とはいえシュナには聖剣ハースニールがある。素手のシスターキャロルと比べたらリーチは長い。


「はい、おしまいおしまい」


 お嬢様が何度も止めまスティックを打ち鳴らした。


 見えない力に打ち据えられたようにシュナとシスターキャロルが昏倒する。シュナなんかは顔からぶっ倒れたんだが大丈夫か?


 あ、そうか。


 シュナにはご都合主義ウェポンがあるもんな。


 ちょっと怪我したとしてもすぐに回復するか。


 あいつ化け物だなぁ。まああのご都合主義ウェポンのせいなんだけど。


「音波、超音波? うーん自分で作っておいてあれなんですけど今一つ面白味に欠ける魔道具なんですよねぇ。これむしろ改良してドラムを必要としない打楽器にできると良いのですが。そっちの方がスローライフっぽいんですけどねぇ」

「……」


 お嬢様がまた何か言ってるぞ。


 でもどうしよう、言ってる意味がわからない。


 お、お嬢様は何をしたいんだ?


 *


 俺たちはまだ平原にいた。


 八人くらい座れる広さの布を敷き、その上に俺たちは座っている。とはいえシスターキャロルとシュナは寝ていた。気絶状態からまだ回復していないのだ。


 あ、でもシュナの方はもうじき意識を取り戻すかもしれない。何せあのご都合主義ウェポンを持たせているからね。


 俺とイアナ嬢は並んでお嬢様と向き合っていた。


 俺たち三人の間には大皿に盛られたパンの山とティーセット。


 木製のカップには湯気の立つ紅茶が注がれている。


 ちなみにここで湯を沸かしたりはしていない。それなのに紅茶は淹れ立てのように温かだ。


 いや、まああれですよ。


 おかしいとは思ってたんですよ。


 だって、あの止めまスティックも修道服の袖に入れておけるサイズじゃなかったし。


 てか、お嬢様はいつから収納の能力を使えるようになってたんだ?


 それも時間経過遅延か停滞のおまけ付きの。


 敷き布もパンもティーセットも全部お嬢様の着ている修道服の袖口から出て来た。


「この修道服、結構いろいろ入るんですよねぇ」


 なんてごまかそうとしているけど俺の目は騙されませんよ。


 お嬢様の「やらかし」に目を丸くしたまま硬直していたイアナ嬢が復帰して頭を左右に振った。


 やや戸惑い気味に尋ねる。


「あの、シスターエミリアはいつから収納の能力に目覚めたんですか?」

「あら、私は収納なんて持ってませんよ」

「……」


 あからさまな嘘にイアナ嬢が黙ってしまう。


 いや、そこで諦めるなよ。


 もうちょい頑張ろうぜ。


 少し様子を見たが一向にイアナ嬢が質問を再開しようとしない。


 やむなく俺が引き継ぐ。


「ええっと、仮に修道服にこれだけ入るとして、そんなに入れられるものなんですか? 俺、マジックバッグとかマジックポーチなら見たことありますが袖口に仕込めるタイプなんて見たのは初めてですよ」

「そう? じゃ、珍しいのかしら」

「……」


 お嬢様。


 やっぱり嘘ついてますよね。


 俺はお嬢様に告げた。


「嘘つくと鼻がピクピクする癖、直ってませんね」

「えっ」


 お嬢様の手が鼻に伸びた。


 よし、嘘だと確認。


 俺は心の中で親指を立てた。


 だが……。


「なーんて、そんな手には引っかかりませんよぉ」


 お嬢様が悪戯っぽく笑んだ。可愛い。


 あれか、天使の絵のモデルってお嬢様なんじゃないか?


