支援スキル超育成を持つ僕。大魔王討伐後500年間歴代勇者の師匠をしていたけど新米勇者に追い出されたので今度は魔王を育成することにしました
「エディ。さっきの戦いだけど最後の一撃は見事だった。よりキレが増している。だけどあそこで1人前に出るのは危険だ。もっと周りを……」
「うるさいこの役立たず!!」
「ぐっ!」
ボゴ! という鈍い音とともに殴られた僕は地面に倒れこんだ。勇者の拳の威力に今の僕が耐えられるはずもなく無様に痛みに呻くことしか出来ない。口の中の不快な感触で歯が折れたことがわかる。
「お前はいつもいつもそうやって文句ばっか言いやがって! このクズが!!」
「言い過ぎよエディ。彼だって頑張ってるわ。例えば荷物持ち……は馬車があるし、料理……はセインのほうがうまいし……あれ? もしかしてウォルターって本当に役立たず? 擁護したくても出来ないんですけど!!」
「まあまあ2人とも。ウォルターさんにはいざという時の肉盾という大事な役目がありますから」
「確かに!!」
ゲラゲラと笑う勇者エディ、大魔法師シェンフ、武闘家ロワー。この3人は僕のパーティメンバーであり同時に力を貸し与えている弟子だ。
「皆さん! 何を言っているんですか!! ウォルター様は私たちのことを思ってアドバイスをくれるんですよ。それに今ウォルター様が戦闘に参加出来ないのも私たちに超育成のスキルを使ってくれてるからじゃないですか!!」
そして唯一の癒しである聖女セインを加えて5人。これが僕たちのパーティだ。僕たちは勇者一行として魔王討伐の旅に出ている。僕は正式なパーティメンバーというより彼らが一人前になるまでの師匠役だけど。
「私たちがどれだけウォルター様のスキルのお世話になっているか忘れたんですか!? エディさんが神剣ソルトバルトを使えるようになったのも、シェンフさんがメテオストライクを覚えられたのも、ロワーさんが輝きの爪を手に入れられたのも全てウォルター様のお陰ですよ!!」
「ふん……だからだよセイン。もう俺たちは十分強くなった。500年間勇者を育て続けた英雄だかなんだか知らないがこいつはもうお払い箱だ」
「そうだよね! 歴代勇者は滅茶苦茶弱くてあんたみたいな役立たずでも必要だったかもしれないけど私たちにはもう必要ないしー。というか私たちが強すぎるだけ?」
「そうですね。そもそもこの爪だって彼が祖霊に供物を奉げるとか言いださなければもっと簡単に手に入ったんですから。寧ろ今まで足を引っ張られていたとすら言えるでしょう」
「お! よく言ったなロワー。その通りだこいつは優秀過ぎる俺たちを見てお払い箱になるのが怖くてわざと足を引っ張っていたんだよ! さっきも折角気持ちよくバジリスクを倒したのに水を差すようなこと言いやがって」
「あ、あなたたちという人は……」
流石の聖女セインもこの3人の説得は無理だとわかったのか肩を落としてる。最近傲慢なところが出てきたと思ってはいたけど今までの育ててきた勇者にもそういう子はいた。けれどここまで酷いのは初めてだった。
「要するにこいつの妨害工作もむなしく俺たちはもう一人前になったんだよ。だからこのクズはもう用済みだな。今まで邪魔してくれたお礼にここでぶっ殺してもいいんだがそれは許してやるよ」
「エディマジ優しい! 絶対最高の王様になるよ!!」
「そうだろうそうだろう」
再び下品に笑う3人。恐ろしいことにシェンフが言ったことは冗談でもなんでもなく事実だ。エディは現国王の息子、おまけに王位継承権1位。順当にいけば次の国王になるのは彼だろう。
「エディさん。そろそろ街に戻りましょう。きっと歓待の宴が待ってますよ」
