40.セットポートで <上>
うーん……
前回の最後が適当すぎて……
「あの……ちょっと休んでもいいですか?」
「いやいや……あたしたちが起きた後もずーっとぐっすりだったでしょ?君たち。だったら、休息は取れたってことで、セットポートを観光しよう!」
いやいや……言ってくれますけどね……
俺たち、昨日戦ったんですよ。確かに結構戦闘時間は短かったけど。
でもね?
俺、魔力……に変換する呪力を切らしてさ。
あれって、この前もそうだけど、一日寝込むこともあるんだよ?
それをこの人はまぁ……叩き起こした挙句、俺たちを観光だなんだと言って連れまわしまくってる。
ちなみに、マーチェは寝てる。
でも、ちゃんとバルジさんについて行って……
なんか、特に甘そうなものが売ってる店をバルジさんが通り過ぎようとすると、服の裾を引っ張って店の方を指差す。
で、バルジさんもマーチェを甘やかして、その店に入り、フルーツマシマシのクレープを一緒に食べてたりする。
まぁ、なんだ。
寝てるけど、本能的なものなのか、デザートばっか食べている。
残念なことにそのことの記憶は多分ないと思う。
…………起きたら起きたで、もう一度同じところ回されそうだな。
セイルは……昨日の戦闘が応えたのか、結構眠そうだ。
今もしきりに目を擦ってる。
「あの……まぁ、俺たちも泊まる場所を探さないといけないんで、宿を決めてからにしません?観光は」
「うん……それも一理あるね。」
「いやいや、そもそも新しい街に長い間滞在するってのに、宿を探さないって方がおかしいでしょ」
そう突っ込むのは【魔法使い】のパラムさん。
なんというか……身体的には子供みたいなんだけど……それに言動が伴ってないんだよ……
一応この国の最高教育機関の王立魔法高等学院に通っていたらしく、年齢は結構食ってるはずなんだけど…………
どうみても、子供……ではなく、背が低い。
それこそ、俺たちの中で一番背が低いマーチェとどっこいどっこいってところ。
ちなみに、俺たちと、マーチェの身長の差は……本の数センチって言ったところ。
正直に言って、わからないままである。
まぁ暫定で、マーチェが一番せが低いと。
「スバル君?なーんか変なこと考えてるでしょ」
「ふぇ!?」
……変な声が出てしまった。
…………っていうか、なんでみんな俺が考えてることがわかるんだよ…
「そりゃだって、ねぇ」
「ああ。スバルはわかりやすい」
「その通り」
「そんな感じなら誰だってわかるさ」
バルジさんパーティからも追撃を受ける。
「スバル……残念ね」
唯一、マーチェだけはわかってくれたようだ。
「本当に、そんな顔してたら、赤子でもわかるわよ」
……全然わかっていなかった!
ーーくくく……スバル。お前人望ねぇなぁ!!
挙句の果てに、最近よく眠っているはずのタスライトにさえ揶揄われた。
……なんだか、悲しいなぁ……
「まぁ、適当に宿探しますんで、見つけ終わったら冒険者ギルドで待ち合わせ……って感じでどうですか?」
「うん。まぁあたしたちはそれで構わないけど……そっちの二人、大丈夫そ?」
「…………行けなかったら二人とも寝かしとくんで。最悪、俺一人で行きますよ」
「わかった。じゃあパラム!今すぐ、この街で3番目に高級な宿を探して!」
「それじゃあ俺たちはここで」
そう言って、二人の手を引き、大通りを歩く。
すると、別れてから100メートルもないところで、結構高級そうな宿があった。
周りは屋台だらけの中に、一つ、三階建ての高級感を醸し出している建物だ。
俺たちは、宿の中に入って行った。
宿の中に入ると、受付と思しき机のところに、年老いたおばあちゃんが奥に、手前に、キリッとした女の人が立っていた。
「なんですか?あなたたち。ここは宿ですよ?揶揄いにきたんじゃないでしょうね?」
宿に入ってきた俺たちをイタズラしにきた子供だと思ったのだろうか。
敵意剥き出しで、話しかけてくる。
「いえ。泊まりに来ただけです。今夜から、まぁ、ざっと三日間、泊めてもらっていいですか?」
「はぁ……たまにそんな子供っているのよねぇ……冒険者の真似でもしたいでしょうか……?」
「え?これで一応、冒険者なんですけど」
何かやたらと、俺たちは騎士の真似や冒険者の真似をしているように見えるらしい。
これでもしっかりとした冒険者なんだけどなぁ…………
「この期に及んでそれですか……はぁ……じゃあ冒険者カード見せてください。身分証でもいいですけど」
ふふふ……残念だが、俺はそれを持っているのだ!
