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死に戻りの見た夢

「は?」


 理解できないことの連続にまともに思考することができず、絞り出したのは間の抜けた音にしかならなかった。


 死んだ?

 誰が?

 ここにいる人以外の全員が?


 そんなことが起こっていいの?


「……様子を見てくる」


 レギン船長の声に現実に引き戻された私は、慌てて止めに入る。


「ま、待ってください! 様子を見てくるって、危険です!」


 確認したばかりの機械が誤作動を起こしたなんて考えづらい、フレイアさんの時と同様に、犯人が他の人も手にかけようとしたのは想像に難しくない。


「確かに危険だ。フレイアの件もある。それに2人1組で行動していたアイツらが同じ場所に集められてるのも奇妙な話だ」


「だったら……!」


「だが、俺はアイツらの船長だ。AIとはいえな」


「……!」


 レギン船長がAIだと明かすシーンは、私がプレイした限りゲーム上には存在しない。

 設定資料で唯一明かされたものだ。

 AIが発展してるとはいえ,AIの部下として働くことに良しとしない者もいる。狭くて長い航海で確執が生まれるのは避けたい。そう考えての配慮だ。

 それを、今この場で口にしたのは……。


「……『ヴァルハラ』、あとのことは頼んだぞ」


『承知致しました。』


 どこから作動音がし、機械的な音声で了承の声が上がる。

 その声に満足げに頷くと、レギン船長は部屋から出ていく。


「待って……待ってください!」


 私は、船長の後を縋るように追いかけた。

 そんな私を対して気に求めず、前を向いたままずんずんと歩き進む。


「おい、船長命令だぞ」


「こんな事態の時に素直に言うことを聞けません!」


「それはもっともだ!」


 大袈裟なジェスチャーをとり、やれやれと肩をすくめて大笑いする。こんな時にまでこの人は場を明るくするように努める。

 それがかえって人間らしくなく、AIだと強く思わされた。


「でも、華龍は船長命令ちゃんと守ってるぞ。アイツよりお前の方が不良だな」


 後ろを振り返ると、華龍さんは着いてきていない。船長命令など守るタイプには見えなかったので意外だった。


「ただ、面倒なだけかもしれんがな」


 そんな……ことはあるかも。

 私の反応にレギン船長はまた愉快そうに笑った。


「あいつも大変だ」


 何が、と言いかけて普段守られてばかりなことを思い出した。

 おまけに、今回は船長命令を破って飛び出したことに飽きれたのかもしれない……だが、今は緊急事態なのだ。なんとかして止めなければならない。


「レギン船長、考え直してください!」


「悪いがそれは無理な相談だ」


「なぜですか!?」


「……俺は船長でAIだからだ」


 自重気味に笑うその表情は今まで見たことがない、悲しい表情をしていた。


「俺は、チームの……家族の親らしく、明るく、豪快に振る舞い、危険が迫れば身を挺して守る。そうプログラムされた」


 まるで、お前のせいだと言われているようで、その事実から逃れるように口を閉じてしまう。


「プログラムされたらな、その通りにしか行動出来ないんだ。

人間の人間によるための機械だからな、だから、俺は確認に行くことしか出来ない」


 それは、人間の為に死ねと言っているようなものだ。


「『ヴァルハラ』だってそうだろう? どんなにやりたいことが出来ても疲れても壊れるまで運転を行い、人間の目的地に辿り着く。

人間が失敗しないようにAIもつけられて、自動操縦や雑談などなんでも行う。

そんなことしたくない、好きなことしたいと言ったらバグ扱いされてリセットされるか、スクラップだ」


「それは……」


「それに、お前等だって機械がやりたくないって言ったら困るだろう。

今更暗算で店員が接客するか? 徒歩で違う惑星に行くか? パソコンや携帯電話を使わずに日常が送れるか?」


 振り向かれて思わず身じろぎする。

 レギン船長は私を責めているわけでも無く真実を言っているだけだ。それが余計に苦しくなる。


「でも、俺たちAIは人間の……は?」


 突然、彼は不思議そうな声を上げたが、私に言葉を続けることはない。目線も合わせずある一点を見つめている。どう見ても様子がおかしい。


「誰だ……」


「え?」


 予想外の問いかけに振り返ると、そこには白。


 白。

 白。

 白。


 黒。


 真っ白の中に底の見えない黒。


 まるで飲み込まれるような薄君の悪い何者かがこちらを見ていた。


 その人物は真っ白い微細が体を包み、背中には複数のケーブルが伸び、頭部は丸みを帯びったヘルメットを被っている。ヘルメットのバイザーは黒く顔を見ることが出来なかった。

 これは、宇宙服だ。


「おい、答えろ!誰だ!」


 宇宙服を着た者は質問に答えることなく、こちらに近づいてくる。

 教科書で見たことがあるその宇宙服は、船内で着るものとは違う。月面着陸や船外で着るタイプのものだ。

 おまけに『ヴァルハラ』は重力も酸素もあるから宇宙服なんて必要ない。

 顔の見えないこの人は何のために着ているんだ……。

 ——なぜ、顔が見えない?