「それもそうだな! こんなゴミクズに付き合ってたら俺の貴重な時間が勿体ねぇ。最後に今までの迷惑料として一発殴ってやるからありがたく受け取れ!!」
そういうとセインが間に入る間もなくエディとロワーが再び殴りかかって来た。ダメージを逃がすためにわざと後ろに転がるとそれを自分の拳の威力と勘違いしたのかまたゲラゲラと笑う。そしてひとしきり笑うとようやく満足したのか僕に背中を向けた。
「よーし帰るぞお前ら。酒と肉と女が俺を待ってるぜ!」
「私はスティムスをやりたいですね。あれは粉末にするとさらにキクんですよ」
「やり過ぎてポックリ逝かないでよねー」
「私は残ります!!」
セインが大声で宣言する。流石の彼女も堪忍袋の緒が切れたようだ。
「おいおいヘソを曲げるなよセイン。確かに優しいのはいい所だけどあんなクズにまで向ける必要ないって」
「私はあなた達とは一緒に行きません!」
「そんなこと言っていいのか? 勇者と共に旅をして魔王を討伐する。これは教皇が聖王様から受けた神託だろ? あの真面目なセインがもしかして神託を裏切るのか?」
「そ、それは」
「大体セインは真面目過ぎるんだよ。ホントは俺と寝たいくせに教義なんかに縛れてよ。俺が王様になったら姦淫オールオッケーな宗教に変えてやるからそれまで待ってろ」
聖王教という自分にとって最も大事なものを侮辱されたセインがエディに平手うちを浴びせる。しかしパンッという小気味いい音は聞こえなかった。
「聖女の攻撃が勇者たる俺様に当たるはずないじゃん。馬鹿だなー。ま、そんな所も可愛んだけどさ。じゃあ俺たちは先に行ってるからセインは後から来いよ。哀れな人間には慈悲をってな。聖女としての体面が必要なんだろ?」
最後に僕に向けて唾を吐くとエディたちは街に向かって歩いて行った。彼らが見えなくなるとすぐにセインは僕の傷を治し始めた。
「すみませんウォルター様。私の聖術が未熟で折れた歯までは完全に治せなくて」
「いやいいさ。一方的とはいえ師弟関係は解消されたんだ。超成長を解いて自分で治すよ」
僕は先ほどまでエディら3人にかけていた支援スキル超育成を解除する。すると自分の体に溢れんばかりの力が戻ってくるのを感じる。暫くの間超育成を使っていたから久しぶりの感覚だ。
「オールヒール。セインも魔力を使っていただろ? 回復してあげるよ。マジックトランスファー」
「あ、ありがとうございます。でも大丈夫ですか? マジックトランスファーは魔力の譲渡効率が非常に悪かったはずです」
「伊達に500年生きてないからね。僕の魔力総量からすると気にする程のことでもないよ。おっと服の汚れも落としておこう」
セインと自分の魔力体力を全回復させると大きく伸びをした。恩人のためにと500年間勇者の師匠役を続けていたが流石にもう義理は果たしただろう。久しぶりに昔の知人に会いに行ってみるか。いや世界の珍味食べ歩きもいいな。
「安心してくださいウォルター様。直ぐに王都の聖王教会本部に手紙を送ってエディさんの所業を伝えます。教皇様から言われれば流石のあの方も聞くはずです」
「それは無理だと思うよ。教皇はエディ、というよりエディを溺愛している国王とグルだ。そもそも魔王討伐の旅に聖女である君を同行させろという神託も嘘だしね」
「そ、それは本当ですか!?」
「うん。僕が旅に出る前に自分で調べたことだし、聖王教にいる弟子の1人からも裏を取ったよ。君にご執心なエディが国王にお願いしたんだ。セインを勇者の旅に同行させてくれってね」
「そんな。教皇様が神託を偽造するなんて」
「数百年前はそうでもなかったけど最近は外的な脅威がなくなったせいで腐敗が進んでるからね。僕たちが大魔王を倒す前はもっとみんな真面目な人が多かったんだけど」
