第十三話 隣の席で歓喜する幼馴染
こんにちは。皆さんお疲れ様です。また明日から頑張りましょう。と言いたいところですが頑張りたくないんでおやすみなさい。
幼馴染に嘘告のようなものをされた翌日、何かしらの変化が起こるかと思いきや、いつもと変わらないありふれた日々は過ぎていく。朝起きるといつも通り眠いし、朝食を食べて身支度を済ませると、いつもと大体同じ時間に家を出る。そして教室に着くと、白澤さんと挨拶を交わし、練太郎を起こし、昼食を食べ、午後の授業でウトウトし、放課後になったら練太郎の家に遊びに行く……と、何回目か分からないほど繰り返されてきた日をリピート再生しているようだった。
……しかし、さらに翌日、俺は担任教師と自分の運の悪さを呪うことになる。
「今日は席替えするぞー」
昼食後のLHRで突然発せられたその一言により、クラスが沸いた。ある者は……
「また近くならいいね!」
またある者は……
「白澤さんの隣は誰だろうな……」
「大川さんもいいぞ……あの黒髪にあのスタイルに……」
などと話し合ったりしている。大川でいいならやr……いや、これからこいつには三年間みっちり働いてもらうんだからまだダメだな。あと三年待ってくれ……そしたら煮るなり焼くなり好きにしてくれていいから……
……さて、そろそろ運命を決めるクジを引こう。神様頼む! あいつと席を離してくれ……!!
──────結論を言おう。練太郎は安定の俺の後ろ。(実は先生がわざとそこに配置してる)前と左斜め前、そして左斜め後ろは知らない奴。通路を挟んで左隣は白澤さんだ。 ……そこまではまだ良かったが、一番の問題は…………通路を挟んで右隣、つまり白澤さんと対照的な位置にいるのが"あいつ”だと言うことだ。
「よろしくね♡」
と、右から幸せオーラ全開の声。
「しばらくの間よろしくね」
と、左からどこか緊張しているかのような声。
「…………」
……そして微かな寝息が後ろから。この短時間でよく寝れんなお前……ここまで来るともはや尊敬の域に達してるぞ……
それはさておき、男子からの視線が俺に集中している気がするんですが気のせいだよね?
「まさに"両手に花”だな……」
「羨ましー! どんな確率だよ一体!」
「頼むから代わってくれ!」
などと教室の色んな所から聞こえる。いや俺の耳良すぎかよ。
まぁでも思ったよりは酷い反応じゃないな。うん。図書室の時は近づきすぎたからダメだったのか……?
そして担任、せめてクジを引き直させてくれ。右のこいつを別クラスに移すだけでいいから……
「…………それじゃあ周りの人達と話してていいぞー」
おい担任、余った時間を潰す方法が思いつかなかっただけだろ……考え込んでたのバレバレだぞ……
「……黒岩くん……は寝てるね」
「思いっきり寝てるな」
「起こした方がいいの?」
「こいつを起こすにはちょっとしたコツがある。あとしばらく寝ぼけて少しするとまた寝るから基本こいつは寝かしておいた方がいい」
「睡眠時間大丈夫なのかな……」
「あぁ、こいつはいつも徹夜してるぞ。ちょっと仮眠することはあるけど基本オールしてる」
「うわぁ……」
「でも何故かテストの成績はいいんだよこいつ」
「疑いたくはないけどカンニングとかは……」
「してない。試しに試験官と二人だけの部屋にして抜き打ちテストさせたこともあるらしいけど、余裕の満点とったから先生が『疑ってすまなかった』って謝罪してたし」
「……どうなってるの?」
「俺もそう思う。はぁ……これが本当の"天才”って奴なんじゃないの?」
「……もうそれ以外に表現しようがないわね……」
「……ねぇ、博幸……」
なんかいきなりあいつが話しかけてきた。無視したいなぁ……でも無視すると後が怖いしなぁ……
「……何だよ」
「テストでいい点とれたの」
