第十六話 颯爽と現れる幼馴染
試合の描写が下手くそなことに関しては目をつぶって頂けると助かります……
うーん……いくらあいつがキャプテンだからって、流石に3対1はどう考えても厳しくないか……?
「じゃ、ルールを決めようぜ。始めるのは今日の放課後、校庭でいいな? 試合時間は前半20分、休憩10分、後半20分の計50分」
「めっちゃお前が決めるじゃん」
「勝負を受けたのはお前だろ?」
そう言うと、取り巻きAこと山中は意地悪そうに笑った。
「兄貴」
「どうした?」
「もし試合に勝ったら……」
「勝ったら?」
「俺持ちでラーメン食べに行きたいです!」
「それくらいならいいけど……てか自分のは自分で払うから……」
「ありがとうございます!」
「何でお礼言われてんの?」
「そろそろ茶番は終わったか?」
「確かに茶番みたいなもんだけどさ……」
「兄貴!」
「何だよ」
「絶対勝って兄貴とラーメン行きます!」
「おう。別に負けても行ってやるよ」
───────というわけで放課後、1人対3人の、不公平極まりない試合が始まった。
放課後にサッカー部の内輪での試合があると聞いて(実際のところ、大半は大山目当ての女子だったが)、多くの観客が集まった。なんか知らんけど放送部のやつが実況に立候補するし、審判役もサッカー部から出てきた。
「それでは、この試合の主催者、竹山博幸さん、開会の言葉をどうぞ」
え? 俺が主催者ってことになってんの?
周りからの急かすような視線が集まる。俺は実況役からマイクを受け取り、やる気ゼロの開会宣言をした。
「えー…………ご紹介に預かりました、竹山です。なんかいつの間にか主催者にされてました。どっちも頑張って下さい」
「兄貴ー! そこは俺を応援するとこじゃないんすかー!?」
あいつの声が人混みの中から聞こえた。まぁ、一応あいつ俺の味方っぽいしな……
「あー、うん……それじゃあ……大山ー、頑張れー」
「はい! 頑張ります!」
「……えーっと……そ、それでは、両チームはコートに移動してください」
両チーム(と言っても片方は1人だが)が向かい合う。
「では……前半戦、スタートです!」
審判のホイッスルが響き渡る。先にボールを持っているのは、じゃんけんに勝った山中チームだ。数の暴力でパスを繰り返し、大山にボールを触らせない。
「……決まったー! まずは1点目! 山中チームの得点です!」
あっという間に大山は1点目を奪われてしまった。観客席の女子のブーイングが止まらない。やっぱり3対1は厳しかったか……?
しかし、ボールを貰った大山は、あっという間に2人を抜いて、すぐに1点取り戻す。今度はブーイングが一気に歓声に変わった。
守りにおいては厳しいかと思われていた大山だが、二回目からはそうはいかなかった。パスをする瞬間に上手いことそれを遮ってボールを奪い取り、そのまま立ちふさがる相手を見事にかわして、ゴールにボールを次々と蹴り入れていく。サッカー……というか運動全般においてド素人の俺でも分かるほどに、大山は圧倒的に強かった。1年でキャプテンやってるだけはあるなぁ……
───────前半戦が終了した現時点で、スコアは5ー1となった。あの状態で20分で5ゴールってどうなってんだよ……
「兄貴」
「どうした?」
「3対1でも意外と何とかなるもんですね」
「いや、多分お前が例外なだけだ」
「そうなんですかね……?」
「どう考えてもそうだろ……」
「……まぁ、たとえそうだとしても……やっぱり、サッカーはみんなで連携してやる方が楽しいです。だから、山中には出来れば戻ってきて欲しい」
「……ま、そう上手くは行かないかもしれないけど、頑張れよ」
「……はい!」
水を飲んでしばらく休憩した後、後半戦が始まった。この点差なら、あとは大山が守りきれば勝ち……と、思っていた。だが、後半戦が始まってから数分後に事件は起こった。
大山が山中のスライディングを受けて倒れ込み、ファール判定が出された。サッとスマホでルールを調べたところ、こういう時はフリーキックとやらになるらしいのだが、いつまで経ってもその素振りがない。大山はしばらく座り込んだままだし、審判が傍で何かを話している。審判に肩を貸してもらいながら大山がこっちまで来ると、衝撃の事実を伝えた。
「兄貴……ちょっと足捻挫しちゃいました……しばらくサッカーはできないかもです」
「それって……完全にあいつが……!」
「……いや、あいつはきっとミスをしただけです。きっとリードされてたから焦ってたんでしょう」
「……お前は本当にそれでいいのか?」
「キャプテンとして、仲間を信じるのは当然のことじゃないっすか!」
痛みでその整った顔を若干歪めながらも、こう誇らしげに笑うと、再び大山たちは歩きだし、保健室の方向へと向かっていった。 ……後ろにたくさんの女子を引き連れて。
「……あいつ、バカだな…………でも、ああいう突き抜けたバカは嫌いじゃない」