500年前、僕が仲間と一緒に大魔王を倒したら魔界では各地で魔王を名乗る魔族が現れた。魔族がこっちに侵攻する余裕がなくなった結果人間界は大いに栄えたんだけどこれじゃあ大魔王を倒したのが正解だったかわからないな。……大魔王を倒したのが正解かわからない? いいことを思いついた。
「セイン僕は魔界に行くよ」
「え!? なんでですか! まさかお一人で魔王の討伐を?」
「いや逆さ。今度は勇者じゃなくて魔王の師匠をやろうと思ってね」
「どういうことですか?」
「魔王を鍛えて魔界を平定してもらうんだ。そして大魔王になってもらう。そうしたら人間界も今よりましになるかもしれない」
考えれば考えるほどいい案だ。これなら恩を仇で返すことにもならないだろうしね。
「そうと決まれば早速。転移」
「わ、私も!!」
「え?」
一瞬にして風景が荒涼とした土地に変わる。この貧しい光景は懐かしの魔界そのものだ。最も今は思い出に浸るよりも僕に抱き着いて一緒に転移した彼女だ。
「セレンなにもついてこなくても。君を送るのを忘れた僕も悪いけど」
「いえ私もウォルター様と一緒に行きます! 私の力で聖王教を正すためにはあなたに協力するのが一番だと思うんです!」
「でも人間界のためとはいえ聖女が大魔王を作るのに協力なんかしていいの?」
「もし聖王様のご意思に反するものなら私はもう聖女の資格をはく奪されているでしょう。後々取られてしまったらその時はその時です」
思ったよりタフだなこの子。暫く一緒にいてそんなことにも気づけないなんて僕もまだまだだ。
「おい! ここに人間がいるぞ!!」
「マジだ! 人間を食えるなんて数十年ぶりだぞ」
「俺は女が欲しい!」
少しのんびりし過ぎたのか僕たちを見つけた魔族が大騒ぎするとあっという間に数十人の魔族に囲まれた。
「ど、どうしましょうウォルター様」
「いや丁度いい。彼らに少し話を聞こうか。アースハンド」
「な、なんだこれ! 地面が突然!!」
「う、動けねぇ」
地面が隆起すると瞬く間に手の形になり魔族を拘束した。まったく抵抗を感じない。魔族の力も昔に比べて落ちているのかな。
「君、ここら辺で一番弱い魔王の居場所を教えてほしい」
「そ、そんなこと教えるはずないだろ!! この拘束を解いたら直ぐに殺してやるからな人間!!」
「アースクエイク」
地面を指さしながらそう言うと魔族の足元に地響きと共に地割れが起こる。それは徐々に大きくなっており数秒後には魔族を飲み込むだろう。
「ほ、北西のプーレって所に住んでる奴が一番弱いって話だ!! こっから50キロくらい先だ!」
「魔王の名前は?」
「パティス! 魔王パティスだ!!」
「ありがとう。大地よ戻れ」
地響きとともに今度は地割れが治っていく。久しぶりにやったけど上手く調整できてよかった。
「じゃあいくよ。北西50キロで一番強力な魔力は……これか。転移」
再び風景が入れ替わる。今度は大きなお城の目の前だ。最も結構荒れているけど。最弱の魔王だとお城の修理をする余裕もないのかな。
「すこしずれちゃったけど多分このお城の中だね。行こうか」
「でも大きな扉が」
「ウインドハンマー」
「……ありませんね」
風魔法で無理やり城門を開けて奥に進む。魔力反応は城の最上階からだ。しかしさっきは遠くて気づかなかったけど魔王とは思えないくらい魔力が小さいな。
「貴様ら! ここが魔王パティス様の居城と知っての狼藉か! この怪腕のグローが生まれてきたことを後悔させてやる!!」
「アクアショット」
「ブッ!」
