31.呪剣
胃腸炎&花粉症のダブルパンチで少し寝込んでいました。
すみません!
ちなみに今回は時系列がたびたび(?)入れ替わるのでそこはご了承ください。
長い間休んでいたのにこの量……
もう少し頑張ります!
年老いた魔族の説明を聞いてあらかた理解ができたところで、俺は席を立った。
「さて、そろそろ行くよ」
「そうか……ところで人間よ。貴様はここに何をしに?」
「マーチェを取り返しに」
そういって俺は受動探索魔法を起動した。
すぐにセイルの居場所はわかった。
どうやら、里の中央から少し北にいったところだ。
さらにそこにはマーチェの魔力もあった。
だが少しだけ弱っている。
さらにセイルとマーチェ、二人の間にそれなりの量の魔力を感じた。
(戦っているのか……?)
そう思い、自分に浮遊魔法をかける。
……意外と便利だなこの魔法…
もっと早くに気づいてきれば……
そう思うが、振り切り、風の魔法を使う。
「おお……?どういうことだ……?」
俺が空に浮かんでいることを不思議に思っているのだろう。
魔族の爺さんは俺のことを見て、驚愕の声を上げた。
「ありがとう爺さん!また会えたら会おうな!」
俺はそういって、風の魔法で飛び上がっていった。
少し上空に上がると、魔力の反応があったところで、何かしら砂煙が立っていた。
身体強化魔法を使って、自分の目を強化し、クローズアップしていく。
そこには剣を持って構えているマーチェと、頭から血を流し何かをやっているセイルがいた。
…………………。
……頭から血を流して?!
自分の目から入ってくる情報にたっぷり3秒は硬直してから、もう一度セイルを見る。
やはり頭から血を流して何かをしていた。
というかセイルは喋りかけていた。
きっとマーチェに向かってだろう。
だが、マーチェはそんなセイルに斬り掛かる。
それを、セイルは防御魔法によって作った魔力障壁で止める。
……なんでマーチェがセイルを斬ろうとするんだ?
そう思いつつ、俺は自分の出せる最大の風魔法を使った。
一瞬でマーチェたちの真上に行くと、俺はそこから浮遊魔法を解いて急降下した。
身体強化を使って足の衝撃を和らげる。
ついでに回復魔法も発動しておく。
ドガァァァアアアアアアアアァァァァァァアアン
着地したところに少しだけクレーターのような穴ができる。
「な…?誰だ?」
そう問いかけられるが無視する。
俺は、マーチェの方を向いて言った。
「さっさと帰るぞマーチェ。練習、するんじゃなかったのか?」
だが、マーチェは俺に斬りかかってきた。
………これはあれか、精神が乗っ取られているってやつか…
「おいお前。誰だか知らんけど、さっさとマーチェに体を返せ」
自分の魔剣ーー重力魔法を付与した魔剣で受け止めながら少しだけ、脅しの口調を入れて話す。
「ホウ?ショケンデワカルノカ?」
そう言って俺に返してきたマーチェの声は明らかに今までのとは違い、男の声のように低く、片言のような喋りだった。
「カエシテホシクバチカラズクデウバエ。ワレニハケイヤクガアルノダ」
「そうか?サイオンジの剣。お前は本当にここで暴れたのか?」
そういうと、マーチェの剣に爆発的な魔力が宿った。
「ダマレ……!ソノナヲ…!ソノナヲ…カタルナァァ!!!」
そう言って俺に剣で切り掛かってきた。
サイオンジがここにあの剣を刺したということは、つまりはここであの剣を捨てたということと同じだ。
よほど何かの恨みがあったんだろう。
それにこの剣が言う、契約のことも気になる。
何を、誰と、契約したのだろうか?
だがそれよりも前に、俺に切り掛かってきているマーチェをどうにかしないといけない。
だが、マーチェはあくまで人間だ。
こんなところで、核熱魔法でもぶっ放して死んでもらったら困る。
そもそも、核熱魔法をいまぶっ放すと、マーチェどころか、セイルも含め、きっとこの里の半分は消え去ることになる。
あの爺さん魔族の約束もあるし、マーチェとの約束もある。
約束なんて山積みだ。
(誰も……死なせない!)
