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異世界転生したら失われた「呪力」を持っていたようです  作者: けーしん
第一章 カートゥーン王国編
39/51

39.高速船とセットポート

「ってことは俺たちは行き先が同じだったってわけだ」


 目の前に立っている剣を腰に下げたーー【剣士】。


「偶然にしては運が良かったですね」


 そういうのは、杖を持ったいかにも、のーー【魔法使い】。


「なんとなく、そんな気がしていたがな」


 獣族の……猫型の人間ーー【狩人】。


「あ、あの、俺、初対面なんだけど?除け者にしないでくれない?」


 頑強で、肩幅が広いーー【戦士】。


「はは……まぁいいじゃないか。それより君たちのことをあたし達に教えてくれないかな?」


 そう尋ねてくるのはこのパーティーのリーダー。ーー【勇者】。


【勇者】とはいえ、この名前は誰でもつけることができる。

 まぁ、言うなれば分かりやすく役割を名前にしてみた感じ。


 で、魔王とかを倒す本当の勇者は【○○の勇者】って感じになる。

 それも一人じゃなくて、何人もいたり、一人もいなかったりする時があるらしい。

 他の役割も然り。


 ちなみに俺たちはそういう役割的なのは作ってない。

 強いていうならマーチェは【魔剣士】、セイルは……【治癒術師】?ってとこかな。

 まぁ俺は【魔法使い】とか。呪力をちゃんと使えるようになって呪術もできるようになれば……【呪術師】って感じ。


 で、いま俺たちがどこにいるかというと。

 絶賛、高速船を待っているのです!


 そこで、この前のオーガたちの襲撃の際、俺を宿んとこまで連れていってくれたパーティーの人たちに出会った、というわけ。

 あの襲撃の後、何かしら、大々的にやった記憶はあるんだけど。

 詳しいことが思い出せない。


 確か、体のイカつい人たちに囲まれて……水だと言われて飲んだものが……クラっとしてしまうものーー多分酒だと思うーーを盛らされた。

 まぁ、そんなこんなでお祭り騒ぎの記憶を失ってしまった。

 その時、マーチェとセイルは街娘と女子会を開いていたらしいけど。

 風の噂では絶えず、その女子会の会場から黄色い声が響いてたとかなんとか。


 全く……何を話していたのやら。

 そんな思いに耽っていると【勇者】バルジさんにニヤニヤされながら声をかけられる。


「……で。どっちと付き合ってるんだ?」


 ニヤニヤが止まらない。

 ……絶対からかってるでしょコレ。


「はぁ……どっちとも付き合ってませんよ。そもそも二人が俺のことをーー」


「き、気づいてないのか……?」


 ニヤニヤが固まって、驚きの表情になる。

 だが、それも一瞬。またニヤニヤが始まる。


 うん。表情が多彩だな。


「ふふふ……それじゃあ三人の馴れ初めから聞こうかな?」


「だから……どっちとも付き合ってませんって。それに『三人の馴れ初め』ってなんですか……俺は別に3Pしたいわけじゃないし、このヘタレにどうやってハーレムを作れと?」


「ぐっ……意外なまでに下ネタを連発するのね君……それに自分の事ヘタレって……ドM体質?それとも…ネガティブなだけ?………まだ成人前の子供とは思えない。本当に子供?」