そう言って返却された成績表を見せてくる。中には100点のものもあった。確かに凄いが、俺には関係ない。
「はいはいすごいすごーい(棒)」
「……それだけ?」
「もう終わったことだろ……あんまテストの話はしたくないんだよ」
「……分かった」
……いつもはしつこいのに何か今回はすんなりと諦めたな……こいつも成長したんだなぁ……多分。何故テストの話をしたくないかって? 今回はいつもよりだいぶ成績が良かったが、俺は基本的に勉強が嫌いだ。てことであまり話題にしたくない。それだけだ。
──────そんなこんなで次の授業の時間になったわけだが……前回寝てたからこの問題のやり方が分からん! 諦めて寝よっかなぁ……
「隣の人どうしで答え合わせしてていいぞー。ペアの人が分かってなかったら教えてあげてくれ」
ナイス先生! さて、この場合は教室の右から二組ずつ組んでくから俺は白澤さんとペアだな。
「ここの問題解けた?」
「いいや全く。前回寝てたし」
「えぇ……」
「寝不足だったんだよ……」
「まぁそれなら仕方な……くはないけど気をつけてね……先生に見つかったら怒られるから」
「気をつける(大嘘)」
「本当に?」
「もちろん(超大嘘)」
「……まぁいっか。で、どこが分からないの?」
「全部」
「……まず前回の内容から始めよっか」
「……はい」
「ていうか全部解説してたら授業内じゃ終わんないな……ねぇ、今日って暇?」
「多分」
「じゃあ放課後に私の家来てもらっていい? ここから徒歩で行けるとこだから」
「じゃあ行くわ」
……って……ん!? 今俺白澤さんの家に招待された!? 落ち着けー……向こうは勉強の為に呼んだ……いや、呼んでくれたんだからそういう変な解釈はすんなって全く……
──────で、緊張のせいで珍しく真面目に聞くつもりだった七限の授業の内容一つも覚えてないんですがどうしてくれるんですか白澤さん……
「さ、入って」
「お邪魔しまーす」
……彼女の家の外見は……なんと言うか……こう……お洒落な洋風の家だった。内装も何だかお洒落で、まるで外国の家をそのまま日本に持ってきたような感じだった。ちなみに米国とかでは靴を脱がずに土足のまま家に入る習慣があるようだが、そこはちゃんとアジア式だった。
「ところでご両親は?」
「お父さんは仕事で、確かお母さんはママ友と一緒にどこか行ってる」
「なるほど……」
……ってちょっと待て! てことはあれ? 俺白澤さんと二人きりなの!? えっ……今日一人なの分かってて呼んだの!? 警戒心薄すぎやしませんかね……俺一応男なんだけどなぁ……
……ま、男として見てないからこういうことも平気で出来るんだろうな……それに日本人はシャイで、外国人では友達同士のスキンシップ程度は当たり前らしいしな……うん。白澤さんも名字と外見からして恐らくハーフだろうから大胆な感じに育ったとしても不思議はない。てことで変に勘違いすんな馬鹿! 彼女とは"友達”になったばかりだろ……
「じゃ、早く始めよっか」
「お願いします」
「まず前回出てきたこの公式を覚えて」
「……文字がいっぱいだな」
「問題文ごとにその文字の部分にそれぞれ代入していけば解けるから。使ってたらそのうち覚えるし……」
「えーっと……y=a(x-p)+qが……」
──────そんなこんなで二時間程経った。途中彼女が近かった気もするが、心を無にして数式を解きまくった。危ない危ない……
「そろそろ帰らなきゃいけないわね……」
「白澤さんのおかげで理解できたから大丈夫。今日はありがとう」
「じゃあまた明日」
「じゃーなー」
……あー……心臓バクバクなり過ぎて死ぬかと思った場面が多々あったけどこれから大丈夫かなぁ……
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