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最終兵器、北へ

作者: 雉白書屋

 長きにわたる沈黙を破り、ついに最終兵器が起動した。唸り声を上げるかのように山が震え、その肌が引き裂かれていく。地下に建設された軍事基地、その扉が開き、巨大ロボットが地上に姿を現わした。 

 一歩進むごとに山は土砂崩れを起こし、最終兵器は濛々たる黄塵を巻き上げ、前進を続けた。

 それは、国が総力を挙げて作り上げた最強の兵器だ。核融合炉を搭載し、大地を割り、山を崩し、海を行けば大波を起こす。その行く手を阻むものなど存在するはずがなかった。

 最終兵器は一度も止まることなく歩き続けた。まるで星が鼓動するかのように足音が響いた。

 最終兵器が起動してから、どれくらいの時間が経っただろうか。ある時、白銀に染まった北の大地で、最終兵器はついに立ち止まった。

 目の前に立ちはだかるものが現れたのだ。前方に聳え立つそれは敵国の最終兵器、同じく巨大ロボットであった。

 敵は排除する定め。睨み合いはしばらく続いた。やがて、こちらが一歩動くと相手も動き、相手が動くとこちらも一歩動き、二体の巨大ロボットの距離は次第に縮まっていった。

 また一歩……また一歩……。大砲のような地響きが轟く。そして、二体がいよいよぶつかる、その時だった。巨大ロボットは互いに右へ移動した。そして、さらに一歩、また一歩。二体はすれ違い、そのまま前進を続けた。

 攻撃されない限り、こちらから相手に仕掛けることはないという基本的なプログラムに従ったのだ。それは、かつて国同士で行われていた核ミサイルの睨み合いを引き継いでいるかのようだった。

 それにしても、わざわざ国民から税を、労働力を、鉄を巻き上げ、このような巨大な兵器を作り上げた理由は何なのか。終わりの見えない戦争に疲弊し、気が狂ったのか。それは最終兵器が一度も使われずに人類が滅亡したため、もはや知る者はいない。

 最終兵器たちはその後も歩き続けた。一度や二度、またすれ違うこともあったかもしれない。しかし、彼らには語る口も心もなし。

 そして、長い月日が経った。

 ある時、地球を打ち鳴らすその鼓動が止まった。

 最終兵器がその歩みを止めたのだ。

 彼の前に立ちはだかったのは、健気に咲く花々であった。 

 大地を踏み鳴らし、建物の残骸を崩落させ、海をかき混ぜ、陽を遮る影を作り、また陽を当て、荒涼とした大地に再び、少しずつ芽生えた生命に囲まれたのだ。

 もっとも、最終兵器に花の命を尊ぶ心はない。とうとうエネルギーが尽きた、あるいは故障しただけのこと。

 目覚めた理由は動き出した相手の最終兵器の起動を感知したからに他ならない。しかし、ではなぜ初めの一体は目覚めたのか。

 それは、もしかしたら人類の祈りがようやく届いたのかもしれない。

 再び眠りに入った最終兵器。大地に堂々と聳え立つその姿は、まさしく仏のような佇まいだった。

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