 そう言って俺の顔をペタペタ触ってくる。

 ある程度触るとため息をつきながら離れてこういった。


「はぁ……スベスベつやつや……いいなぁ……」


 なんか言ってるが。

 ちょうどその時、高速船ーーいかにも前世の電車みたいなやつーーが到着した。

 ドアが開くと、いろんな人が降りてくる。

 もとはセットポートとサンポートだけを繋いでいる列車だ。

 片方で乗った人たちは必ずもう片方で降りると言っても過言ではない。

 過言というか、絶対なんだが。


 で、乗っていた人が全員降りた後、俺たちは乗り始めた。

 高速船ともあって、ほぼほぼ指定席だ。

 全部で五両あって、先頭から四両目までは指定席。

 最後尾が自由席+立ち乗りOKの場所。


 それでも一番最後尾ーー五両目が、一番人気だとかなんとか。

 まぁ、安いからな。

 指定席はセットポートまでの片道で一人金貨一枚。

 バルジさん達は俺たちがお金出してる。


 元々、五両目の自由席に乗るつもりだったらしいが、俺たちが頼み込んで指定席にしてもらった。

 ま、俺らがお金を持ってるから別に問題ないんだけど。


 というわけで俺たちは指定席の中のワンルームをとった。

 いわゆる向かい合わせのやつ。

 それぞれ四人ずつ……でちょうどピッタリ八人だったので、コレにしたと。

 ちなみに一人の料金は変わらない。

 ただ、ルームの貸し出し料金として別途金貨5枚取られたけど。


 この前の襲撃とSランク昇格依頼で50枚くらい金貨もらったんで別に問題はないと。


 ちなみにセットポートまで二日かかる。

 それに運転手さんもいて、一駅にも止まらないから夜行列車……というわけにはいかない。

 というわけで夜9時になったら止まる。

 駅があるところでもないから、毎回その止まる場所は変わるそうだ。


 っていうか自由席で寝るって……な〜んか事件とか起きそうだなぁー


 そう思いながら電車ーーここでは高速船かーーが動き出す。

 うん、乗り心地は悪くない。

 ……なのだが……


「あ、あのお二人さん?」


 そう声をかけるのは俺の両隣を陣取っているマーチェとセイル。

 なぜか二人とも俺の横に来て、俺の目の前ーーテーブルの中心ーーにあるお菓子が入った皿に手を伸ばす。

 つまり、両側から俺はぎゅうぎゅう押されてるわけだ。


 うん、死んだなこれは。


 二人はなんか争いのようにお菓子をとっては頬張り、底なしの胃に下すし、それを見てバルジさんは笑ってるし、他の人も苦笑しながら助けてくれないし。


 四面楚歌ならぬ四面圧死+四面苦笑。


 く………俺に逃げ場はないのか……


 と、思ってると急にセイルがそれをやめた。

 周りのみんなが笑ってるのに気がついたのか顔を赤くして俯く。

 それを見たバルジさんはさらに笑う。


 うん。周りに笑われてんのを気がつかないくらいマーチェと争うってどういうことよ。


 ちなみにマーチェはまだやめていない。

 それを見かねた俺はマーチェに席の交代を申し出る。


 交渉の結果。

 俺は元々マーチェがいた窓際の席をゲット。

 入れ替わりでマーチェが真ん中の席へ移動。

 なんかセイルは残念そうにしていたが、マーチェは口の中に先ほどまでとは比にならないくらいのお菓子を頬張ってご満悦のようだ。


 俺が戦争から逃げ出して窓の風景を眺めていると、前に座った【魔法使い】さんから尋ねられた。


「ねぇ。あの時の付与魔法やったよね。君、何者?」


 いきなり何者?はひどいんじゃないかと思いつつ、答える。


「普通のどこにでもいる少年ですよ。ただ育ちが良かっただけの」


「普通の、じゃない。どう考えてもおかしい付与の速さだった。王立魔法高等学院の教師にもそんな人は見たことがない」


「へぇ……そうなんですね。」


 ……なんというか……ものすごく返答に困る質問だ。

 証拠はとられてる、というか見られてる。

 それもバルジさんパーティー全員に。いや、【戦士】さんは違ったか。

 それは置いといて、俺がここで賢者の孫だと言うにはデメリットが大きすぎる。


「そもそも、もう一つの剣にかかってた付与魔法は何?あんなの見たことないんだけど」


 もう一つの剣……ああ、タスライトか。

 …………これはギリギリ言ってもいいのか?


(タスライト。言ってもいい?)


 ーーうん!?な、何を?


 なんかものすごく焦ってる。


(だから、お前、付与じゃなくて呪いがかかってるってこと、言ってもいい?)


 ーーん……まぁ別にいいんじゃないか?どうせ後で解いてくれるんだろ?


 …………ものすごく汎用性の高い呪いなんだけどな……できれば解きたくないんだけど……


「ははは……この剣は、付与じゃなくて呪いがかかってるんですよ。再生阻害の。」


「さ、再生阻害ぃ!?」


 大きな声で【魔法使い】さんが叫ぶものだから、マーチェの姿を見ていて苦笑していたバルジさんたちやセイルもこっちをむく。

 数秒、みんなが固まった。


「「「「再生阻害ぃ!?」」」」


 うん。君たち演劇とかしたら絶対金たくさん入るよ。ピッタリすぎるよ。何か企んでたの?

