38.襲撃 <続々>
また遅くなりました!
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私は、10歳で冒険者になってから二十年間、世界各地を回ってきた。
最初はここ、カートゥーン王国から冒険を初め、アベマール大陸、サンムベール大陸、アトレシア島を回った。
その数々の大陸を回って、いろいろな冒険者に出会ってきた。
自分が絶対敵わないような、冒険者もいた。
だが、それでもコレはみたことがなかった。
サンポートに、オーガ討伐依頼で来ていて、依頼の達成条件の三体のオーガを倒すことは成功した。
だから、明日、ここから高速船でセットポートにいくつもりだったのに。
突如、冒険者ギルドの扉が甲冑を着た男に乱暴に開けられたと思ったら、とんでもないことを言った。
曰く、オーガとコブリンが大量発生して、この街に襲いかかってきているらしい。
この街に思い入れはないがーー冒険者としては、国の重要拠点の街を魔物に取られるわけにはいかない。
Aランク冒険者だった私は、自分のパーティーを率いて、現場に向かった。
そこではまだ童とも言える赤髪の子供がオーガ数十体相手に奮戦していた。
金髪の女の子も、補助の魔法で赤髪の女の子をサポートしていた。
「な、なぁリーダー。ど、どういうことなんだ?」
「ぐだぐだ言ってる暇はない!あの子供達を手伝うぞ!」
「だけど!あれが超高度な戦いすぎて、どこから入ればいいのか分からねえ……」
そう言って、連れてきたメンバーは憔悴する。
元々私たちは五人のパーティーだ。
だが、オーガの討伐依頼の時に一人が怪我を負ってしまって、今は四人。
全員大人のパーティー五人でオーガ三体がやっとなのだ。
オーガはそう簡単に倒せる相手ではないし、子供ごときが挑んでいい相手でもない。
だが、目の前の光景はどうだ?
赤髪の少女はオーガ二十体くらいを相手に戦って少しずつだが数を減らしている。
金髪の子も、基本は赤髪の子の補助にまわっているが、それに気づいて近づいてきたオーガたちを高火力の魔法で粉砕している。
世にもおかしな光景だ。
確かに、ギルド内で、子供のSランク冒険者が現れた、と聞いたことがあるが……
…………まさか、この子たちが?
噂通り……いや、噂以上の強さを発揮している。
この世に、子供二人でオーガを五十体近くを相手に戦うことができるなんて見たことどころか聞いたことさえない。
しかし、これを見てしまうと信じなければならなくなってしまう。
実際、変な小細工はしていないし、子供の小細工でオーガはどうこうできる相手じゃない。
なんていうことを思っていると、目の前に突如男の子が現れた。
黒髪、黒目。
一振りの剣を携えて地面から生えてくるように出てきた。
「リ、リーダー?こ、これは……?」
「ああ。多分、例のSランクの子供だろう。今のは……転移魔法ってところか……?」
「なっ!?まだ成人もしていないような子供が転移魔法を……?」
そう会話をしていると、地面にしゃがみ込んだ。
剣に手を翳して何か呟いている。
数秒後、剣が少し青白く光ったと思ったら、おもむろに少年は立ち上がり、オーガの群れに突っ込んでいった。
「あ!おい!危ないぞ!」
そうあたしのパーティーメンバーの【剣士】が言うが、聞く耳を持たない。
追いかけようとする【剣士】を【魔法使い】が止めた。
「な、なんだよ!あいつは子供だろ!」
「いや……あの子も多分、例のSランクパーティーだ。私たちが行ったところで足手纏いになるだけ。いかないほうがいい」
「で、でも……」
「あの子は今の一瞬であの剣に魔法を付与した。普通、【付与術師】でも、あそこまで早く付与することはできない。まぁ、簡単な魔法の付与だろうけど、さっきの転移魔法も含め、軽く私の十倍は強い」
「じゅ、十倍って……そんなになのか……?」
見守っている中、少年は一つの魔法を起動した。
荒ぶる炎だ。
しかも、行き先を設定しているようで、オーガたちの周りを囲うように炎が動く。
しかも、ずっと、残り続けている。
体を離れた魔法は操作しにくい上に、ずっと魔力を流し続けなきゃいけないデメリットがあるはず。
それなのに、少年は苦も無く魔法を使っていた。
よく見てみると、それは隣で戦っていた赤髪の少女の魔剣についている付与を模倣している感じだ。
見た感じだと、この場で作ったような風に見えるが……
オーガを炎の糸で囲うと、赤髪の少女もそこに突っ込んでいった。
すると、少年の方は自分の背中に背負っていた大剣を抜いて、先ほど自分で付与したばっかの剣と打ち合わせていた。
みると、風の斬撃が放たれていく。
炎によって身動きが取れなくなっていたオーガたちを風の斬撃が襲う。
「……なんなんだ?あれは…………」
少年の風の斬撃によって切られたオーガの傷の断面には不可思議な魔法陣が描かれてあった。
「治…癒魔法?……にしては少しおかしなところがあるのですが……?」
魔法陣となると専門の【魔法使い】に聞くのが道理というもの。
だが、もし【魔法使い】でも分からなかったら?
