第十四話 イチャイチャを期待する幼馴染
サザエさんシンドロームまで、あと残りわずかです。ぴえん。
──────うーん……どうしよっかなぁ……雨がこれだけ酷いのに傘がない。
「何でこんな急に土砂降りになるかなぁ……」
「天気予報だとバリバリ晴れだったのにな……」
「いたのか練太郎!(冗談)」
「いやいるわ。思いっきりいるわ。どれくらいいたかと言うとだな…………ごめんいい例えがなかったわ」
「冗談だから安心しろって」
「なんだびっくりした………………悪いちょっと着信。 ……へいもしもし……え? 今からかよ……やだよ……今から帰るとこなんだしさ……寝てたんだから義務? うーん……なぁ博幸、なんか呼ばれてるんだけど行っていいか?」
「おう。行ってら。楽しんでこいよー」
「いや仕事なんだけど……」
「お前仕事なんてやってたか?」
「寝てたら日直押し付けられた」
「あ、そういやそんなこともあったな……すっかり忘れてた……」
「てことで行ってくる」
「了解」
……さてと、どうしたもんか……この雨の中、走って帰るまでにどれだけ濡れるか……これだけ降ってたら全身びちょ濡れになりそうでやだなぁ……幸いバッグは防水のやつを買ってあるから何とかなりそうだ……と思いたい。(希望的観測)
「博幸、もしかして傘ないの?」
雨の次はこいつかよ……ついてないぜ……
「……はぁ……」
「良かったら……その……入ってく……?」
「大丈夫」
「えっ……? で、でも……ほら、この雨だし、2時間くらい降るらしいよ?」
そう言うと彼女は天気予報アプリを見せてきた。確かにそのアプリによると、降り止むまではまだまだかかりそうだ。かといってこいつの傘に入るのは癪だし、傘を奪うのも周囲から見たら俺が最低野郎になるだけだし……うーん……走るか。
「走って帰る」
「えっ……ちょ……待っt……」
彼女が全てを言い終わる前に俺は駆け出した。冷たい雨粒が降り注ぐ。みるみる全身が濡れていき、体も段々と冷えてきた。そんな状態だからこそ、俺は必死に家まで走った。家に着いたらまず、ぐっしょりと濡れた制服を脱いで体を拭き、暖かい格好に着替えて布団に潜った。幸い課題とかもないし、今日はしばらく休もう。うん。
──────あー……あちぃ……無理……死ぬ……頭痛い……死ぬ……
どうやら俺はあの後いつの間にか寝ていたようで、朝起きたら熱があった。体調も悪いし、どうやら風邪をひいてしまったようだ。普段風邪なんて引かないから風邪薬も切らしてたし、そこまで食欲もない。治るまで寝てようかと思ったが、暑さと頭痛で寝れそうにない。かといって体を冷やしたら汗が冷えてお腹を壊すことになりかねない。うーん……詰み。ふと時計を見てみると、十六時を過ぎた頃だった。ゲームしないでよく頑張ったぞ俺。まぁ正確にはゲームしたくても頭痛が酷くて集中出来ないからやめたんですけどね。そんな時、突然玄関ドアの開く音がした。仕事をしているはずの母さんが帰ってくるには早すぎる。違和感を覚えた俺は、いつでも通報できるよう、携帯を片手に玄関の方をそっと伺った。
「博幸ー、入っていいー?」
「もう入ってんだろ不法侵入者。とっとと帰れ」
……こんな時に限って何故か一番いらないやつが来た。返品不可なのが悲しい。
「ふ……不法侵入者……? ちゃんとお義母さんに許可とったわよ……? え? 連絡いってないの?」
念の為に某メッセージアプリを確認すると、母さんから一件メッセージが来ていた。全然気づかなかった……通知仕事してくれ……
「博幸、突然だけど学校終わったら涼香ちゃんが看病しに来てくれるらしいわよ? 良かったわね。あと、私は今日帰るの遅くなりそうだから! よく覚えといてね! P.S.頑張りなさいよ!」
…………はぁ……どうせまた合鍵渡したんだろうな……つーか最後の一文がマジで意味不明なんだけど……
「看病は別にいい。もう治った。(大嘘)だからお前に用はない。とっとと帰れ。あと合鍵返せ」
「……治ったんならいいけど……あ、あと……」
何やらゴソゴソと鞄を漁りだした。
「はい、良かったらどうぞ」
しばらくゴソゴソやった後に彼女が取りだしたのは、風邪薬とスポーツドリンクだった。
「お義母さんから聞いたけど、風邪薬切らしてるらしいから買ってきたわ。あと、風邪の時は汗をかいてるからスポーツドリンク飲んだ方がいいって聞いて……」
「はいはいどうもどうも。で、合鍵は?」