 いや、天使だけでなく女神のモデルもお嬢様なんだ。


 俺がそんなふうに思っているとイアナ嬢が脇腹を突いた。地味に痛い。


 小声で。


「ちょっと、ぽーっとしてないでよ」


 俺も小声で返す。


「別にぽーっとなんてしてないぞ。むしろ男としてごくまっとうな反応をしているだけだ」

「そもそもあんた彼女の何なのよ。まさか騎士団の人たちの言ってたことが本当なんじゃないでしょうね?」

「……」

「急に黙るの止めて欲しいんだけど」

「あの」


 お嬢様が割って入ってくる。


「ひょっとして、ジェイから私との関係を聞いてないんですか?」

「か、関係?」


 イアナ嬢の声が裏返った。


 何を誤解したのか耳まで真っ赤になる。


「……」


 うん。


 面倒くさいことになりそうだなぁ。



 **



 あれこれ詮索されるのは御免だ。


 なので俺はきちんと説明しようと決めた。


 一つ咳払いし、まっすぐにイアナ嬢を見つめる。目が合った途端頬を紅潮させた彼女に目を逸らされた。何故だ。


 ま、まあそれは一旦脇に置こう。


 よし、言うぞ。


 ……と決心したのだが。


「イアナさんは私とジェイの関係が気になるんですかぁ?」


 ちょい意地悪そうな声音でお嬢様が尋ねた。


「……」


 イアナ嬢の顔がさらに赤くなる。


 いや、どうしてイアナ嬢がそこまで赤面するんだよ。


 意味がわからん。


「ふふっ、わかりやすい人ですねぇ」


 お嬢様がとても楽しそうだ。


 それはいいのだが俺は説明するタイミングを逸してしまった。


 いやまあ話を戻せばいいんだろうけど何かそれも違う気がするし。


 どうしたもんかなぁ。


「あ、あたしは別にこいつのことなんか」


 ちらちらとイアナ嬢が俺を見てくる。


 ん?


 俺の顔に何か付いてるのか?


 手で触れてみたがそれっぽいものはない。もしかしたら鼻毛でも伸びているのかと思ったのだがそれも違うようだ。


 お嬢様がクスリと笑った。


「ジェイは案外鈍いんですね。でもこういうのも新鮮で楽しいです」

「はぁ」


 何だろう。


 釈然としないというかもやもやする。


 イアナ嬢が訊いた。


「お、お二人は仲が良いんですね」

「ええ、もちろん私とジェイの仲はとても良好ですよ」

「……」


 イアナ嬢が俯いた。


 小声で。


「あたしの入る余地はないのかな」

「……」


 何だかよくわからないが落ち込んでいるみたいなので俺はイアナ嬢を励ますことにした。


「安心しろ、イアナ嬢は既に俺の特別だ。お嬢様と張り合う必要はない」

「えっ」


 イアナ嬢が顔を上げる。


「あ、あたしがジェイの特別?」

「うーん、たぶんそれ別の意味だと」

「も、もうジェイってばシスターエミリアがいるのに恥ずかしいこと言わないでよ」


 急にイアナ嬢のテンションが上がった。


 ばしばしと俺の背中を叩いてくる。痛い。


 しかしまあこれで話を戻してもいいだろう。


 俺はイアナ嬢に打ち明けた。


「実は俺は元ライドナウ公爵家の執事なんだ」


 背中を叩いていた手が止まった。


 イアナ嬢が固まっている。そんなに驚くなんて俺も思わなかったよ。こっちまで吃驚だ。


「え? てことはハミルトンって、え?」

「……」


 おおっ、驚いてる驚いてる。


 目はすげぇ開いているし口もあんぐりとさせちゃってまあ、とても名家のご令嬢とは思えないな。グランデ伯爵がこれ見たら泣くぞ。


「だだだだってほらハミルトンってあれよ、ごつくて武闘派で挨拶代わりにグーで殴りかかってくるような奴よ。脱輪した四頭立ての馬車を通行の邪魔だからって片手で道の脇に投げ飛ばしちゃうような奴よ。そんな化け物があんたの父親なの?」

「……」


 親父。


 あんたが世間でどう思われているかよぉーっくわかったよ。


 てか、公爵様もよくそんな奴を筆頭執事にしたよな。


 あれか、聖人か? 聖人なのか?


 あといくら親父でもいきなり挨拶代わりにグーで殴ったりしないと思うぞ。


 たぶん、だけど。


 殴らないよな?


