第九話② まだまだ変わらない幼馴染(涼香視点)
一日三つ上げたのなんて初めてだな……その分クオリティ落ちてるかもなんで、どうかお許しください……
……私は、博幸が好き。 その一言が言えたらどんなに楽か……でも、言えない。今、私は博幸に嫌われているから。二人きりの時に誘惑でもすれば責任を取らせる形で付き合えるんだろうけど、出来ればそんな手段は使いたくない。過去のことを許して貰って、そのうえで博幸に好きって伝えたい。そんなの強欲だと思うけど……その為に、何か博幸に出来ることないかな……お弁当を作るのは……彼女面すんなって言われそうだし……朝起こしに行くのは……不法侵入すんなって言われそうだし……夏休みに海に誘うのは……恥ずかしすぎる!!! でも、私が女だって再認識させるのにはいいのかな……今度先生に聞いてみるか……で、結論として何が言いたいかって言うと……誰かこの気まずい状況を何とかする方法を教えて下さい。無言は嫌なんです。何か話題を…………他の女子と話してるのに嫉妬してる風に見せれば行けるか……? いや博幸のこと大好きかよ。大好きだよ♡ よし! 思い立ったが吉日!!
「……何話してたの?」
『いやそれだけじゃ分からないです。てことでさようなら』
待って……! 今のは緊張し過ぎて主語とかが出てこなかっただけだから!!
「白澤さんと休み時間に何を話してたの?」
よし、今度は成功。……鼓動が凄く早くなってる……ていうか今博幸の手を!! 手を掴んじゃってる!!! あわわ……あわわ……おっきい……好き……♡ というか今の私、ゲームとかだったら確実に目がハートになってるよね……
「……最近聞いたことがあるような名前な気がするんだけど、詳しく思い出せない。つーか地味に結構痛いから離してくれ」
あ、力みすぎた……? ……そうだ、小学校の頃から博幸ってこういう性格だった……なかなか人の名前を覚えないのよね……
「とぼけないで! それに離したら逃げるでしょ?」
こんな感じで食いついてればいいのかな……? 興味持ってる感じがしていいかも。
『……何で俺は身に覚えのないことで説教されてるんだろう……そもそも俺がそいつと何を話してたってお前には関係ないだろ。人の話にいちいち首突っ込むなよ』
「……関係あるわよ」
『どうして?』
「そっ……それは………………」
あなたの未来の嫁になりたいからです!!!
だなんて言えるわけもなく……
『黙ってたら分かんないから帰るわ』
私が返答に詰まって博幸から意識が逸れた一瞬の隙をつかれて、私の腕は振り払われた。
「ちょ……待って!」
『……』
「待ってってば!!」
『……うぅ……博幸……!』
──────彼の家に着くまで追いかけたけど、無情にも扉が二人を隔てる。
トボトボと家に帰ってこれから何をしようか考えていたら、博幸の顔が思い浮かんできた。勉強してる時の眠そうな目……ゲームをしてる時の心から楽しそうな笑顔に、寝落ちしちゃった時の優しい寝顔……二つ目と三つ目は小学校の頃だけど……あれ?寝てる時にキスくらいできたんじゃ……ってダメダメダメ!! そういうことは付き合ってから……いや、でも博幸が望んでるならやってあげても……って、また傾きかけてるし……本当にしたがってるのはこっちなのに、こういう妄想ばっかして……あーもう……考えがまとまんない……ってあれ? 今何時? 嘘……もうこんな時間……早くお風呂入って寝なきゃ……
──────目が覚めると、博幸が目の前にいた。
『涼香、お前が好きだ。俺と付き合ってくれ』
……顔を真っ赤に染めて、こちらを真剣な目で見つける彼は、多分世界で一番かっこいい人なんじゃないかと思ってしまうほどだった。いや、確かに博幸は世界で一番かっこいい人だけど……
「え……?」
でも、唐突すぎて、そんな声しか出なかった。少し遅れて胸の中で喜びが爆発して、心臓はまるで壊れちゃいそうだった。
『……聞こえなかったか?』
「……本当に?」
『嘘ついてるように見えるか?』
「ううん。見えない。博幸は昔っから嘘つくのが下手だったから」
『……で、返事は? 恥ずかしいから早くして欲しいんだけど……』
「……はい、喜んで。大好きだよ。博幸♡」
そう言った瞬間、彼の顔が明るくなる。
『……! 涼香!!』
「博幸!!」
そして、二人は抱き合った。
「好き! 好き! 好き好き好き! ずっと大好きだった!!!」
現実では絶対に伝えられないその思いを、どうせならここで好きなだけぶちまけたい。幸せに包まれながら、無限とも思える間、私は彼と抱き合っていた。
──────目が覚めてしまった。無くなった幸せの代わりに、とてつもない喪失感とやるせなさが胸を満たす。
「……あのまま眠り続けても良かったかもな……あ、そしたら博幸がキスで起こしてくれるかな……?」
溢れ出した感情が抑えきれずに、近くにあったぬいぐるみを思わず抱きしめる。
「好き……好き……大好き……」
……ていうか、今更気づいたけど、五時前じゃん……
特にすることもなかったのと、あのままじっとしてたら耐えきれなさそうだったので、いつもより早く家を出る。
──────一人きりの教室。ペンの音だけが小さく響く中、博幸が降臨した。しかし、びっくりしてすぐには反応できなかったので、逃げられてしまった。慌てて教室を飛び出して、彼を捕まえる。
『何逃げてんのよ』
「あーもう……朝から最悪だよ……」
『本人の前で言うことじゃないでしょそれ……』
「帰るか」
『無視しないでよ』
「……」
『ちょっと?』
「……」
『無視……しない……でっ……』
夢との落差が酷すぎて涙が溢れてきた。まぁ私の勝手な妄想だけど……
小学校低学年の頃は、私がこうやって泣いてたら、手を握ってただひたすら近くにいてくれたなぁ……
「……手、握って」
『やだ』
「……前は握ってくれたじゃん」
『知るかよ』
「……今大声で叫んだらどっちが悪くなるんだろうね?」
少々汚いけど、目的の達成の為には仕方ない。まぁそんなことはするつもりなんて微塵もないけど……
「……もうやだ……」
嫌々ながらも博幸が手を握ってくれた。小学校の頃よりも大きくなっていて、暖かくて、手を握って貰っているだけなのに幸せの頂点に達してしまった。
──────やっぱり、この人が心の底から大好きだ。いっその事、このまま抱きついてしまおうかとも考えたけど、リアルでそんなことをしたら気絶してしまう自信があるのでやめておいた。
……せめて、あともう少しだけ、このままで………………
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