道中で出てくる魔族も弱すぎる。城にいるってことはこの国の精鋭だよね? 500年で人間界は腐敗したけど魔界も色々あったみたいだな。次々に現れる魔族たちをなぎ倒しながらどんどん魔王へと近づいていく。そして魔王まで数十メートルまで来ると一際巨大な魔族が立ちふさがった。
「まるで化け物だな人間よ。しかしその歩みもこれまで。四天王たる我が手により直々に葬り去ってくれるわ!! 我が名は山崩しのゾオン!! 我が名前冥土の土産に持っていけ!!」
「ホーリーライトニング」
四天王でこの程度か。まああと3人に期待だね。きっと彼は四天王では最弱なのだろう。
「ウォルター様って目的のためには結構手段選ばれない方なんですね。もっと話し合いとか」
「うーん魔族は力こそ全て! みたいなところあるから先ずは力を見せないと話し合うことすら出来ないんだよね。一応誰も死んでないと思うけど」
久しぶりに直接戦闘をして少し昂ってるから力加減を間違えてないといいけど。さてこの扉の向こうには魔王と残りの四天王が待ってるのかな。魔王と戦うなんて数百年ぶりだよ。
「フッ……よくぞ来たな人間よ。我がこの城の主魔王パティス。我が名前冥土の土産に持っていくがよい」
「それさっき四天王の人に聞いたよ」
「え!? えーっとじゃあじゃあ、この魔王パティスが生まれてきたことを後悔させてやろう!!」
「それも最初にあった人に聞いた」
「そ、そんなぁ。私これ以外の口上知らないのにぃ」
クイクイと袖を引っ張られたのでそちらを見るとセレンが耳打ちのジェスチャーをしていた。なんだろうと思い耳を近づけると恐る恐るといった様子でぼそりと喋った。
「あのウォルター様。魔王ですがどう見ても……幼女なんですが」
「そうだね。魔族は人間より寿命が長いから10歳くらいだろうけど。魔王にしては少し若いね」
「そ、それだけですか? 小さな女の子が魔王をやっているのですよ!」
でも500年前は強ければ年齢とか性別とか関係なかったからなぁ。生まれて初めて喋った言葉が即死魔法で、親を殺して魔王になった魔族もいたくらいだし。まだ生きてるかな彼女は。
「魔王様お逃げください!! その人間は不味いです!! 私たちが盾となるのでいまのうちに!!」
「来いこの化け物!! 一秒でも長く時間を稼いでやる!!」
「でも、でも私みんなを捨てて逃げるなんて……」
僕たちが通った扉から最初に倒した怪腕のグローや山崩しのゾオンなど魔族たちが這いながら入って来た。致命傷を与えていないとは言えこんな重傷でここまで来るなんて。これじゃあまるで僕たちが
「私たちがむしろ魔王じゃないですかこれ?」
「否定できないね。取り合えず力は見せれたみたいだから話し合いといこうか」
僕は熊、ではなく凶悪な牙と爪を持つデスベアーのぬいぐるみを胸に抱く魔王パティスのそばまで行くとしゃがんで目線を合わせた。
「魔王パティスちゃん。僕の名前はウォルター。500年間人間界で勇者の師匠をやっていたんだけどクビになってね。君さえよければ今日からは君の師匠をやりたいと思ってるんだ」
「え? 勇者? 師匠? 私の?」
「ああ。勿論安心してほしい。突然現れた僕にその実力があるか心配なんだろう?だが心配無用だ。僕はその道のプロフェッショナルだからね。必ず君を立派な魔王……いや」
「大魔王にしてみせるよ!!!」
面白いと感じてくださる方が多ければ連載にする予定です。
「面白い!」
「続きが気になる!」
そう思っていただけたら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白ければ星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。よろしくお願いいたします