30.勘違い
祝30話!!
………ってこんなことやってるの僕だけですかね?
ドゴゴゴゴゴォォォォォン
俺は頭から地面に突っ込んだ。
……浮遊魔法使えばよかった…
身体強化魔法によって大事には至らなかったものの、首が少し痛む。
「っくそ!どこにいるんだ……!」
起き上がって周りを見ても、人影はない。
きっと、家の中に引きこもってしまったのだろう。
そう思っていると、セイルがいったと思われるところで爆発音がした。
……もしかして、やっちゃったか?
自分が浮遊魔法を使わずに落ちていったということはセイルもきっと同じであるはずだ。
きっと身体強化魔法も使っていないだろう。
俺たちの中で一番、治癒魔法が得意な彼女なら、意識さえあれば万が一はないと思うが、それでも心配になる。
(だがそれよりも……)
でも、今はマーチェを助けにきた。こんなところで足止めされては困る。
そう思って近くにある家の戸口を叩いた。
トントントンッ
家の中で階段から降りてくる音が聞こえる。
ドアが開いた。
「誰だ……って人間か?!く…くるな!」
「え?!いや何もしませんよ?!」
「そういってお前らは!いつもそうやって!」
どういうことだ?
いつもそうやってっと言っているが、この里には結界がある。
そう簡単に人間は通れないはずだ。
じいちゃんやばあちゃんでさえ……いやばあちゃんは行けそうだけど、じいちゃんではこの結界はブチ抜けないだろう。
つまり、並大抵の人間は入れない。
それなのにこの怯えよう。
頭のおかしいがめっちゃ強い人間が入ってきたとしか考えられない。
「どういうことだ?誰かに虐げられたってことなのか?」
「っく……貴様らはそういう話術が得意なんだろう!その手には乗らんぞ!」
「まぁいいじゃないか……その人間からは害意は感じん。」
「な……じいちゃん!でも!」
そう言って出てきたのは年老いた魔族だった。
「いいだろう若き人間よ……わしらのことを教えてやろう……」
「でも!じいちゃん!」
「なんじゃ?…………人間。入れ」
威圧的な声で自分の孫であろう魔族を制した後、スバルに家の中に入るように促した。
(入ってもいいのだろうか?)
そう思ったが振り切り、魔族の家の中に入っていった。
家のリビングであろう場所に通されるとそこには女の魔族が二人いた。
「お義父さん?!なんで人間を?!」
そう、俺が入るなり驚愕な顔をして老いた魔族に尋ねる。
「この人間には……わしらのことを知ってもらう必要がある…」
「でも人間なんて!人間はあの人を!」
「あれは仕方ないじゃろう……あれはお前らを守ったのじゃ」
「あのー……少し質問していいかな?」
そう俺は尋ねる。
「どうした?人間よ。わしらが答えられる範囲であれば聞いてやろう」
「あのさ、さっきから気になっていたんだけど、なんでこんなに人気がないの?」
そう。さっき俺が落ちてきたところもそうだけど、今、窓から見える大きな通りには魔族の里という割には魔族があまりいない。
これはおかしな話だ。
「ああ……それは……」
「先代の長の娘、マーチェリット様が暴れているんだ」
隣に立っていた男の魔族が答える。
「え…っとマーチェリット、様?」
「ああ。先代の長はすごく聡明な上に強く、この里を幾万の災から救ってくれたんだ」
「じゃが……」
「先程帰ってきたマーチェリット様が数刻前に暴れ始めて……」
「たくさんの魔族が里から逃げていってしまったのじゃ」
「ん?ということはマーチェは今どこにいるの?」
「貴様我がマーチェリット様をそのような呼び方をするなど……」
と、男の魔族が威圧的になる。
よほど、先代の長というのはよほどすごい統治をしていたんだろう。
いまだに、長が変わっても尊敬の念が薄らいでいる様子はない。
「マーチェリット様は里中を荒らしておられる……」
「つまり今どこにいるかはわからない。」
「…………あ。そういえば受動探索魔法を使えばいいじゃんか」
……セイルに頼めばよかった。
わざわざ手分けなんてしなくてもセイルが見つけてくれたらそのまますぐに行けたのに……
「……?この里内では人間は魔法を使えんぞ?」
「は?なんで?」
里内では魔法は使えないという。
何か阻害するものがあるのだろうか?
……あったら壊すだけだけど
「うん?知らんのか?結界があっただろう?あれのせいじゃ」
「ああ。あの結界か……」
…………さっき壊しましたけど?!
