35.後ろ髪
また二日ぐらい空いてしまいすみません!
興味を持っていただけたり
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「何?もうセットポートに行くの?」
そうマーチェに問われる。
「ああ。この街には特に呪力に関係することはなかったからな……」
そう言いながら俺はタスライトを手にとる。
「ただ、この剣の鞘を見つけてからかな。それと本を返してから。」
「あ、あの!スバル君!ちょっとだけ手伝って欲しいことが……」
「手伝って欲しいこと?」
「あの……私実は治癒院に行ってるんですけど……」
「ああ。それはまぁ知ってるけど」
「え!?知ってるんですか!?…………ってそれはまぁいいんですけど……実は呪いで治らない人が……」
「呪いで!?怪我しているのか!?いつから!?」
「え…っと……今日の朝から…………」
「朝から!?今、大丈夫なのか!?」
「え…は、はい……多分……」
「よし……今すぐ行こう!案内してくれるか?」
「えっ?はい?…………ああ!案内か!はい。着いてきてください!」
セイルが治せない呪いの怪我か……
それは呪いなのか……?
そんなことを考えながら、セイルの後についていく。
街の外れに一つ、それなりに大きな敷地を持った治療院が見えてきた。
「……思ってたよりでかいな……」
「……そうだね……」
そう俺が呟くと、マーチェが同意してくる。
洋風三階建て。
中世のどこそこにあった教会より一回り大きな建物に入ると、そこは神聖な感じではなくて、血生臭さが鼻にくる場所だった。
「うっ……まじか……?」
床があるところには大体、負傷者が寝かされている。
それも大体は四肢欠損の人たちだ。
だけどこれぐらいの欠損ならセイルでも治せるはず……と思ってセイルの方を見ると何やら青い顔をしていた。
「セイル?大丈夫か?」
そう俺が聞くと、奥の方で患者の世話をしていたと思われる獣族の子がぴょこっと顔を出した。
……ね、猫耳……尻尾もある………
そんなことを思っていると、その獣族の子はセイルに猛スピードで近寄ってきた。
「セイル!帰ってくるのが遅い!ちゃんと連れてきたの?」
そう矢継ぎ早に言う。
どうやら、元から俺を連れてくる予定だったらしい。
「セイル?なんでこれくらい、治さないで放置しているんだ?」
「こ…これは……」
そうセイルが言いづらそうにすると、隣に立った獣族の子が代わりに答えた。
「これは今日、セイルがここを出てから入ってきた急患の人たち。みんなセイルを待ってたんだよ」
「はぁ!?これが全部さっき来たばっかの急患!?」
俺が驚いて大声を出すと、眠っていた何人かがこちらに顔を向けて睨みつけてくる。
「……で、なんでなんだ?」
俺が声のトーンを低くして聞くと獣族の子は丁寧に教えてくれた。
曰く、普段通りに帰らずの森とかで魔物を狩っていたら、急に普段はいないはずのSランク相当のオーガが顔を出し、蹂躙されていったとのこと。
…………これは俺らのせいなのか?
そんなことを思いながら、俺は患者に近づいていき、一人ひとりに治癒魔法をかけていく。
それぞれ、切り口の細胞を培養して腕を生やしているだけだ。
なんの造作もない。
そう思いながら、患者を周り、40人くらい治した時。
急に2階から大きな怒声が聞こえてきた。
『早くしろよ!じゃないとこの人が死んじまう!』
『ですがこの人は……!』
言い合いをしているのを聞きかねて俺はセイルに聞く。
「何かあったのか?上の人。治せない理由とかあんのか?」
「……え?上の人?……ああ。あの人が例の呪いにかかった人ですよ」
「そうなのか?案内してくれ」
2階に通されるとそこには肩に大きな傷をおって、化膿している人が横たわっていた。
そばには一人の女の人がいる。
「早く助けてって言ってるでしょ!?なんで助けられないの!?…………ああ。あんたらはそうやって金を稼いでるんだね」
「いえ…そんなことは決して……この人は呪われている可能性があって……治癒魔法が効かないんです」
そう、悪態をつく、患者の付き人に女医が、対応をしている。
「……セイル?これは…?」
「見てと通り、治癒魔法が効かないんです……呪いの可能性もあるってこの子が……」
そう言いながら、セイルはここまで道案内をしてくれた獣族の女の子の方をみる。
呪い……呪い………………か?