「……はい」
ようやく返却されたか……
「んじゃとっとと帰れ。ご苦労さん」
「……分かった」
そう言うと、ゆっくりと彼女は出ていった。即座に鍵をかけ、再侵入を防ぐ。
「あー……ててて……頭痛酷くなってきた………………ていうかこれどうすっかな……」
あいつの渡してきたものを使うのには抵抗があるが、風邪薬は普通にありがたい。それに、頭痛が和らげば寝れるかもしれない。うーん…………よし、明日まで待って治んなかったら飲もう……
──────ドアの開く音がした。ガサガサと買い物袋の擦れる音がする。
「あれ?博幸、あんたなんでこんなとこで寝てんの?」
「……母さん……? 今何時……?」
「えっと……十一時ね」
「いつもよりかなり遅……あ、遅くなるって言ってたな」
「……そのー、それで……涼香ちゃん来た?」
「あぁ、来たよ(追い返したけど)」
「そ、そう! 良かったわね! 看病して貰えた?」
「治ったから大丈夫だっての……」
「にしては顔赤いしふらついてるし怪しいわね……体温測りなさい」
そう言って体温計を渡された。頭痛の感じからしてまだ治ってないのは明白だが、ここで母さんにバレるわけにもいかない……うーん……どうにかして温度を下げられないか……
「ほら、見せて。えーっと……37.8……朝よりは少し低いけどまだ熱があるわ。明日起きても下がってなかったら休みなさい」
「大丈夫だっt……げほっ!げほっ!」
「咳まで増えてるし……もう……強がって無理するから……明日こそ看病して貰いなさい」
「……はぁ……あとさぁ、あいつにうちの合鍵渡すの止めてくれる? 防犯意識もっと高めてくれよ……」
「涼香ちゃんなら盗みなんてしないし大丈夫よ」
「……ダメだこりゃ」
───────朝起きて、再び熱があった。昨日よりも頭がボーっとして、なんだか子供に戻ったみたいだ。母さんは「今日は大人しく寝てなさい」と忠告して家を出ていった。まるで小学生のような扱いだな……内心イラッとしつつ、抵抗する気力すら湧かないので大人しく寝ていることにした。
……昨日と同じくらいの時間帯にあいつが来た。昨日合鍵を奪ったはずなのになんでまた……
「博幸! 治ったって言ってたじゃん!」
「うるっせーな……病人の傍で騒ぐなよアホ」
「あ、ご、ごめん……」
彼女は急に大人しくなり、俺の方を見つめてきた。
「……何だよ、さっきからジロジロ見てきてるけど。言いたいことあるんならとっとと言って帰れ」
「その……おかゆとか食べる?」
「いらねーよ。お前の手料r……」
言いかけたところで、空腹を伝える音が鳴る。全く……タイミング悪いな……ラノベかよ……
「ちょっと待ってて。すぐ何か作るから」
──────しばらく経つと、おかゆと一口サイズのリンゴを持って彼女が帰ってきた。
「毒とか入ってねーだろうな……」
「入ってないわよ! はい、あーん」
「自分で食える」
食べ物を無駄にするのはなんか罪悪感があるから仕方なく食べることにした。昨日の夜以来何も食べてなかったし、ちょうどいい。"あーん”を拒んだ時、彼女は一瞬残念そうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻った。
「…………」
「え、もしかして……美味しくなかった……?」
今度は心配そうな表情をしている。コロコロ変わるなぁ……そんなわけねーだろ普通に旨いよ。でも認めたくないんだよこっちは……まぁ律儀に全部食べてしまったわけだけど……なんと言えばいいのか……
「うま……いわけねーだろ普通だよ」
危ない……ボーっとしてるせいで本音を言いかけた……
「そ、そう……ねぇ、お風呂って入った?」
「入ったよ」
ここで入ってないとか言ったらどうせ「体拭くよ」とか言われるだろうから回避。
「そ、そう……まぁでも汗すごいし体拭いたら……?」
回避失敗。
「自分でやる」
「お湯とか持ってくるよ……」
「自分でやる」
「あんまり無理はしない方が……」
「してない。大丈夫だって言ってんだろ」
「他になにかできることは……」
「ない。帰れ」
「……課題のプリント、ここに置いとくね」
「……はいはいどうもどうも」
最後に合鍵を渡して彼女は出ていった。昨日と比べたら大きな進歩だな!
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