だが、マーチェを止めるとなると、少しは手荒になってしまう。
怪我も否めない。
……ここは……
俺はある決断をした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
遡ること10分前
「っく!どういうことだ?」
パリエットは精神を乗っ取られたマーチェと戦っていた。
途中である少女が空から降ってくるというアクシデントもあったが、まだ戦い続けている。
剣を交えてわかったことがある。
(…………この意識を持った剣……強い…!)
そうパリエットに思わせるほど、マーチェの精神を乗っ取った剣ーーサイオンジが使っていた呪剣は強かった。
なんとか<魔力霧散>を使って、魔法を無効化しているが、それがなければ、さっきから続いている魔法による攻撃は防げない。ーーつまり、もう死んでいる可能性さえある。
そもそも、マーチェリットの基礎魔力、基礎体力含め、全体的に力がここ数年で倍増、とまではいかないものの、相当増えている。
それに対抗するのは、家宝である魔剣を持ったパリエット。
この魔剣は、パリエットの先祖が、魔王から直々に下賜された、ものすごく強力な魔剣である。
この魔剣の能力ーー魔王が直接、付与した魔剣ーーそれは水の形をして、自在に形を変えることができる魔剣だ。
その上、なんでも断つ。
変幻自在な魔剣を手に戦うが、それでも押され気味だ。
意識を持った剣ーーもといマーチェにダメージを与えたら、いくら乗っ取っていようと、パリエットを倒すことはできなくなる。
しかも、パリエットの持つ魔剣はどんなものでも易々と切ることができる。
だが、パリエットはマーチェの体に傷をつけることができない。
否。近づくことさえできないでいた。
マーチェを乗っ取った剣は、魔法を使って、魔剣で突撃を繰り返すパリエットを牽制している。
それでも懐に入ってきた時は、まるで瞬間移動のような感じでパリエットの背後をとっている。
気づいた時には、パリエットの生傷は十を超えていた。
「く……ここまでとはな……」
「ナンダ?モウコウサンカ?」
「ふふ……フハハハっ!降参?そんなの体がバラバラになろうとしないわ!」
「ソウカ……デハバラバラニナッテイタダコウ」
そう意識を持った魔剣が言う。
その瞬間、マーチェの魔力が爆発的に上がった。
マーチェの後ろに、ドス黒いオーラが出てくる。
その圧倒的なまでの圧力にパリエットは少し後退りした。
だが、周りにパリエットを助けてくれる魔族はいない。
近衛兵は全滅、周りにある家に住んでいたと思われる魔族はどこかへと逃げていった。
ジリジリと近づくマーチェに怖気ついて後退りするパリエットは気付けば、とある民家の外壁にまで追い込まれていた。
(くっ……ここまでか?)
そう思った矢先、何かがパリエットの前に出た。
頭から血を流しているセイルだ。
「マーチェ!帰らないの?」
そう自分で治癒魔法を展開し、回復しながらセイルは問いかける。
「ダレダ?オマエハ」
「…………っ。誰かに精神を乗っ取られているのね?」
そうセイルがいうと、わずかにマーチェの首が縦に振られた。
きっとわずかながらまだ少し体を動かすほどの精神は残っているのだろう。
セイルはそれを肯定と受け取った。
「マーチェは……返してもらうわ!」
そうセイルはいうが、その一瞬前、精神を乗っ取られたマーチェは剣を振りかぶった。
だが、その剣が届く前に空から何かが降ってきた。
大きな音と砂煙が発生した。
だが、空から降ってきた何かが、風魔法を展開し、砂煙はいとも簡単に晴れていった。
砂煙が晴れると、そこには、半径2メートルほどのクレーターがあり、その中心にスバルが立っていた。
(あ……あぶな……)
そう、セイルが思っていると、後ろから疑問の声がかかった。
「だ……誰だ?」
と、聞いたのはきっと後ろにいるパリエットだろうーーセイルはこの時点では彼の名前も、どんな立場にいる人かもわからないがーーと、思っていた。
だが、その問いを無視し、スバルはマーチェに質問をした。
どうやらスバルはこの状況を理解しているらしい。
スバルが発した、ある人の名前を意識を持ったけんは過剰に反応した。
魔力が爆発的に増え、威嚇をしてくる。
だが、それに負けじと、スバルも多大な魔力を身に纏わせた。
そして、自身の手に集めていく。
だが、何を思ったか、途中でその魔力は霧散していった。
スバルは口を開いた。
「お前、呪われてんのか?なら、俺がその呪い、解いてやるよ」
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