 矢継ぎ早に頭のなかでツッコミまくる。

 口には出さないでおくが。


「ちょ、ちょ再生阻害って何よそれ。そんなの聞いたことないんですけど!?」


 そう【魔法使い】の人が若干興奮気味、若干畏敬の念を込めた目で見てくる。


「俺をよくわからないんすよ。呪いだし。とあるところから取ってきたものだし。」


「へ、へぇ、呪いねぇ…………」


 あ、これ信じてない顔だ。

 俺があの時、風魔法<風斬>を剣にめっちゃ早く付与したせいであらぬ疑いをかけられてる。

 あ、ありえない!って顔だ。


 そんなこんなで話していたら、夜になった。

 意外と遠いんだなぁ……セットポートって。


 で、俺らのワンルームの席は、テーブルを二つ折りにして、椅子を拡大。

 二段に積み上げることで、二段ベッドが二個できる。

 で、それなりの幅があるので一つずつ二人、と。


 ちなみに寝る場所は、俺が一階に、バルジさんと。

 もう片方にセイルとマーチェが。

【魔法使い】さん、【狩人】さんペアと【剣士】さん、【戦士】さんペアの二組に別れて寝ることになった。


 深夜。

 俺の常時発動している受動探索魔法に得体の知れない何かが入り込んできた。

 ちなみに高速船は止まっている。


 寝ていると、受動探索魔法にもやがかかるので……俺はベッドから体を起こし、目を擦った。


「う……ん……なんだ?」


 俺が動いたせいだろうか。

 隣で寝ていたバルジさんが起きてしまった。


「いえ、なんでもないです。少し、トイレに行きたくなって」


 そう言って、俺は高速船の廊下に出る。

 禍々しい魔力を纏った存在が屋根の上にいた。


 俺が動き出そうと思ったのと同時に、俺たちがいた扉が開く。

 中からマーチェとセイルが顔を出した。


「おいていくわけじゃないでしょうね?」


「流石にこれは……スバル君一人だと心配です……」


 セイルも気づいたみたいだ。

 この存在、もの凄くやり手だ。


 俺は、定期的に眠りに落ちているタスライトを手に取った。


「使わせてもらうぞ。……って聞こえてないか」


 俺たちは、止まっている、高速船の乗車口から外に出る。

 懸垂の体で、屋根に上がった。


 夜空に浮かび上がるシルエット。

 それは、前に見せてもらったマーチェのごとくツノがあった。


「お前も……魔族なのか?なんでこんなところにいる?」


「魔族?我はそんな存在ではない。魔王様直属『十六傑』が十一傑。『炎虎の魔人』だ」


 魔族と、魔人に具体的な線引きはない。

 まぁ、勇者みたいな称号だ。

 で、『十六傑』の十一傑。つまり、そのままの意味でいくと魔王直属のなかで11番目に強い魔人。


「その魔人がなんでこんなところにいるんだ?」


「もちろん、我が敬愛すべき魔王様の命令でだ。スバルとやら、命を貰い受けるッ!!」


 そういうや否や剣を鞘から抜き放って襲いかかってくる。

 なんとなく予想はできたので初撃は避けれたが……ものすごい速さで剣を返し、もう一度俺に向かって振り下ろしてくる。

 今からの魔法は、発動時間の関係上、発動するよりも早く、俺を『炎虎の魔人』の剣に両断されるだろう。


「だけどな……こちらとら、魔法だけじゃないんだよ!」


 そう言って斜め後ろに体をのけぞらせて……同時に背中にあるタスライトを抜く。

 全部ばあちゃんに教わった、対人用の戦闘スタイルだ。


 俺が、剣を抜くとわかったのか、『炎虎の魔人』は俺から離れた。

 徹底した(?)ヒットアンドアウェイだな。

 一撃離脱ってやつだ。


 俺と『炎虎の魔人』は互いに向かい合って剣を構える。

 もちろん中段の構えだ。


 ちなみに、俺はばあちゃんに剣と格闘術を教わったとはいえ……魔法がかっこよかったのでそっちの練習は疎かに……

 まあ、人並みの力ぐらいしか近接戦闘能力は持っていない。

 魔剣を使えば、それなりの上級剣士とも渡り合えるけどね。


 最初に対人で戦った、サンムーンの……なんだっけ。


 あれはまぁ中の下くらい。その俺でも圧勝はできる。

 実際対峙した感じでも、本当に強いのか?って思ったくらいだ。

 正直言って下の中って感じな気がする。


 そう思っていると、後ろからマーチェが魔法を放った。

 確かに、今このこう着状態で魔剣持って突っ込むのは得策ではない。

