26.魔族
「魔族ってどう言うことだよ」
マーチェは自分が魔族だということを言った。
俺はまだその事実に頭が追いつかない。
だが、マーチェが今見せている一対の角は確かに魔族特有の角だった。
「じゃあなんであんなところにいたんだよ」
そう俺は聞く。
「私はこの里が嫌になって飛び出した。幸い、魔族には角を隠すという技法があるから、一般人には私が魔族だということはバレない。スバルに秘密を隠してたのは申し訳ないけど私は魔族だ」
「魔族……か…」
「幻滅した?私が魔族だったていうことに」
「幻滅?なんでそんなことをしなきゃいけないんだ?マーチェはマーチェだろうし」
そこまで言った時に遠くに砂埃が見えた。
「…?あれはなんだ?」
「きっと私を見つけてここまできたんだろう。私が相手する。」
砂埃を立てていた何かが俺たちの目の前で止まった。
「貴様は……この里から出て行ったマーチェリットか…」
「あなたは……門番のクリエットさん?」
マーチェより一回りでかい魔族がそこに立っていた。
「そのなで呼ぶな。そもそも俺はもう門番なんかではない。そして貴様は一族の里から抜けていった反逆者だ。」
「じゃあいいわクリエットさん。私の父に伝えといて。絶対に私はあなたを許さないってね」
「残念だがあなたの父はもういない」
「な?!どういうことよ!」
「どうもこうもあなたがこの里から出て行った後あのお方は誰かに暗殺された。今では俺の父がこの一族の長だ。」
「っ!姉さんはどうした!」
「行方不明だよ。きっとあなたの父親を殺したから逃げたんだろうってね」
どうやらマーチェは一族の長の家系に生まれたらしい。だが、彼女の父親は何者かに暗殺され、マーチェの姉もどこかに行ってしまったらしい。
「……ふざけるな」
「ん?なんて言ったか聞こえなかったぞ?」
「ふざけるなって言ってるんだよ!父上が殺された?そして姉さんも行方不明?それは全部あんたたちがやったんだろ!自分たちが長になりたいために私の家族を殺した?ふざけるのも大概にしろ!」
「そんな怒るな。それにどこに私たちがあなたたちの家族を殺すんだ?あなたの家系ーー<魔力合成>を使える奴らに私たちがどうやって勝てと?」
「お前らの家系では<魔力霧散>を使うだろうが!私たちを倒すことぐらいは簡単なはずだ!」
「うるさい。あなたはその<魔力合成>が使えなかったから追い出されたんだろう?落ちこぼれが変なことをほざくんじゃないよ」
「あ、あの……」
「ん?なんだお前は……って、人間か?!なぜこんなところに?!」
「スバルはちょっと黙ってて」
そうマーチェに口止めされた。
二人の会話から推測するにマーチェが使う<魔力合成>はマーチェの家族の固有魔法らしい。
とはいえ、俺も一応二つの魔法を同時発動させて合成し、扱うことぐらいはできるんだがな……
さらにもう一人のクリエットって人は<魔力霧散>というのが使えるらしい。
……今度試してみようかな…
魔法っていうのはイメージによってできるものだし。基本的な属性には分かれているけども、高位の魔法使いになると属性の垣根を超えて、自分のオリジナル魔法が作れるようになるらしい。
例えば俺の核熱魔法とかだな。
あれは完全に前世の知識をフル活用して作った魔法だから作れるとしたら、同じくこの世界に転生した俺と同じ日本人ぐらいだな……
無詠唱と詠唱の違いはいまだにわからない。
確かセイルは出会った時は少し詠唱していたような気もするけどそのあとは俺が無詠唱魔法を教えたことによってそれ以降詠唱魔法を使ってなかったしな……
マーチェは基本的に魔剣しか使わないので詠唱なんて見たことも聞いたこともない。
<魔力合成>でさえ魔剣を触媒にして使ってるぐらいだからな……
そんなことを思っていると、空から何かが降ってきた。
よくよく目を凝らすと、それは魔法の類であることがわかる。
咄嗟に俺はマーチェと俺の頭の上に防御魔法を展開した。
ドガァァァァァァアアアアン
爆発音がした後、砂煙に見舞われた。
それを俺は風魔法を使って晴らす。
そこには、驚愕の表情をしたクリエットさんがいた。
「今のやったのあなたですか?」
そう俺は問う。
「何を言っているんだ?そんなことをする時間は俺にはないはずだ」
しどろもどろになりながらクリエットさんは答える。
「ならなんであなただけ無傷なんですか?わざわざ俺とマーチェには当たるようにしてあなたは何も喰らっていない。どう考えてもあなたがやったとしか考えられないんですけど?」
「うるさい!人間如きが崇高な魔族に口を開くでない!」
そう言ってクリエットさんは手をかざす。
今度は真正面から、高威力な魔法を飛ばしてきた。
俺はそれを防御魔法を使ってまた防ごうとするが、なかなか防御魔法が構築できない。
(これが<魔力霧散>か……)
だが、魔法はイメージによって作るもの。
イメージによれば俺でもこの<魔力霧散>は作れるかもしれない。
そう思って、俺は魔力を使って相手の魔力を分解する、詳しくいえば魔力をミリ単位まで小さくしてそれぞれ相手の魔力にぶつけることで相手の魔力を小さくし、最終的には完全に壊すことを試みた。
完全に初見の技であるし、今この場で作った魔法でもあるので、一応のため逃げる準備をしておく。
まず最初に分解するのはクリエットさんの<魔力霧散>だ。これがあると俺でも何もできなくなってしまうからだ。
こうして、俺はクリエットさんの発する<魔力霧散>を分解し始めた。
相当緻密な作業なので集中力は半端ないほどに必要だ。
そうして少しずつ分解していると、その間にクリエットさんが放った高威力の魔法が近づいてきていた。
だが、俺が魔法を扱えるほどには<魔力霧散>を弱体化させたので俺はそのまま、防御魔法を展開する。
着弾した瞬間、ものすごい衝撃波が俺を襲ったが、俺はもう一枚の防御魔法による<ガード>を展開することでそれを凌ぐ。
クリエットさんの魔法が終わった後、砂埃で塗れている場を、俺は受動探索魔法を使ってクリエットさんの具体的な位置を把握する。
そこに獄炎魔法<乱>を叩き込んだ。
手応えは感じたが受動探索魔法ではまだクリエットさんは倒れていない。
どうなっているのかを確認しようとして、俺は風魔法を使って砂埃を取り払った。
すると、こちらに向かってクリエットさんが走ってきていた。
「なっ……」
その姿はさっきまでとは一味違い、魔力による青白い光を身体中にまとわせて、目はまるで魔物のような深紅に染まっていた。
刹那、間合いを一瞬にしてゼロにしたクリエットさんはどこからか取り出してきた魔剣を俺に向かって振り下ろした。
俺は、それを紙一重で避ける。
「ニンゲン……キサマ……キサマァァァァ!!」
そう、理性を失ったかのようなものになり、突撃を繰り返してくる。
砂埃が舞い、相手の位置を確認しづらくなるので俺は常時受動探索魔法を使うようにしたその時だった。
遠くのマーチェたちの村から多くのナニカがこちらへ向かってきていた。
……新手の魔族か?