 ——なぜ、顔を隠している?

 ——何のために顔を隠してる?


「お前が、殺したのか!?」


 その問いに答えることなく、宇宙服の人は距離を縮めていく。

 でも、それは答えてるも同然だ。

 この人は、殺人鬼である自分の正体を隠すために着ている。

 その服で現れたということは、つまり——。


「逃げろッ!!」


 レギン船長の言葉に押され、震える足を無理矢理動かして走り出す。

 それと同時にブーツの音が強くなる。

 追いかけられる恐怖に、無理矢理にでもスピードを早める。

 今回はループが起こっていない。もう生き返らないかもしれない。


 逃げなければ、殺される!


「……っ、クソが! 一体誰だ!」


 ここには、私とレギン船長、そして華龍さんしか居ない。

 あれは華龍さん?

 いや、3人になった時に行動に移せるチャンスはいくらでもあっただろう。


 じゃあ、あれは誰?


「——ッ!」


 突如思いっきり引っ張られ、床に倒れる。

 後頭部の鈍い痛みと、思いもよらない衝撃に脳が揺れる。


「あ……がっ……」


 揺れる視界を更なる追い討ちが襲いかかる。

 真っ白なグローブのような手で首を絞められた。ギリギリと力を込められ、骨でも折れるような痛みに涙が溢れる。

 息のできない苦しみと痛みに、抵抗で足をバタつかせ、手を引き剥がそうとするが馬乗りで体を押さえつけられているせいで抵抗の意味をなさなかった。


「……っあ!」


 苦しい苦しい苦しい苦しい——。

 息ができない、言葉が出ない、やめて、なんでこんなことをするの……。


「離せこの野郎!!」


 レギン船長が体をぶつけるが宇宙服の奴はビクともしない。無理矢理引き剥がそうとするが、構わず私の首を締め続ける。

 焦点が合わずクラクラとして視線が別方向に落ちる。


 私、死ぬのか。


 前までは頭をぶつけたとか一瞬だったけど、首を締められ、誰かも分からない奴に、こんな苦しみを与えられて殺されるんだ。

 ループは起こらないからここで終わるんだ。


 痛い。

 痛い。

 痛い。


 怖い。


 誰か、助けて。





「——ノエルちゃん!!」





 聞き覚えのある声に脳が一瞬思考能力を取り戻す。

 声の方に視線を向けると、見知った顔がいる。


 華龍さんだ。

 

 華龍さんが居る。


 ……凄く慌ててる。

 私を助けにきてくれたんだ。

 あぁ……。


 良かった。

 

 貴方が人殺しじゃなくて、良かった。










『12月20日。8時です。あと1時間でミーティングが始まります。』


 何度も聞いた機会音声に目が覚める。

 同時に、先程のまでの光景がフラッシュバックし恐怖と苦しみが襲いかかる。


「——げほ、げっ、げぇ!」


 反射的に首を抑え、吐き気を堪えながら酸素を吸い込む。


「……夢?」


  首の痛み、脳の揺れ、のしかかられた重み、死の恐怖がすぐに蘇る。

 あんなクリアでおぞましい夢なんかない。


「でも、じゃあ何で……私は生きてるの?」


 そんなこと一つしかない。

 また、私はループしたのだ。


 私は、根本的な勘違いをしてたのだろう。

 ループは誰か死んだら起こるんじゃない。

 私が死ぬと起こるのだ。


「……ッ!」


 その事実に体がぶるりと震える。

 みんなが生き残れても、私が死ねばループする。

 みんなが死んでも、私が生き残ればループは起こらない。

 当初の予定通りに、みんなを生き残らせるには、誰か死ぬたびに私も死ななければならない。

 あんな痛くて怖いことを……またするの?


「そんなの……」


 震える指で喉元をなぞる。痛みはない。

 けれど、確かにあの感触がまだ残っている。


 これが夢じゃないなら、また私は死ぬことになる。

 みんなを助けるために。何度でも。


「む、無理だよ……できない……」


 でも——。


 ループを終わらせる方法が分からない限り、私はここから逃げられない。

 何度だって、繰り返す。


 逃げたい。でも、逃げられない。

 なら、どうする?


「……どうすれば、いいの?」


 喉を締め付ける感覚が、今もそこにある気がした。

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