 っていうか、さっきの剣捌きや剣の返し方からも……手練、どころではない。


 つまり、マーチェのとった魔法の使用は結構当たっていたりする。

 ……相手に効けばの話なんだけど……

『炎虎の魔人』にマーチェの風魔法が届いた瞬間、確かに、『炎虎の魔人』に当たったはずなのに、みたところ傷はない。


「お前らも……こい!」


 そういうと、どこからともなく、『炎虎の魔人』に似た禍々しい魔力を持った何かが三人、現れた。


「は。『炎虎の魔人』様の命により、サードロッド、『獅子の魔人』他我ら三人馳せ参じました。」


「…………総力戦でもしたいのか?」


「くくくっ!魔王様からは死体の状況はなんでもいいと言われてな!残念だが、周りの二人も死んでもらおう」


「すみませぬ『炎虎の魔人』様。あの二人の内の赤髪の方……魔族と思われるのですが……」


「そうなのか?なら、捕らえて魔王様にファーストロッドにでもしてもらうよう進言しとくか」


「へぇ……敵の前で呑気にってのは褒められたもんじゃないね」


 俺は浮遊魔法と風魔法で、『炎虎の魔人』に超高速で近づき、剣を首に当てる。


「呑気ではない。余裕だ」


 そう言って『炎虎の魔人』はいつの間にか、タスライトと首の間に剣を入れていた。


「その余裕、数分後にはどうなってるだろうね?」


「その時は祝勝の宴でもやっておろう。なんてことはないな」


 そう言って俺の体制を崩そうとーーできなかった。


「な!?お前らサードロッドがなんで…………」


 ついてきていた三人の魔人が、セイルとマーチェに殲滅されていた。

 全員、瀕死である。


「何よ……こっちはあんまり歯応えがないじゃない」


「まぁまぁマーチェ、スバルがあの魔人を倒せなかったら私たちの獲物だし、その時はその時に楽しめるよ」


 マーチェもセイルも……完全に余裕ぶっこいて煽ってる。

 まぁ実際二人でサードマース?三人を全滅させてるから余裕ぶっこくのは悪くないのだが。

 当の『炎虎の魔人』は顔を真っ赤にさせて歯軋りしていた。


「っち。あいつらがいないなら不利だ、また今度来ることにする。首を洗って待っていろよスバル!」


「そんなことさせるか?負け犬さんよ。『負け犬に口無し』これは、負け犬はみんな死んでるってことだ」


 ほとんど使ったことないし……自信はないんだけど……


「雷魔法<雷撃>」


 俺が『炎虎の魔人』に向けた指から雷がほとぼしった。

 同時にもう一つの魔法も使う。


「獄炎魔法<舞>」


 これで逃げられない。


「浮遊魔法」


 これで『炎虎の魔人』を浮かび上がらせる。


「これで最後だ………核熱魔法<崩壊>」


 周りに被害が飛ばないよう、上に打ち上げてから核熱魔法を使った。

 もちろん、魔人とはいえ、前世の人類の叡智を詰め込んだ史上最悪の兵器を模した魔法は効き、塵も残っていなかった。


 だけど…………


 眩暈もするしなんか上手く歩けない。

 それをセイルに支えてもらった。


「全く……自分の力の限度を考えてよ……スバル君ったら…」


「ふあぁぁぁ…………眠い!」


 そうマーチェはいうと、光の速さで、部屋に戻り、布団の中に潜って行った。


「流石にこんな短期間で2回も完全消費するとは……予想外だったな……ありがとう、セイル。」


 そういうと、セイルは顔を赤くして俯きながらも支えて車内に入れてくれた。

 ……ふふふ。なんかセイルも可愛いな、こういう顔すると……



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー




 翌日、セットポートの高速船乗り場。


「やっとついたー!ほらほら三人とも!」


 俺たちは、バルジさんに振り回されながら……それでも笑っていたのだ。


また少し、投稿が開いてしまったので今回は普段より長めです。

ちなみにで言っておくと、スバルによるハーレムは作るつもりはないです。


希望によっては……?


些細なことでも、何かおかしいと思ったところがあったら誤字報告や感想で伝えてください。今後の執筆にも取り入れていきます。

⭐︎マーク、ブクマ、いいねで応援よろしくお願いします。

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