「はい、これどうぞ」
「へぇ……本当に……でもどうせ……って、ええ!?」
「なんかダメでしたか?」
「え、ええ!?え、Sランク冒険者様でしたか!誠に申し訳ありません!!」
「いやいや別にいいよ。子供だっていう自覚はあるから」
「いえ、いえ!本当に申し訳ありませんでした!」
Sランク冒険者とわかった瞬間のこの変わり様。
真に素晴らしいものだ。
「……それで、一泊どれくらいですか?」
「そうですね……一番高い部屋ですと……一部屋一泊銀貨12枚ほどになります。」
「そっか……じゃあ、その部屋を三泊三部屋で……」
「私はセイルと同じ部屋でいい。」
俺が全員別の部屋で取ろうとすると、今まで寝てたと思ってたマーチェから言われた。
「……起きてんのか?」
そういうと、すぐ寝息が聞こえてくる。
これまた素晴らしい芸当だ。
「はぁ……まぁ、だったら三泊二部屋でお願いします。…………これぐらいでいいですか?」
そう言って俺は、金貨を10枚ぐらい出す。
「1、2、3………………はい。大丈夫です。このまま、宿に行きますか?それとも、夜まで冒険者ギルドに行ってたりしますか?」
「いえ、できればこのまま部屋に行きたいです。冒険者ギルドは……まぁ、荷解きが終わった後とかですかね」
前も試してみたが、この世界には異空間収納魔法みたいなのはない。
つまり、荷物は全部俺らの手持ち……ということになる。
ということは、必然的に荷解きも必要となり、俺たちは毎回それぞれの街の取った宿でそれを一番最初にする。
「わかりました。では、こちらが部屋の鍵となります。」
終始、敬語になってしまった受付の人から鍵を受け取り、俺たちは、それぞれの部屋へ入って行った。
……荷解き、だるいなぁ…………
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バルジside
「なぁなぁ今回はどこに泊まるんだ?」
「一応、私たちAランクの冒険者がギリギリ余裕を持って泊まれるところで、最高級のもてなしを受けることができるところですね」
「うん。俺それ知ってる。ケチってやつだ」
「違う!ケチじゃなくて節約!せ・つ・や・く!何回言えばわかるのよ……」
ふふふ、とあたしは笑う。
これはあたしのパーティーじゃいつものことだ。
側から見ればリーダーはパーティーをちゃんと統率していない様にも見えるが…………
これは一応、平常運転なのだ。
【魔法使い】パラムと、【剣士】ラビト。
スバルたちのパーティーには伝えてなかったけど、二人は付き合ってる。
ちなみに結婚はしていない。
いつも通り、みんなの前で平然とイチャラブして……大体【戦士】ラゴンから蔑んだ目で見られる。
まぁラゴンは二人がただ羨ましいだけなんだけどね。
あたしはリーダー。
でも、彼らをまとめる力はあたしにはない。
だけど、一介のAランクパーティーとして成り立ってる。
スバルみたいな個々が強すぎるパーティーではなく、戦闘面でも、精神的にも、生活面でも、お互いに助け合って放浪している。
あたしたちの最終的な目的は…………一人の男の救出。
そのために、今は各国を回って、救出する手立てを考えると同時に訓練をしている。
主にやってるのは……最近増え続けている魔物の討伐。
魔物ハンター協会じゃ手に負えないとのことで、普段討伐依頼がほとんどない冒険者ギルドにも、ここ数年は魔物討伐依頼が増えている。
それも以前に比べて二倍とか、そんなものではない。基本的に全ての場所で、十倍。
ある国のある地域では数百倍にも魔物が増えて、ある大きな都市が一ヶ月も経たずに滅ぼされたとか。
許容できる範囲ではなくなってきている。
大変な話だ。
で、それにあたしたちも乗っかっているというわけ。
魔物は訓練で自分達がどれくらい成長しているかがすぐにわかる。
地域によって少しだけ差は出るものの、大体の魔物の基礎的な体力、攻撃力とかは軒並み同じだ。
私たちは、最初はコブリン、オークと行き、今は最上位とも言えるオーガ相手に戦っている。
だが、現実はそう甘くない。
オーガは最上位とつけられるほどに強大で、あたしたちが束になってやっと一体、二体といった感じだ。
ましてや、一人で、オーガ数体に突っ込むなど考えもしなかった。
それなのに。
スバルと、そのパーティーは。
一人で数体どころの話ではなく、一人で数十体も相手していた。
それも相当な有利状況に。
あたしたちが、新人でコブリンに苦戦している中、少し上位のパーティが蟻を踏み潰すようにコブリンを倒すのは納得できる。
だが、オーガに関してはそんなこと、納得できない。
自分より、十年以上若い子供が、オーガと闘い、蹂躙していく。
最初は、どこぞのフィクションだ!と思ったのだが。
実際はフィクションなんかじゃなく。
フィクションなんかよりもすごかった。
と。
長々思い出していたが、パラムの言葉で我にかえる。
