5.この命、犯人当てに使い潰す
部屋から一歩も出られなかった。
死ぬのが怖い。
最初のような事故とは違う。
息ができず、目の前が真っ暗になるほどの痛みは、一生たっても忘れることができないだろう。
自動ロックの扉には、手当たり次第に荷物を積み重ね、誰にも開けられないようにした。
唯一の生命線の目安――腕時計も、意図的に荷物の下へと押し込めた。
布団を頭から被り、私は私を抱きしめるようにして眠りにつく。
……扉を誰かが叩いて呼びかける声が聞こえるが、それも無視をする。もうどうだっていい。
どうせ、みんな死ぬんだ。
ならば、わざわざ痛みに耐えてまで動く理由など、どこにもない。
……けれど、本当にこのまま死ぬのか。何の意味もなく、こんな形で。
『緊急警報!緊急警報!……!……!!』
朦朧とした意識を覚醒させる。その警戒音は全てを諦めた私を呼び起こすほどの力があった。
『火災が発生しました。至急、消火活動を行ってください!
繰り返します。火災が発生しました』
「火災!?」
ベッドから飛び起き、扉の荷物をどかそうとするが隙間からくる熱風に後退りする。
もうこんなところまで?
熱のせいか、喉が渇き唾を飲み込むことすら出来ない。なのに震えあがるほどの無音に、たちまち恐怖に支配された。
このままでは、また……!
熱した扉を手にかけ、手のひらが焼けるように赤くなり、じんじんと痛みが広がる。
しかし、混乱と恐怖に支配されたせいか、痛みを気にする余裕などなく、扉を無理矢理こじ開けようとする。
熱い。皮膚が焼ける。喉が焼け、呼吸のたびに肺が裂けるようだ。視界が揺れて、意識が遠のく。
それでも手は扉にかけられたままだ。
諦めたはずなのに、苦しみから生を求めて扉をこじ開ける。
けれど、それは扉を開けても開けなくても同じだった。
目を覆うほどの炎に覆い被さられ、私の全身は赤く染まる。
「…………!!!!」
泣くことも叫ぶこともできず、ただただ痛みを受けることしかできない。
初めて受ける長い苦しみ。
これは、私も、他の人のことも諦めた末の罰なのだろうか。疲れたら休む。生命として当然のことも許されないのか。
受けたことのない苦しみと痛みに、どこか他人事に考え、諦めた罰を受け続ける他なかった……。
『12月20日。8時です。あと1時間でミーティングが始まります。』
――またこの日だ。
アラームの音が、現実よりも悪夢のように感じられる。
私の今の現状は最悪だ。
人を助けるために行動しても死ぬ。楽に死にたいと諦めて引きこもったら苦しんで死ぬ。どのみち死ぬしか残されていないじゃないか。
犯行時刻のアリバイも動機も何も分からない……探偵じゃないのに推理なんて出来ない。
ゲームみたいに総当たりでプレイすることができれば……。
これは天才的な発想なのか、それとも狂気の始まりなのか――自分でも、もうわからなかった。
「死ねばいいんだ」
なぜなら私はゲームのように死に戻りができる。なら、ゲームと同じで総当たりをしたら良いのだ。
セーブとロードを繰り返し、犯人を当てる。そのためには、一人一人ずっと一緒に過ごし、私を殺す奴がいたらそいつが犯人だ。
もう何回も死んだ。苦しんで死んだ。何をしても何もしなくても死ぬなら、何回でも死んでやろう。
そして、犯人を見つけた暁には同じように苦しんでもらおうじゃないか!
新たな目標を見つけた私の目は輝いていた。そうと決まれば手早く身支度をすませる。
華龍さんと、船長は私が死ぬ時にそばにいたから犯人ではない。
ミステリーものでよくある死んでるものが実は生きていたに当たりをつけて、まずは主人公のフレイアに当たりをつけよう。
死ぬ前日に思い込んでいたのも気になる。私が死ねば犯人。死ななければ無実。
よし、楽しくなってきた――誰よりも深く、何度でも死んでやる。