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2024年1月

 「あけましておめでとうございますっと」僕は独り言を呟いて大宮センターの鍵を開ける。現在の時刻は2024年1月1日 時刻は4時45分、大宮センター拠点長浅貝竜馬の仕事初めだ。

お歳暮やおせちの影響がないECの配送センターで勤務している僕は元旦から出勤自体はあるが、物量も少なく、業務内容だけ切り取れば1年の中では一番、楽な日である。ドライバーさんの配送リストを作成したら、初日の出を見ようかなと新年早々で少し気の抜けた気持ちでタイムカードを押した。まずはコーヒーと煙草……。スマホをかざしながら自動販売機のあったかいのボタンを押しながら、このあったかいはいつまであったかいんだろうかとたわいもない事を考えていた。喫煙所の電気をつけて、煙草に火をつける。少し肌寒い、暖房はまだ効いていない。無意識的にスマホを取り出すと、学生時代の友人からあけましておめでとうとLINEが来ていた。年末年始は仕事を入れていて地元に帰れなったと思いつつ、群馬の実家に帰るのにも東北道も関越道も混雑するだろうから時期をずらせたのは良かったのかと元旦から働いている自分の事を正当化する。まいちゃんとのLINEを開くと、「初詣に行こうよ」と来ていた。「早番だから仕事終わりにいけるよ。浅草寺とかは混んでそうだから大宮の氷川神社とかはどう?」と提案した。初詣はしたいが人混みは嫌いだ。まいちゃんは今、初夢を見ているのだろうか。ちょっと羨ましいなと思いながら背伸びをした。気持ちを整えて業務に取り掛かる事にしよう。

 今朝、買った缶コーヒーは冷え切っていて時刻は8時を過ぎていた。仕分けをしてくれたパートさん全員にあけましておめでとうございます。とお疲れ様を言った。何度か「お年玉は?」と聞かれたが愛想笑いか笑顔で返した。アルコールチェックをするドライバーさんにもあけましておめでとうございます。と伝える。ゆく年くる年に飲んでてアールコールが検出されるドライバーさんがいませんようにと念じた。今日の配送の1番の心配はこのアルコールチェックである。新年早々、

本社宛てに長文で報告書なんか送りたくもない。配送自体は余剰車両も多いから、荷物が割り当てられていないドライバーさんに稼働してもらえばなんとかなる。でも流石に新年早々からアルコール検出の報告なんてしたら僕が上層部からなんて言われるか……考えたくもない。

 僕の心配と裏腹に誰一人、アルコール検出されたドライバーさんはいなかった。荷物が割り当てられたドライバーさん全員の出庫が確認できたので、余剰車両のドライバーさんに午後分の荷物を積み込んでもらった。時刻が9時半を指す頃には倉庫から全員のドライバーさんが出庫し、僕一人だけになった。

 時刻は11時を過ぎた頃、藤原さんの声がした。「浅ちゃんあけましておめでとう。正月番組、1区切りしたから少し早いけど来ちゃった。お昼は食べた?うちのせがれから貰った林檎あるけど食べる?」と藤原さん。「あけましておめでとうございます。食べます。食べます。藤原さんの息子さんって長野で農業やっているんですよね。」と言いながら林檎をほおばる。冬の寒さで乾燥した喉に林檎の甘い味が染みる。「そうそう。これシナノゴールドって言うんだ。ジュースにしても美味いよ。」藤原さんと世間話で盛り上がって、即席で決めた新年の抱負の話もした。

 いつも通りの日常を元旦という特別な日が彩る。大宮センターは今日も異常なしだった。


 

 事故もトラブルもなく僕は定時に退勤した。大宮駅の中央改札口でまいちゃんと待ち合わせをした。まいちゃんが手を振りながら近づいてきた。「あけおめだよ〜りょうちゃん!埼玉、寒すぎ……」と顔をくっしゃとしながら厚めのコートに身を包み、マフラーで顔がほぼ見えないまいちゃんが目の前にいた。「埼玉寒いとか言うなし。大宮と板橋じゃあんまり変わらないでしょ。」と僕がふざけてまいちゃんの腕を掴んだ。「荒川を越えたらそこは雪国だよ。」というまいちゃんに「なに川端康成みたいな事言っているの」と笑いながら手を繋いだ。大宮駅東口を出て、氷川神社の参道を歩いた。駅の構内はいつもより人が少なく感じたけど、流石に元旦の氷川神社は沢山の人で賑わっていた。「職業柄、交通安全のお守りを買いたい。」という僕と「おみくじを引きたい。」というまいちゃん。話し合った結果、お参りをした後におみくじを引いてお守りを買う事になった。

 お参りを終えて、僕とまいちゃんはお守りをどれにしようか選びながら、列に並んでいた。「まいちゃんはお参りの時、なに願い事した?」と僕がまいちゃんにきくと「願い事、誰かに話すと叶わなくなるらしいよ。なので言いません。」とちょっとからかった顔で言ってきた。「ケチだなあ……僕はまいちゃんも末永く、今後も一緒にいられますようにってお願いしたよ。」と僕は言った。「お……次だよ」とまいちゃんが言うとさっきまで目の前にいた人の列がなくなっていて僕らはお守りを選んだ。

 おみくじは凶だった。縁起が悪いので、結んで僕らは氷川神社を後にした。


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