「そうですね、ダニエルってそんなイメージありますよね。けど、初対面の相手なら手加減はしてくれるはずですよ。でないと一撃必殺になってしまいますし」

「……」


 お、お嬢様までそんな。


 親父のイメージってどんだけデンジャラスなんだよ。


 と、とにかく俺は自分がライドナウ公爵家の元執事であることをイアナ嬢に伝えたのだった。


 *


 イアナ嬢が少し落ち着くのを待ってから俺は話を続けた。


 お嬢様の持ってきたパンを一口囓ってからずっと口をもぐもぐさせているのだが……あれか、パンでもやらかしているのか。


 俺は大皿に盛られたパンの山から一つを手にした。ふわふわした手触りのパンはここノーゼアだけでなく王都でもまずお目にかかれない代物である。


 でも俺は何度となくこのパンを食べていた。いや、ほらお嬢様がよくお裾分けしてくれるし。というか王都にいた頃にもお嬢様が作ってたし。


「いただきます」とお嬢様に教わった食前の挨拶をしてから食べる。


 柔らかなパンの食感にふわっと焼きたてのような香ばしさが口の中に広がった。


 少し遅れて甘い果実の香りが鼻腔をくすぐる。ほどなくしてイチゴ味のジャムが現れ口内に甘味と淡い酸味が満ちた。ただパンを食べているだけなのにとてつもない幸福感に満たされる。


