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音の鳴る箱  作者: 凪司工房
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 次にスミスたちが担当した地域は調査開始から僅か六時間で捨てられることが決まった。地面から有毒ガスが絶えず噴出しており、それが収まるまでにまだ数年掛かると判断されたからだ。


 飛空艇に乗り込んだスミスたちはまた別のエリアへと運ばれる。

 上空で揺られながらも、スミスは低電力モードで稼働しながらあの音の鳴る箱について考えていた。


 スミスが持つデータ、あるいは取得出来るデータから推測されるのは、音というのは何かしらの警告の為に使う場合が多いということだ。もしくは何らかの伝達手段、あるいは情報の発信や記録の為に使われていた。ひょっとするとあの大きな箱は電波の送受信などが考えれなかった時代の遺物だろうか。音を鳴らし、遠くの人間に何かを教える。特に危険が迫っているとか、あるいは集合の合図にしたり、そういった目的で使われていたのではないだろうか。

 しかしそれなら八十八もボタンの数は要らないだろう。それにノズル付きのような小さなものでも警告の為に大きな音を鳴らす機構は組み込めるのだから、あんなおかしな形の箱はそれこそ芸術性と呼ばれるスミスたちには理解不可能な余分な装飾品として製造されているのではないだろうか。


 音を鳴らす装置だということが判明しても、目的については未だ未解明のままだ。ずっとメインサーバに情報を問い合わせているが、それらしいデータは存在しない。

 スミスは轟々という音を聞きながら、人類がそれを必要としていた事情について思考回路を傾けた。


 

 そのスミスの思考に一つの回答を与えたのは、偶然の発見だった。

 あの箱を完成させてから三ヶ月目に担当した地域でのことだった。そこにはかつて図書館と呼ばれた巨大な建造物が、比較的良い状態で残されていた。二階部分の半分は崩れ、一階はほぼ壊滅といってよかったが、それでも大量の書架が設置された部分については無傷だったのだ。

 ただ書架と呼ばれる本棚そのものは無事だったがそこに収蔵されている本については多くが腐食、腐敗し、原型を留めていなかった。完全な密封状態になっていたなら保存することが可能だっただろうが、生憎と窓は全て割れ、海水や虫、よく分からない獣が大量に入ってきた形跡があった。


 しかし何も収穫がなかった訳ではない。特にスミスにとってはこれまた不可思議なものを発見することになった。

 それは最初、何かの武器かと思った。だがデータを問い合わせるとかつて使われていた光学メディアだと判明し、DVDやCDという名で呼ばれていたものだった。円形をしたディスクでアルミが塗布され、レーザーを反射してそれを読み取ることで記録を再生していたらしい。けれどその再生装置が今は存在しない。設計図はサーバにあったから部品が手に入れば作ることも可能だろう。


 それらに混ざって黒いディスクも存在した。こちらはアルミではない。塩化ビニールだ。こちらはデータに記録がなかったが、CDと同じように覆われた面に細かな凹凸が刻まれていた。しかしこちらも再生装置はなく、一体何が記録されているのかを知ることが出来ない。

 CDと原理が同じだとすれば、レーザーではなく、物理的な針のようなもので記録を再生することが出来るのではないだろうか。


 スミスは周囲に再生に適したものはないかと探した。手に入ったのは紙だった。その一枚を黒いCDに当て、回転させる。紙は震え、小さな音が響いた。それはあの黒い箱やノズル付きで音が鳴る原理だった。紙を振動板として、それを震わせることで音を発生させる。ただ使用している紙が脆く、すぐに使い物にならなくなってしまうことと、再生される音の大きさが微小なことが問題だったが、同じ仕組みの装置を作ればこの黒いCDの中身を知ることが出来る。

 スミスはそれを数枚確保し、図書館を出た。

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