「セイル!?例の子は連れてきてくれた!?」
急に女医さんが、振り向いてセイルに尋ねる。
きっと俺がセイルのことを呼んだのを聞きつけて気づいたのだろう。
必死の形相で尋ねてくる。
「ええ……はい。一応は……」
俺はセイルの前に歩み出る。
患者の頭に手をかざした。
「…………やっぱり」
「な…何がやっぱりなんだい!?」
患者の付き人に尋ねられる。
「…………これ。呪いなんかじゃないよ」
「「「「「「!?」」」」」」
「……や……やっぱり!この坊やの言う通りあんたらはそうやって金を巻き上げてんだろ!」
と、真実を知って患者の付き人が逆上した。
俺の言葉を聞いた女医さんは、セイルも含めみんな俯いてしまっていた。
「……まぁでも、これを呪いだと勘違いするのも分かる。だってこんなに黒く変色していたら勘違いぐらい、誰だってするさ」
この女医さんやセイル、獣族の女の子が勘違いした理由は、まぁ、これだろう。
明らかに患部が黒く変色している。
これじゃあ誰だって未知の存在だと思うこともあるだろう。
それを聞くと、セイルも女医さんも少しホッとした顔になり、俯きかけていた顔を持ち直した。
そんな表情をするセイルや女医さんを横目に俺は少し思案する。
(これは……?怪我したことから考えてウイルス…………破傷風ってとこか)
だとすると…………
「…………よくこんなに長く生きていられたね」
そう言いながら俺は肩の傷口に魔法をかける。
もといた世界では、破傷風に罹患した場合の死亡率はほぼ100%に近かった。
だけど、それも、破傷風菌の特徴を考えてみれば魔法の力で治すことができる。
内側から膜のようなものを使って細菌を傷の外へ押し出す。
菌を押し出したら、今度は、周りの細胞から元あった細胞を培養して、再生させる。
「ふぅ……っと。こんなもんかな、まだ黒いけど」
「……スバル君?今のは……?」
「…?ただの治癒魔法なんだけど?」
「い…いやだって今……スバル君が魔法発動した時にその黒いのが劇的に薄くなっていったけど……?」
「ああ。ただの浄化だよ。特になんの変なものでもない。」
そう説明していると、患者がうめき声をあげて起きた。
「…………?ここは?あれ?俺は確か………オーガたちと戦ってたはずじゃ……?」
「ああ……!!よかった!!死んじまったかと思ったよ……!!」
「な!?どう言うことだ?ここは確か…………治療院?……もしかして俺、怪我でもしたのか?」
「さっきまで助からないって言われて……でもそこの坊やがあなたのことを助けてくれたんだよ」
「坊や…?君か……?」
「どうも。Aラン………じゃなくて今はSランクの冒険者のスバルです」
「「「「Sランクぅ!?」」」」
獣族の女の子、女医さん、患者さん、患者さんの付き人みんなが驚いていた。
少し自慢する形になってしまったが……まぁ特に支障はないだろう。
「セ…セイル?もしかしてあなたも……?」
「あはは…実はスバル君とはパーティを組ませてもらっててですね……」
「ってことはもしかして……?」
「ははは……一応Sランクです……まぁほとんどこの二人の功績なんですけどね」
そう言ってセイルは俺たちのことを持ち上げる。
…………褒めたって何にも出ないからな!
そう心の中で思うが、セイルだってちゃんと活躍している。
まぁ主に目立たない補助系で、だが。
前世にあったこういう異世界モノは、大体みんな知らない力を持っていて追放される主人公とかいるけども。
少なくともセイルはいくら補助系だと言っても活躍していない、と思わせることはしていない。
っていうか結構それなりに目立っている。
範囲が広い受動探索魔法はすごく大助かりだし、治癒魔法だって俺よりも起動時間も早いし、いろんなケガを治すことができる。
…………なんか将来「聖女」とか言われて祭り上げられそう………
そんな懸念を横目に、さっきからずっと沈黙を続けているマーチェに声をかける。
「どうしたんだー?マーチェらしくないぞー?」
囃し立ててやると、マーチェは顔を赤らめながらそっぽを向いた。
「べ、別に!なんでもないわよ!」
「うーん?そうはみっえないけどなぁ〜?」
そう揶揄ってやるとパンチが飛んできた。
「うわっと!あっぶなぁ〜」
……まぁ簡単に避けられるんだけどね……
そう思わせておくことが大事なのだ。
「まぁこの人は治ったわけだし。他に治してもらいたい人とかいますか?」
そう女医さんに提案する。
だが、その女医さんは首を横に振りながらこういった。
「その気持ちはありがたいんだけどね……あなた、さっき一階で人をたくさん治癒してたでしょ。あれのおかげでもうほとんど重症患者はいないのよ」
「へぇ…………」
(……余計なことして目立っちゃったな……)
「まぁ、セイルに言われたこともやりったし、一度宿に戻るか」
「そうね……私はアレの続きをやりたいんだけれども」
そうマーチェが睨みながら言う。
「あれはまた今度な。今日はもう日が暮れてきたし。次の街についてからにしような」
そう言ってやるとマーチェは頰を膨らませてプイッと顔を背けた。
…………何あれ、少し可愛いんですけど……
まるで駄々をこねるようなマーチェに難儀しながらも俺たちは宿へ戻っていった。
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ーーそういえば、俺の鞘、作らなくてよかったのか?
「ああ!!忘れてたぁぁぁぁぁ!!」
その夜、後悔する言葉が延々とスバルの部屋から聞こえてたとか。