そもそも、オーガに対し治癒魔法を使うなどありえないこと。
【魔法使い】もそれはわかっているはずだが、実際に、私もあの魔法陣を見たことがある。
治療院で。
あたし達はAランク冒険者だ。
【魔法使い】も有名なカートゥーン王立高等魔法学院の上位卒業者だ。
確か200人の卒業生の中の上位30位ぐらいだったか?
それぐらいの実力を持っている【魔法使い】だ。
さらに王立ということで、基本的に魔法の知識は全部叩き込まれる。
知らない知識が逆にない、というほど魔法のことに関しては最前線の人たちだ。
それが分からない?
……ありえない。
そこらのSランクとはいえ子供が、王立高等魔法学院を優秀な成績で卒業したうちの【魔法使い】に分からないような魔法陣を独学で作れるはずがない。
そう思うが実際、確かに見たことがある治癒魔法陣とは少し形が違っていた。
どんどん数を減らしていく少年たち。
だが、後ろから砂煙がもうもうと上がっていた。
それを見た少年は剣を自分の背中に戻した。
もう一個の剣は後ろの方に投げる。
そして二人の少女に後ろに下がるように言った。
何かするのだろうか?
確かにこのままでは膠着状態に陥る。
もしかしたら、『帰らずの森』『迷える大森林』の両方にいるオーガ、コブリン全てを倒さなくてはならないかもしれない。
そうなってしまうと埒が明かない。
一人で迫るオーガ達の目の前にたった少年は突如として魔力を集めた。
「……な!?こ、これが……これがただの子供が扱える魔力制御量だと……!?」
否。ただの子供ではない。
人類……人族の中でも百人といないSランク冒険者だ。
彼の手に青白い光が集まる。
手から閃光が放たれた。
轟音と共に目がチカチカするほどの光を浴びてあたし達は呆然と立っていた。
煙が晴れると辺り一体は更地になっている。
「は、はは……これがSランク…………納得せざるをえないな……」
だが、当の少年は地面に倒れていた。
赤髪の少女と金髪の少女が駆け寄っていく。
金髪の少女は治癒魔法を、赤髪の少女はなぜかぐわんぐわんと彼の体を揺らしている。
…………それ、やめといたほうがいいんじゃ……
そのことで二人が言い争いになる。
もうすでにオーガ達は居なくなっていた。
あたしのパーティーに居る【狩人】に聞くと、奥の方に、まだいるがみんな怯えて出てこないとのこと。
まぁ、あれを見れば普通の人じゃちびるどころの話じゃ無くなる。
それほどの威力だ。
だが……まぁ、消費魔力が多いというか……そこらへんを考えてないとな……
そんなことを思いながら二人の少女に近づいていった。
「……大丈夫か?」
そういうと二人とも思いっきり首をこちらに向けて横にふった。
……好かれてんなぁ……いいなぁ…
「マーチェが!揺らすから起きないんです!」
「セイルの治癒魔法が中途半端だからだろ!ちゃんとかけろよ!じゃないと死んじゃう!」
戦闘中は、あんなにも綺麗に、それこそ言葉いらずに連携が取れていたのになぁ…………
と、二人の口喧嘩を微笑ましく見ていると、後ろから声がかかった。
「あ、あの……その子、安静にしておいたほうがいいですよ」
うちの【魔法使い】だ。
そう言われて二人はふんっ、と顔を背けた。
「宿まで運ぶよ。どこの宿だい?」
「……街の中央のところの、でっかい食堂があるところ。名前は忘れた」
「はぁ……これだからマーチェは……センチュリー亭です。あの、冒険者さんがたくさん泊まってるところの」
「ふ、ふんっ!わ、私もし、知ってたし」