俺は試合が終わって解散した山中の方へ向かっていった。気づいた時には足が動いていたが、どうすればいいかはもう分かっていた。
「おい、山中」
自然と話しかける勇気が湧いてきた。今の俺は、少なくとも"1人”ではない。
「何だよ、タケノコくん」
「大山に謝れよ」
「あぁ? 故意に怪我を負わせたわけじゃねぇよ! スライディングは正式なルールで許容されてる行為だ。それに勝負には負けたわけだしお前らにはちゃんと謝る。これのどこが悪いんだ?」
わざとらしくとぼけてみる山中を見て、俺の中で怒りが更に高まっていった。
「勝負の取り決めと怪我のことは別だろ……!」
「……あーもう……うるっせーな! 少し黙ってろ!」
真底イラついた様子のやつの拳が飛んできた。不思議と動きがスローモーションに見える。だが、俺の体は動かない。いや、動けないと言った方が正しいのだろうか。目ではギリギリ視認できても、体がそれに追いつけるほど強くはないのだ。数コンマ秒後に襲ってくる痛みを覚悟した次の瞬間、誰かの手が山中の腕を掴んで止める。
「いででででで! なんだお前!」
「……そのすっからかんの頭でも理解できるように一つだけ教えてあげる。 ……博幸に手を出したら許さないから」
「てめぇ……離せ……!」
「私は故意にやってないから悪くないわね。過剰に反応してるあんたが弱いだけよ。まさか、自分より小さな女の子の細腕に掴まれて痛がってないわよね?」
「……っ!」
苦し紛れに繰り出した反対の腕も"彼女”に掴まれる。
「ほらほらどうしたの? もしかして背丈だけ高くて弱っちいんじゃないでしょうね? ご自慢の筋肉が泣いてるわよ」
「お前いい加減に……!」
「はぁ……じゃあ特別大サービス。ここで諦めて博幸に頭下げて謝ったら離してあげてもいいけど?」
「っ…………!!!」
彼は人間としての尊厳を踏みにじられたかのような顔をしていた。目にはうっすらと涙さえ浮かんでいる。
「…………ヒ、ヒロユキサン……タイヘン……モウシワケアリマセンデシタ」
彼の言葉はほぼ片言になっていた。恐らく両腕の痛みと俺たちへの怒りが原因だろう。頭を下げているせいで顔は分からないが、きっとものすごい顔をしているに違いない。
「はい、それじゃあ5秒以内にとっとと目の前から消えて。二度と私と博幸に近寄らないでね。仮に手を出したりしたら…………分かってるわね?」
「っ……!! ○ね! クソ○ッチ!!」
山中は解放された瞬間、"元”幼馴染に罵詈雑言を浴びせて、走って逃げ帰って行った。
「博幸、怪我はない? あの男に変なことされてない?」
「……お前ってドが3つつくレベルのSだったんだな」
「え? そんな強く言った覚えはないけど……」
「あれで強く言ってないんだったら、世の中の大半の悪口はさぞかし優しいだろうよ」
「えぇ……」
「まぁ…………………………助けてくれてありがとな。やり方はともかく」
「えへへ……博幸の役に立てたならよかった……」
「ついさっきまで屈強な男の両腕を締め上げてたやつと同一人物とは思えないな」
「あ、あれは……博幸が殴られそうになってつい……」
「まぁ、一旦それは置いといて……ところでいつからいたんだ?」
「試合の話をしてた時は教室にいなかったけど、放課後に試合があるって聞いたから会場に来て……試合後に博幸があの……えっと……あいつに向かっていった時、何か嫌な予感がしたから慌てて着いて行ったらああなったってわけ」
「お、おう……そうか………………"契約”のこと、覚えてるか?」
「……もちろん!!」
真底嬉しそうに彼女は答えたが、これが彼女の望んでいる返答でないことは分かっている。しかし、俺はそれを淡々と伝えた。
「おめでとう。これでようやくお前に対する好感度が±0になったぞ」
「……はい?」
「スタートラインに立てたね! おめでとう!」
「……え?」
「いや、あの時はいきなり人生初の告白なんてされて気が動転してたけどさ、よくよく考えればあの時点でのお前の行動って累計でマイナスじゃないかと」
「……え、あ……うん……」
「良かったね! 風邪の時に乗り込んできたことも、酷いことしてきたツケも、さっきのやつで完済だよ!」
まぁ……少なくとも、もうこいつが俺に危害を加えるつもりはないってことが分かったしいいか。
「え、あ……はい。良かったのか……?」
「パンチ1発防いだとしても、いきなり元々の契約内容の3年間飛ばして交際まで持ってくかよ……夢見んなアホ。てかむしろ魔の3年間の分帳消しにできたんだから出血大大大サービスだよ」
「あ、そう考えれば良かったのか……」
「じゃあ……これから3年間頑張りなさい」
「はい! 頑張ります!」
……個人的には結構サービスしたと思うけど……これで良かったのか……?
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