 声が漏れた。


「美味い」


 お嬢様の口角が上がった。


「パンの中にイチゴジャムを入れてみたんです。塗って食べるのとはまた違った楽しさがあるでしょう?」

「ええ、これ良いです。ずっと食べていたくなります」


 俺が絶賛するとお嬢様がふふっと笑った。可愛い。マジ天使。


「ジェイのお口に合ったようで私も嬉しいです。でも、食べ過ぎは駄目ですよ」

「ははは」


 俺とお嬢様が和やかに笑っていると突然イアナ嬢が叫んだ。


「あたしこれ全部食べるっ!」

「落ち着け、というか太るぞ。だいいち全部なんて食べ切れないだろ」


 冷静につっこんでやるとイアナ嬢がギロリと俺を睨んだ。


「あによ。どうせあんたはこういうのライドナウ家で散々食べてきたんでしょ。今回くらいあたしに譲りなさいよ」

「あらあら」


 お嬢様が口に手を当てながら上品に笑む。


「取り合いになるくらい気に入ってもらえるなんて作った甲斐がありますねぇ」


 *


 俺とイアナ嬢がぎゃあぎゃあやっていると脇から手が伸びて大皿のパンの山からひょいとジャムパンを引ったくった。


「あっ」

「ちょっ」


 俺とイアナ嬢が揃って犯人の方へと向く。


 聖剣ハースニールを傍らに置いたシュナが優雅にジャムパンを食べ始めていた。


 さすがご都合主義ウェポン。もうシュナをここまで回復させたか。


 数口で食べ終えたシュナがにこりとして言った。


「美味。これもっと食べたいかも」

「まだまだありますよ」


 お嬢様はすでにある分では足りないと判じたらしく修道服の袖口からパンの山を盛った大皿を取り出した。


「え」


 シュナが硬直した。


 うん、そうなるよな。


 俺も改めて見たけど吃驚だよ。


「収納の能力。素晴らしい、可憐で美しいだけでなくそんな能力もお持ちとは。正に神に愛されているとしか思えない」


 シュナの言葉にお嬢様が微笑みつつ否定した。


「いえいえ、これは収納能力ではありません。私の着ている修道服の……」

「なるほど、その修道服に収納の付与魔法が施されているのですね」

「ええ、よくわかりましたね」

「……」


 お嬢様のあの顔、嘘だな。


 てことはやっぱり収納の能力か。


 俺がお嬢様とシュナの会話に気を取られているうちにイアナ嬢がジャムパンを食べまくっていた。それもう確実に太って後悔するコースだぞ。


 何だか気が抜けてしまったのでイアナ嬢と張り合うのは止めることにした。でも最後に一個だけキープしておこう。


 お嬢様とシュナは俺たちが目にした爆発についての話へと移っている。


「ところで、先程の爆発は? 失礼ですが僕にはシスターがあんな危険な魔法を扱えるようには見えなかったもので」


 シュナの見解は当たっていた。


 王都の学園にいた頃、お嬢様は座学の成績が優秀だったものの攻撃魔法の実技は人並みだった。ここで言うところの人並みは初級ランクの攻撃魔法しか使えないという意味だ。


 大規模な爆発を伴うような攻撃魔法は大抵ランクB以上の上級魔術師でないと発動しないようになっている。素人が無闇に使用すると危険だからだ。呪文や魔方陣にはその制限がかかるような術式が施されている。


 俺たちが見た爆発は魔法によるものであれば間違いなく上級者向けの魔法だった。


 だとすればお嬢様に扱える代物ではない。


 となるとあれはシスターキャロルの仕業か?


 何かそんな感じしないんだよなぁ。


「ああ、あの爆発を見られていたんですね」


 お嬢様が少し照れたようにはにかんだ。可愛い。永久保存したい。


「あれは魔法によるものではないんです」


 お嬢様は修道服の袖口からバスタードソードくらいの長さの筒を出した。


 筒の直径はリンゴ一個分の大きさがあって肩に担ぐと丁度いい位置にグリップとボタンがある。でも教会のシスターがこれ持って構えていたらちょいびびるな。


「実は教会の宝物庫にこれが眠っておりまして。あ、うちの教会ってすごいんですよ。宝物庫に異世界の魔王を封じた宝玉とか髪の毛が伸びる木製の女神像とかあるんです。木像なのに髪の毛が伸びるって一体どんな仕組みなんだろうって考えるとワクワクしてきませんか? 私的にはあれは髪の毛ではなく植物系の精霊が宿っていて空気中の魔力を養分としながらちょっとずつ育っているのではないかと……」

「へぇ、それはすごい。で、この筒みたいな物は?」


 脱線しそうな気配を察して俺は軌道修正を試みた。


 お嬢様があっさりと応えてくれる。


「ブラザーラモスが言うにはノーゼアの西にあるダンジョンから過去に発見された魔道具と同じ物ではないかと言っていました」


 ぽそりと。


「ま、ぶっちゃけバズーカ砲ですよね、これ」

「……」


 バズーカ砲?


 あ、うん、聞かなかったことにしよう。


 たぶんスルーしないといけない奴だ。


「ま、魔道具なんですか」


 動揺をごまかすように俺がそう尋ねると何故かお嬢様の口角が上がった。


「ええ、どうやら魔力と魔石を用いるもののようです。それで一度威力を確認した上でこのまま保管するか封印扱いにするか決めようということになりまして」


 それであの爆発か。


 あれだけの爆発だとどっちかな。別に街一つ消滅させるほどの威力はないけど武器としては結構やばい気がする。


 などと俺が思っているとシュナが質問した。


「これ魔石が要るんですよね。となるとやはりそれなりに大きな魔石を?」

「いえいえ」


 お嬢様は袖口から小指の爪くらいの魔石を取り出した。


「これと使用者の魔力で一発分になりますね。純度も低い魔石で十分ですし、必要とする魔力も火球一つ分で済みますしコストパフォーマンスは相当良いですよ」

「……」


 コ、コストパフォーマンス?


 聞き慣れない言葉に俺は目をぱちぱちさせた。


 シュナも理解できなかったようでぽかんとしている。


 イアナ嬢は……ワォ、ジャムパンが全滅してるじゃん。良かった一個キープしといて。


 つーか完食しやがったよ、すげぇな。


 まあイアナ嬢のことは脇に置いておこう。


 俺はお嬢様に訊いた。


「あ、あのーコストなんたらって?」

「そこはスルーしていいですよ」


 にっこり。


「いちいち引っかかっていたら疲れますよ?」

「……」


 そうですね。


 俺はお嬢様に気圧されてコクコクとうなずいた。

 

 

 


 第1章はこれで終了です。


 ここまでお読みいただきありがとうございました。

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