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Re:CALL  作者: 明上 廻
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運命の出会い

 『特尉!? ………当り前じゃないですか!? 許可なんて必要ありません!』

 「え!? そうなの!? 僕の家族から試験の時は禁止されていたから許可がないと使っちゃいけないのかと」

 もっと早く知りたかった。

 目の前の獰猛な狂食者たちを前に、手短にいる奴を打ち上げて重ね上げて思いっきり斧を振りかざす。

 今回のホワイトカラーは、豚やイノシシに似たような姿をしたタイプだった。

 一般的に見るタイプだな。

 鈍い音と共に、肉の裂ける音と骨がきしむ音が聞こえてくる。

 このままだと時間が掛かる。

 でも、魔法を使っていいなんてヌルゲーだ。

 斧を思いっきりふり投げ、自分は思いっきり空に飛ぶ。

 バキンッ、という音と共に投げた斧が砕けた。

 「あ、やばぁ!」

 今日、支給されたものを速攻で壊してしまった。

 始末書、かな?

 ………いや、言い訳は後だ。

 自分の魔力を体に流すだけで身体は強化される。

 いつもなら全力を出しても3メートルくらいしか飛べないが、魔力を浸透させた体であれば10メートル以上飛ぶことができた。

 「座標は………こんな感じかな」

 目視で確認できたホワイトカラーの首元に座標を合わせる。

 発動時間は0.2秒。

 一息に終わらせる。


 「『空間切除』」


 体の魔力を回路に流し込み一気に消費させる。

 一瞬だけ、このエリアの空気の流れが乱れた。

 直後に、ホワイトカラーの首がズレた。

 が、何体か逃してしまった。

 「あー、なまっているな。もう少し頭の位置演算を正確にしないと」

  やっていることは至極単純だ。

  座標、x、y、zに自分の位置から距離情報を打ち込み『入口』と『出口』を設定しているだけだ。

  空間と空間を繋げる魔法。

 それが僕の魔法だ。

 『入口』と『出口』という単純な空間魔法だが、殺傷能力が高すぎる能力でもある。

 空間を無理やりつなげているため、『入口』と『出口』の境界線にいる物体は、『入口』と『出口』が閉じてしまうと無残に切れてしまう。だからこそ、扱いには細心の注意を払わなければならない。

 本当は『別な魔法』も解放しているけどあれは、元の空間すら歪めてしまうから禁止だ。

 便利だけど基本使えない魔法。

 だからできうる限りいままで体を鍛えてきた。

 でも、さすがに姉一号には負けるかな。

 体脂肪率一桁の色気ゼロに彼氏ができるのか、心配だ。

 粗方、片づけインカムでオペレータにつなぐ。

 「残存のホワイトカラーは?」

 『あ、いえ、こちらからは生存を確認できる個体はありません。お疲れさ———』

 その時、再び背中がざわつく感覚に陥った。

 この感覚………。

 「………人、か?」

 『はい?』

 空間魔法の副次的効果なのか、僕は空間の変調に敏感なのだ。

 普段は、あまりにも神経が磨り減るので、範囲を絞っているが今は戦闘で空間魔法を使用した後であり、あたりは砂漠で障害物も少ない。

 だから、半径百キロ間の異変には気がつきやすい。

 「すみません、避難民かもしれないので誘導してきます。オペレータさんは駐屯所に残っている方に 僕の代わりを頼んでください」

 『あ、ちょっと———』

 『入口』をくぐって『出口』に出ると通信が途切れた。

 大方、通信範囲外へ出たのだろう。

 それよりも、だ。

 目の前にいる人物は、薄い布を頭からかぶり、砂漠の熱を防いでいたのだろうが、息が上がっていることからあまり役に立っていないようだ。

 どちらにせよ、こんな砂漠地帯且つホワイトカラーをよけてきたのであれば、疲弊どころか命の危機すらある。

 そんなときに、自分の内側から笑いかけるように声が響いた。

 『ねえねえ、ここはコロニーの範囲外だから誰も見てないよ?』

 僕の中にいる『よくないもの』が囁いてくるが無視だ。

 「おい、大丈夫か?」

 遭難者? だろうか。

 すでにフラフラとしながらも歩みを止めようとはしない。

 もしかして、さっきのホワイトカラーの群れから逃げていたとか、かな?