彼女は元々、研究員志望だったのだが、あたしたちの熱望と…………誰かさんの求婚によって、引き抜かれたエリートだ。
基本的に大体のことはできる。
特に家事を除いて。
一回、ラビトが、パラムの手料理を食べてみたいと言い出して、1時間くらいかけてパラムが作った料理をみんなで食べて…………死にかけた。
元々、彼女は激辛舌だったらしく、料理を作った後に必ずデスソースを入れて好んで食べる。
それはどこそこの食堂にいった時も同じ。
必ずデスソースを持っていて、注文した料理にもデスソースをこれでもかとぶっかける。
とまぁ、それからはあたしたちが代わりばんこで料理をしている。
「で、ここでいいの?」
そう聞いてくるのは【狩人】のマスタン。
弓が得意な高身長の女だ。
「はい。ここでいいと思います。」
そういってパラムが先に入っていく。
あたしたちはそれに続くように入っていく。
受付のところまで行くと、パルムが部屋数を聞いてきた。
本当は五人一緒が一番いいのだが……
実はパルムは清楚系に見えてよく営みをする。
それは、あたしたちが同じ部屋にいたとしてもだ。
夜になると、抑えが効かなくなった犬の如く、二人で行為している。
それは、まぁ…………あたしたちからしたらできれば見たくないことなので……
仕方なく、二人は別部屋に隔離、それ以外は男子部屋、女子部屋に分かれる。
いつも三部屋と、いうのだが……
「空いてるのが二部屋しかないって。」
地獄の閻魔の言葉により、あたしたちのいつもは崩された。
「ま、まぁ……二人はいつも通り、それであたしたちが三人部屋になればいいんじゃないか?」
そういうと、パルムはキラキラした顔で聞き返す。
「え!いいんですか!?」
「あ、あはは……い、いいよ。流石に、あれはちょっと……」
「やったぁー!」
そう叫ぶパルムを白々しく見るあたしたち。
今夜は……あたしたちの部屋まで声が聞こえてきそうだ…………
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「へぇ……セットポートって市場がでかいんだな」
俺は周りに広がっている屋台を見ながらそういう。
「まぁ仮にも、この王国で2番目に大きい街だからね」
隣に立っているマーチェはそう返してくる。
セイルは疲れていたので宿でお留守番。
「ところでスバル。あれは…………」
「はいはい、わかってますよ。やってあげればいいんでしょやってあげれば」
そう、面倒くさそうにいうのは、マーチェから度々せがまれている魔法の訓練だ。
何回も……何回も言われたことで、勝手に頭の中で反芻してしまう。
「とりあえず先に、冒険者ギルドに行ってバルジさんたちと合流からだから。明日からやるよ…………っと。ここでいいのかな?」
俺は、冒険者ギルドの看板を見つけ、建物を見る。
「あ、あのさ。これ、デカすぎない?」
そういって見上げるのは四階建ての冒険者ギルドだ。
奥行きは……わからないが、横は軽く50メートルを超えている。
「そ、そうね……こんなに大きいのは見たことがないわ」
そう感想を言い合いながらギルドの扉を押す。
中に入ると、そこは喧騒な感じに包まれていた。
いや、実に楽しそうだった。
冒険者はみんな笑顔だし……一部例外もいるけど、併設されている巨大な食堂があって、宴会っぽいのをしている人や、勧誘していたり、情報交換している冒険者もいた。
さらに驚いたのが……俺と同じくらいの年齢の子もわずかだが、普通にいた。
おっさんたちと混ざりながら談笑したりしている。
バルジさんを探して、歩いていると、後ろからつっつかれた。
驚いて振り返ると、笑顔の俺と同じくらいの身長の男の子が二人いた。
「やぁ。君も冒険者かい?俺たちとパーティーを組まないか?」
…………勧誘された。
周りのおっさんたちは……俺がどんな答えを返すか不思議に思ったのだろうか、急に静まり返った。
「いえ、大丈夫です。これでも一応パーティー組んでるんで」
「へぇ。二人で?」
「いや、一人は今、宿で休んでいます。だから三人のパーティーです」
「そっか。…………それよりさ、敬語、やめない?俺たち、見た感じ同い年くらいじゃん。敬語はいらないよ」
「わかった。じゃあよろしく。」
「ふふふ……パーティーに入ってくれたわけでもないのによろしくって。君、面白いね」
「はは……それより、俺たち人を探しているんだ」
「人?有名な人かい?」
「ああ。確かAランク冒険者っていってたから、結構強いんだろうけど……バルジさんっていう人なんだ」
「へぇ!?バ、バルジさん!?それって確か……」
そういって少年は辺りのおっさんたちを見回す。
それでなぜかおっさんたちは首を縦に振る。
「で、伝説のバルジさんのことかい?」
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