表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:CALL  作者: 明上 廻
5/42

初任務

 「うわああああああああああああああああああああああああああ」

 小さなカプセルに詰められたかと思ったら、カプセル内部からでもわかる引っ張られる力を感じた。まるでジェットコースターだ。

 超加速され数分、空中に投げ出された浮遊感がきた。

 その後、重力にひかれて墜落する衝撃があった。

 「………最悪」

 ジェットコースターとか嫌いなんだよ。

 自分で行きたい方向にいけないし、小股がスース―する。

 悪態をついていると、カプセルが開き灼熱の熱波が流れ込んできた。

 「あつーい」

 熱風を送風されているみたいだ。

 何もしてないのに汗が出てくる。

 ああ、そうか。

 僕は、今———。


 地上に出たんだ。

 

 



 人類は、何度も破滅の危機を迎えた。

 一体どれだけの血が流れたのか。

 軍学校の出身である僕には習わないし、興味もなかった。

 だけど歴史は学んできた。

 いわゆる目先の問題に気を取られて未来に多額の負債を残した。

 その過程で、地上に住むことが困難な環境に陥ってしまった。

 それだけでなく———。


 『バケモノ』が出現した。


 『ホワイトカラー』と呼ばれる、白い皮膚、赤い目、そして人間に対する異常なまでの執着心、知性を飢餓感に埋め尽くされたような捕食者。

 もちろん、その他にも外敵はいるがコロニーに生存している人たちを守るために、各コロニーに軍部が設立され、今もこうして体をはっている人達がいる。

 「お、来たか、新入り」

 迎え入れてくれたのは、さわやかな青年………だった。

 特徴がない。

 あ、僕、他人の顔を覚えるの、苦手だったわ。

 いまさらながら単独で行動してきたために他人を認識するのは、なんか苦手だ。

 「俺は、アルフォード。この駐屯所のリーダーだ。さあ、入って」

 促されるままに入ると、数人の隊員たちが一斉にこちらに注目し始めた。

 ………こういった人前に立たされることは、苦手なんだよな。

 「こいつが石永さん推薦の甲斐田だ。お前たち挨拶しろ」

 そう言うと、みんなの表情がきつくなった。

 一人の隊員が一瞥するとアルフォードさんに向き直った。

 「納得いきません、隊長。こいつ、どうみてもアウターじゃないですよね?」

 アウターというのは、コロニー内部に住めなかった人たちの別称だ。

 軍部は、約8割から9割がアウターだ。

 コロニーの東西南北のエリア内には境界線があり、そこにアウターの人が住んでいる。




 コロニーにも居住できるキャパが存在する。

 そういったコロニー内部から溢れた、もしくは作られた子供であるデザインチルドレン、放浪者たちが定着したところがコロニー地上居住区だ。

 コロニー内部の人たちは、アウターの人達のことを能力のないただの捨て駒と思っており、アウターは、内部の人たちを温室で育った肥えた豚と思っている。

 またアウターは、コロニー内部の学校や制度を利用できないことも問題になっている。

 両者間の差別意識はひどく、毎年どこかの地上ブロックが内政とぶつかっているのをニュースで見ている。

 だからこそ、軍属にアウター過多なのはそういった背景があるからだ。




 だからと言って、僕に言われても何も解決するわけでもないのに………。

 「ギシス、お前、北ブロック出身だったな。もし東ブロックで今の言葉を使えば、たとえ防衛隊であれ殺されるぞ」

 ?

 そうなのかな?

 東ブロックには、よく行くけど全員温厚な人たちだったけど。

 とても軍部に唾を吐きかける人たちではない………はず。

 「なんでですか!? 東の管轄の四乃宮家とは関係———」

 「お前の目の前にいる人は、その四乃宮中佐の弟君だ」

 『義理』の、ね。

 正確に言えば、家を間借りしているだけの居候だけど。

 が、アルフォードさんの言葉に全員が驚愕した眼差しでこちらを見た。

 「!?」

 「そして、この間の試験でスリーキラーと呼ばれた男だ」

 「「「!?」」」

 なんか全員、顔色がコロコロ変わるな。

 見ていて面白い!

 ………ところでスリーキラーって何?

 「あれが、現職ナンバー3の実力を持った戸高さんを軽くあしらったバケモノ!」

 「重量無視の念動系魔法を拳で弾き飛ばし、手加減して勝った怪物………」

 「四乃宮邸という魔窟で生存している人外」

 おい、最後のやつ!

完全に偏見入っているぞ!

 ベッドのシーツに醤油をこぼしたら、アイアンクローから絞め落とされるだけだし。

 地獄の鬼ごっこを仕掛けてくる人達が住んでいるだけだぞ!

 でもとりあえず、自己紹介しておこうかな。

 「甲斐田都木といいます。これからよろしくお願いします」

 そういって、頭を掻いていたら全員から敬礼された。

 さっきまでと対応に差が………。

 「自分は———」

 「ギシス、お前の紹介時間は過ぎた。同様に他の隊員も、だ。新人が自分から名乗りを上げたらそれで双方の紹介時間は終了だ。つまり、お前たちはつまらないプライドでこれからの守護神に名前を憶えてもらう機会を逃したんだ」

 え、いや、そんな意図はなかったんだけど。

 というか、そんなあいさつルール初耳なんですけど!

 軍学校で教わってないのだけど!?