 「聞こえている?」

 が、反応を示さない。

 訝しんだ時———。


 当該人物が倒れたのだ。


 駆け寄ると、体が痙攣し始めていた。

 そっと触れると体が熱く、おそらく40度近くあるだろう。

 推察するに、この砂漠地帯を抜けてここまで来たとするなら、熱中症、熱射病、脱水状態が疑われる。

 警告に対して無反応だっということは意識の混濁によるものだろう。

 すぐに木陰に移し、水分を与えなければならないが、そもそもここに陽光を遮る遮蔽物は存在しない。

 見殺しにはできない。

 今、すぐに処置しないと。

 空間魔法で、元の場所に戻るとすぐにオペレータにつないだ。

 「迷い込んだ羊を確保したものの意識障害を起こしています。すぐに治療しなければならないので、これから東ブロックの商業施設に移送します。以上」

 オペレータからは、苦情が上がりそうだったが一方的に切った。

 困ったときはお互い様だ。

 だから後で当直長にお叱りを受けないようにソフトな伝達を頼みます。

 空間魔法で転移して、東ブロックの住み慣れた空き家に入る。

 ここは、僕が家に居づらいときに逃げている場所だ。

 簡素なものしかないが広く、ベッドなどがおかれている。

 そっとベッドに横にさせ、常備していた冷却シートをオデコに貼ってあげる。

 介抱のために、ベッドに寝させていた体を抱きかかえるようにして上体を起こしてあげる。

 先ほどまで慌てていたので相手をよく見ていなかったが、色白というより蒼白に近い肌で髪や眉なども白い女性だった。

 まるで不純物を極度に無くしたかのように感じるほどの純白だ。

 なんてキレイな人だろうか。

 一瞬、見とれてしまったが気を取り直す。

 今、必要なのは水だ。

 しかし重大な問題がある。


 ———ここは水がない。


 商業地区もこの時間はやっていない。

 そのため、飲料水などは手に入らない。

 あくまでトイレがあるだけで、これといって生活できる空間ではないのだ。

 本来であれば医者に見せるべきだろうが?

できない。

 市民権のないものをコロニー内に移すことは法令で禁止されている。

 四乃宮家当主であれば、その程度の権限は有しているかもしれないけど僕は居候である。

 なら手段は限られてくる。

 懐にしまっておいたナイフを自分の左手に充てそのまま切る。

 当然、斬った部分から血が流れるので彼女の口元に運ぶ。

 「ごめんな、今はこれしかできないんだ。」

 飲料水を生み出す魔法使いも存在するが、ここにはいない。

 本来であれば、血だって感染症などの危険もあるが、剣崎のご令嬢や理奈姉さんが自分の血をよく飲んでいたのでおそらく大丈夫だろう。

………モスキート系女子がいて助かったと思えるのは初めてのことだ。

 タオルで顔の汗をぬぐってあげる。

 未だにつらそうな顔だが、今できる最善をしているつもりだ。

 これを何度か繰り返していく。

 しかし先ほどに比べると呼吸も落ち着き、体温も安定してきている。

 もう少し状態が落ち着いたら東ブロックの人たちが仕事から戻ってくるはずだ。

その時に水を分けてもらおう。

状況を説明すれば、東ブロックの人たちは融通してくれるはずだ。

 と、思っていた時だ。

「あ、ああああああああああ!」

 様態が急変したのだ。

 悲鳴じみた声が響いたと思った瞬間に———


 ———左掌を噛まれた。


 「痛っ!」

 無意識下でかなり強く噛まれ、噛みつかれている部分諸々引き裂かれてしまった。

 出血は慣れているので、一旦、彼女の上体を横に戻し、僕は近くにあったタオルを噛まれた患部に当て、押すようにして、その上から包帯を巻きつけ止血をすぐに行った。

 それと幸運だったことに、今は戦闘服を着ている。

 この服を着用していると傷を自動的に回復する効果がある。

 だから、こんな噛み傷程度であれば、傷跡は残るが出血や切り傷などは即座に治る。

 ベッドに戻るとさらに異変が起きていた。横にしていた女性が尋常じゃない苦しみで悶えていたのだ。

 そして、腹部を抑えるようにして悶えていた。

 もう一度、状態を確認すると、運んでいる時には気が付かなかったがお腹が膨らんでいたのだ。

「………っ、妊娠していたのか!?」

 これは、さすがに自分の範疇を越えている!

 迷惑をかけないようにしてきたが、もうそんなことは言っていられない。

 すぐに紅葉さんに連絡を取り、必要なものを四乃宮邸で用意して自分も一旦、『空間魔法』で邸宅に戻り、一緒にタオルやお湯を沸かした。

 砂漠地帯を抜け脱水症状まで起こしていた。

 その時に、紅葉さんに言われた。

『死産を覚悟しなければならない』

紅葉さんに通信機越しに言われたときは、歯噛みした。

 それでも、できることはしなければ。

………せめて母親だけでも。

 紅葉さんと一緒に戻ると、ドア前で紅葉さんに門前払いされた。

 いつも冷静沈着な紅葉さんが、眉をひそめて表情を険しくしているところを初めて見た。

 「仕事にお戻りください。後は私の仕事です」

 そう言われて、隠れ小屋から追い出されてしまった。

 中から、悲痛な叫び声が聞こえてきたが、今の僕には何もできない。

 「………また、僕は無力だ」

 あの母親のことが、心配になったが僕には何もできない。

あとは紅葉さんに全部託すしかない。

 陰鬱な気分だがやるべきことは残っている。

 駐屯所に戻ると、引継ぎをしてくれていた人たちが何とも言えない表情をしていた。

 ああ、これはお叱りかな。

放置していたオペレータに事情を説明しようとしたところで、当直の司令官からお叱りの言葉を受けた。

「持ち場を放置していなくなるとはどういうことだ!」

 おっしゃる通り………。

 指令室ではレーダー監視しているので強襲時には、ワンコールで空間移動してすぐ戻れるようにしていたが、司令部にも対面がある。

 結局、補助具破壊および持ち場放棄の始末書を初出勤で面倒なことすることになった。

 でも、頭の中であの母親のことが気になって仕方がなかった。

 

 『あんたなんか———』

 

 あの言葉が蘇る。

 どこまでもあの言葉が、僕を追いかけてくる。

 ———そうだな。

 今も昔も。

 僕は、変わってない。

 変わらず、無力でどうしようもない。

 変わりたいと願ってこれまで努力してきたつもりだったのに………。

 結局は、何もできないまま、か。

 『アハハハ!』

 脳裏から直接送られてくる笑い声に嫌悪感とやるせなさを抱いた。





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