もしかして……あの結界壊しちゃいけなかったやつじゃ……
そう俺が青い顔をしているのを不思議がったのだろう。
もう一人の女の魔族が聞いてきた。
「っていうかアンタどこから入ってきたんだい?」
「………………結界壊して、入ってきました……」
「「「「!?」」」」
「ど、どういうことだよ?結界を壊したって」
「その言葉の通り、結界のてっぺんからとある魔法を使って壊したんですよ……」
「それじゃあまるで……」
「アイツみたいじゃないか……」
「アイツ?それって誰ですか?」
「ああ。そういえばまだ話の途中だったな」
「あれは今から十年くらい前の話なんじゃが……」
「あれはな……突然きたんじゃ。人間。貴様のように結界を真正面から壊してこの里に入り、荒らしまわった。多くの魔族がアイツに立ち向かい、そして圧倒的な力を前に蹂躙されていった。だがアイツは何を思ったか……途中で持っていた剣を地面に差し、そのままこの里から出ていったんじゃ。じゃが、この里の被害は相当での……それで先々代の長から先代の長に変わったしのう……わしの息子も……」
……だからか。
なんとなく合点がいった。
この里の魔族が人間を怖がる理由。
それはきっと十年前に起きた一人の人間の襲来によって里が壊滅状況に陥ってしまったからなんだろう。
そしてこの年老いた魔族の子供もその人間に立ち向かい、亡くなってしまった、と。
「ちなみに襲撃してきた人間の名前は?」
「そうじゃの……確か最初の方で名乗りをあげていたかの?」
「ああ、確か父ちゃんはサイオンジと……」
「サイオンジ?!」
「なんだ?知っているのか?」
「いや……最近読んだ本の作者の苗字が確かそんな感じだった気が……」
見間違いだったか?
でもどちらにしろ日本人っぽい名前であることに変わりはない。
「ちなみにその地面に刺された剣は今どこに?」
「あれはな……」
「「マーチェリット様が使っておられる」」
「……は?」
どういうことだ?
マーチェが使ってる剣……それは魔竜剣しかない。
しかし、魔竜剣を作って使っていたのはじいちゃんだ。
つまりこの魔族たちの話を聞くに、俺のじいちゃんは昔、この魔族の里を襲い、サイオンジと名乗った……
だが、なぜじいちゃんはいかにも日本人の名前を名乗ったんだ?
色々と辻褄が合わない。
それも十年前といと俺は生きている。
それがこの里に襲いに行けるほどか?
じいちゃんは正直そこまでいって強くない。
さっきも思ったが、この里の結界はじいちゃんじゃ開けることはできないだろう。
……ならどうやって?
「その剣、どういう剣なんですか?」
とりあえず情報収集だ。
できればじいちゃんがサイオンジであったことは信じたくないけど。
「今マーチェリット様が使っておられる剣か?あれは呪われた剣だぞ?」
「呪われた?どういうこと?」
「ああ。サイオンジ……あの頃はまだ若かったアイツは呪われたあの剣を使って我ら魔族を蹂躙した。そうだな…………呪われたというと…………あれは意識を持っておる」
「は?意識を持っている剣?」
「そうじゃ。今まさにあの剣を手にしたマーチェリット様は、精神を乗っ取られ、暴れておられる。今、暴れているのはあの意識を持った剣じゃ」
「……………………」
ますます意味がわからなくなってきた。
この世界、植物も動物も空気にも地面にも全ての物体に魔力は宿る。
そして相手を傷つけたいーー害意というのもある。
剣に意識があって相手の精神を乗っ取ろうとしているのであれば害意を感じるはずだ。
でも、マーチェのあの剣を触ったこともあるが、害意は何も感じなかった。
…………つまりあの剣ではない?
……いやそれ以前に、あの剣は元々、サンムーンの宝物庫にあったのを領主がとってきてマーチェに渡したものだ。そもそもの前提が間違っていた。だが、彼女があの剣以外を振るっていたのを見たことがない。
どんな時もマーチェが持っていたのは魔剣だし、基本的には魔竜剣以外使っていない。
……ってことは……
「マーチェはここにきてからその剣を?」
「ああ。たまたま入った部屋にそのサイオンジがおいた剣があったそうでな……常人なら抜くことどころか近づけさえしないのだが、それを抜いたんだ。」
……なるほど。話の概要が大体掴めてきた。
つまり、マーチェはなんらかの理由でとある部屋に閉じ込められた。
で、その部屋には十年前にこの魔族の里へきて、荒らしまわったサイオンジの剣があった。
常人なら近づくことさえできないそれに、マーチェは近づきそして抜いた。
だが、その剣には意識が宿っていて、その剣によって、マーチェは精神を乗っ取られ、暴れ回っていると。
………うん。なるほど、理解ができてきた。
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