思わず苦笑が漏れる。
あたし達の宿と同じだった。
そういえばどこかで見たことがあると思えば、この少年、この前なんかイカつい冒険者に囲まれていたっけ。
まぁこんな美女二人も侍らせているとそうもなるか……
スバル達の知らないところで勘違いしている人がいた。
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「ん…?うん、んあ……?」
白い壁が迫ってきている。
いや、天井だった。
マーチェとセイルが心配そうに覗き込んでいる。
ここは……治療院ではなくて宿か…確か治療院にこんな窓はなかったはずだ。
風によって窓に備え付けられているカーテンが少し揺れる。
「お、おおお、おおおおお起きたァァァ!」
マーチェが叫ぶ。ついでにセイルも。
するとどこからともなく、扉を蹴破って入ってくる人たちが……1、2、3……5、6……10、11、12、うん。
大体二十人くらいいる。
そんな人数が俺の一人用宿部屋に入れるはずもなく、概算で、なのだが。
多分外にもいるだろう。
っていうか外から歓声が聞こえる。
…………なんか俺やっちゃった?
…………知らぬまに、犯罪でも犯してた?
それでこの人たちは俺を捕まえて牢屋に……!
という謎妄想をしておく。
しておくだけ。
起き上がると、マーチェは嬉しそうに、セイルは涙を堪えているような顔になった。
「あ、あはは……一つだけ、俺、なんでここにいるの?それと何?この人たち」
「スバル。質問が二つになってるわよ」
な……!マーチェに勘づかれた!?
普通こういう時にマーチェはあまり気が付かないはずなんだが……
で、セイルが突っ込んで……っていうのがお約束パターンじゃなかったっけ?
「っていうか忘れたの?アンタ、バカでかい魔法ぶっ放して気を失ったのよ。全く……それで結局オーガ達もこなくなったから結果オーライだけど。」
……!オーガ。
今のいままで完全に忘れていた。
だが、今しがたマーチェの言葉を思い出して一人安堵する。
「はぁ……よかった。本当にもうきてない?」
「そりゃもう。セイルの受動探索魔法でクリアしてもらったからね。みんなこの街にSランクの私たちがいてよかった、って感謝してるよ」
ふぅ……と俺は二度目の安心感を味わった。
セイルのアレに引っ掛からなければ多分大丈夫だ。
すると突然、周りにいた人が頭を下げた。
「「「「「「この度は誠にありがとうございました!!!!!」」」」」」
うわ、こわ。
感謝されるのはありがたいけどコレはねぇ…………
そう思っていると、一人の女性が前に進み出てきた。
「本当にありがとう。あなたのアレがなければ、あたし達、最悪『帰らずの森』『迷える大森林』の両方にいるオーガ、コブリン全てを倒さなくちゃいけなかったからね。本当に感謝してるよ」
そう言ってもう一度頭を下げる。
「い、いい、いえいえ。別にそこまでしたつもりはないですし。それに、オーガって危険だから、倒せる人がやってあげないと。大変なことになってしまうでしょ?」
「いいえ。あなたが、偶然であるにしろここにいてくれたのがありがたいのです。ここにはあたし達を含めてAランクのパーティーは三組しかいなかったもんだから」
「いえいえ」「いいえ」「いえいえ」「いいえ」
そういう問答が行われた後、ある男の人が、
「はっはっはっは!子供とは思えん謙虚っぷりだな!」
そう言ったのを皮切りに、あたりは笑いに包まれていった。