そんなことを思っていると、後ろにいたマーチェから声がかかった。
「スバル!もうやめて!こいつらは確かにおかしいけれど、今はこんな問題を起こす時期じゃない!」
「でも……」
「いいからさっさと戦闘はやめなさい!あとは私がやる!」
その時、茂みの中からたくさんの魔族がやってきた。
凶暴化したクリエットさんを捕まえると同時に、俺たちを取り囲んだ。
「マーチェリット様。我が主がお呼びでございます。」
「あなたたちの主人は誰?」
「もちろんパリエット様でございます。」
「そうね…わかったわ。スバル。あなたは先にサンポートに帰ってくれるかしら?魔族の里は人間が入っちゃいけないルールなの」
「……本当にそれでいいのか?」
「ええ。こうしないとーーいえ、なんでもないわ」
そう言ってマーチェは魔族の人たちに囲まれながら魔族の里へと向かっていった。
「待ってるわ」
そう、去り際に振り返って悲しそうな顔で呟くとマーチェは魔族の人たちに覆われて見えなくなった。
俺は転移してきた場所で呆然と立っていた。
そうしていると、また謎の声が聞こえてきた。
ーー何をしているの?
ーーマーチェちゃんは先にサンポートに行っててって言ったよね
ーーいつまでここにいるつもりなの?
「なぁ。俺はどうすればよかったんだ?」
ーーさぁ?それは僕たちにもわからないよ
ーー逆に君はこれからどうすればいいんだろうね?
「何も教えてはくれないか……」
ーー君はもう答えを持っている
ーー何も悲観する必要はない
ーーそのまま、自分の思うままに動けばいい
ーーたとえそれが邪道だったとしても………
そう言ってそれきり謎の声は途切れた。
「どうすればよかったんだろうな……」
俺は自問をするように虚空に問いた。
もちろん誰かが答えてくれるはずもなく、ただその声は虚空の中に吸い込まれていく。
マーチェは一人で問題を解決しようとした。それに比べれば俺はまだまだだ。
「セイルに伝えなきゃな…」
そう言って俺は転移魔法の印をつけたあと、サンポートの街の門のところまできた。
そこにいた門番さんが声をかけてくれた。
「ん?あれさっきの嬢ちゃんはどこ言ったんだ?それにそんな暗い顔をして。どうした?」
と、優しい声をかけてくれるが俺はあまりちゃんとした答えを返すことができない。
ぼーっとしながら歩を進めるといつの間にか宿の目の前に立っていた。
入るか入らないかを考えていると後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「スバル君?マーチェはどうしたの?」
そう、セイルに聞かれ、俺は振り返り、そして言った。
「セイル。少し話がある。詳しいことは中で話そう……」
そういうと、はにかんだ顔をしていたセイルは急に引き締まった顔をした。
宿の食堂で今日起きたことを全て話した。
マーチェが魔族だったこと。
クリエットという魔族に襲われたこと。
マーチェが一人で戻って行ったこと。
そして、最後にマーチェが俺に向かって言った言葉のこと。
最初は、絶望な顔をしていたセイルだったが、途中から、怒りが混じり、最後には涙が溢れていた。
「スバル君……どうして……」
「………………」
俺が何も答えずただ俯いていると視界が爆ぜた。
頰を叩かれたのだ。
「スバル君!何をしているの!なんで、スバル君はマーチェを助けなかったの!」
そう今にも泣きそうな顔で俺に問いかけてくる。
ずっと俯いて何も言わない俺にセイルは腹を立てたのか、俺の腕を引っ張り、外に連れ出した。
そのまま、何も言わずに街の門の外まで行く。
俺の腕を引っ張っている間、セイルはずっと涙を流していた。
森の中までたどり着くとセイルは涙を拭って口を開いた。
「スバル君。転移魔法でそのマーチェの里まで連れて行って。マーチェを取り戻すから」
「……ああ…………わかった……」
そう力なく俺は答え、さっきまでいた魔族の里の手前まで転移魔法を使って飛んだ。
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