 「甲斐田特尉」

 「特尉!? え、僕、いきなり将校扱いなんですか? しかも特尉ってなんですか!? よくて二等兵からスタートするものかと………」

 「あれだけの実績、試験官が本気になっても一撃も入れられない実力差を分析するに、将校クラスからのスタートが妥当であると判断されました。また、通常の階級と違うのは、通常と違う仕事を任されるためです」

 あー、嫌な予感。

 「東西南北のどこか一つの拠点に三勤でついてもらうまでは一緒ですが、エリアの防衛は、一人で行ってもらいます」

 うわぁー、マジか。

 めんどくさ。

 「アルフォードさん、それは無茶苦茶だ! 各エリアどれだけの敷地だと思っているんですか!?」

 ほんとだよ、めんどくさくて気が滅入る。

 「石永少将と四乃宮中佐、そして剣崎最高司令の許可のもと与えられた階級だ」

 何してくれてんの!?

 いや、待て。

………落ち着こう。

 まあ、でも………なるほどね。

 将校ではあるが、兵を持たないから特別であると。

 だから『特尉』。

 「それとプロトタイプだが、特尉用の武器も用意しています」

 そういって促されるまま、駐屯地の裏側まで連れていかれた。

 そこには黒い棺のようなものが置かれていた。

 「開けてみてください」

 ためらいなく開けてみると、中には『戦斧』が入っていた。

 片手で持ち上げると、後ろから驚嘆の声が聞こえてきた。

 「あ、あれを片手で………」

 「運ぶのにどれだけ苦労したか………」

 「た、たぶん軍服の強化倍率が高いとか………」

 後ろでゴソゴソ言っているが、聞こえない聞こえない。

 するとアルフォードさんが、かわりに聞いて来た。

 「か、甲斐田特尉、筋力補正の倍率って何倍に設定されていますか?」

 「補正?」

 「軍服にはそれぞれ特徴があります。みたところ甲斐田特尉の軍服はオーダーメイドのようなので補正が強いのかと………」

 あーなるほどね。

 「筋力補正はないですね。魔力の浸透率とか回復に割り振ったみたいなので防御の倍率は四分の一、筋力補正に関しては『要らないだろ?』とのことでついていません」

 僕が返答すると、アルフォードさんの顔色がどんどん青色に変わっていった。

脂汗もすごいことになっている。

 二日酔いですか?

 「あの大丈夫ですか?」

 そう言いながら、戦斧をクルクルと回し、使いやすさを確かめる。

 うーん、少し軽いな。

 あと魔力の浸透率が悪い。

 バッテリー機能とかつけられないか相談してみよう。

 その時、直感がざわついた。

 「ん?」

 「どうしました?」

 この感覚も久しぶりだな。

 「………たぶん、警報なるかな」

 「警報、ですか? なぜ———」

 アルフォードさんが言う前に、けたたましい警報が鳴り響いた。

 その後、僕以外を除いて全員片耳を抑えた。

 どうやら通信が入ったらしい。

 うーん。

 ここは、新人の僕が行くべきかな。

 先輩方にはバックアップをお願いしよう。

 まあ、この程度は問題ないはずだ。

 「隊長さん、余っているインカムあります?」

 「………一番古いものなら」

 隊長が指さした方に、すぐに向かい耳に差し込む。

 「じゃ、僕行きますから」

 そういって、駐屯地を飛び出した。

 走りながら、インカムのスイッチをオンにする。

 「こちら特尉。オペレータ状況報告お願いします」

 『こちらオペレータ。東ブロック第一次防衛ラインをホワイトカラーが進行中。数………千!』

 あー、千ね。

 ま、ちょっと多いけど何とかなるでしょ。

 「特尉、現場に急行後、殲滅作戦に移行します」

 



 「隊長、我々も———」

 「ダメだ」

 「なぜです!? 千体のホワイトカラーの大群なんて増援要請ものでしょ!?」

 「『普通』ならそうだな」

 「普通ならって、そんな悠長に———」

 「みんな『ゼロシフト』はつけているな?」

 そう言うと、全員頷いた。

 『ゼロシフト』

 軍部で開発した超高性能ナノマシン。

 通信のラグを極端に減らし、軍部の中央指令室と連絡を円滑に且つ本人が見ている情報を本部のモニターに映し出す画期的なものだ。

 しかし、本当の意味で画期的なところは別な部分だ。

 『ゼロシフト』は、目薬なのだ。

 数時間後には、涙として体外に排出される。

 ナノマシンで以前、人類崩壊を招いたための措置でもある。

 「本部、状況画面を我々の目に接続してくれ」

 そう言うと、赤い光点が積載する場所に、黄色い光点が突っ込んでいっている。

 「あいつ、この短時間でどんな移動しているんだ!? ここから第一防衛ラインまで何十キロあると思っているんだ!?」

 驚くのもわかる。

 この駐屯地から第一次防衛ラインまでは最短でも八十キロ以上は離れている。

 しかし、甲斐田特尉が出て行って五分もかかっていない。

———車さえ使わずに。

 『甲斐田特尉、接敵まで3・2・1———』


 オペレータの言葉と共に、赤い光点が一瞬で一区画亡くなった。


 「………、今の一瞬で30体くらい消えたのか?」

 「現地で何が起きているんだ!?」

 対象者である特尉が『ゼロシフト』を着けていないので、現場の映像が出てこない。

 が、急にインカムの向こうにいるオペレータが騒ぎ出した。

 『特尉!? ………当り前じゃないですか!? 許可なんて必要ありません!』

 何を言い合っている?

 「オペレータ、何があった。甲斐田特尉に何があった!?」

 『それが………『魔法』を使っても大丈夫か、と聞かれました』

 は?

 なんで、そんな当たり前のことを。

 『なんでも、試験の時にご家族の方から禁止命令が出ていたらしく………』

 ………。

 「ということは、何か? 最初の初撃はただの力任せで30体のホワイトカラーが死滅した、ということか?」

 『信じがたいですが、………モニター上ではその通りです』

 驚愕の事実に震えていると、モニターの赤い光点が一気に消え始めた。

 何が…………。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