第九話 まだまだ変わらない幼馴染
過去編を別のとこに移したんで、そこんとこよろしくお願いします。
……突然この状況を見たら、恐らくあなたはかなり戸惑うだろう。場合によっては、一部の性癖を持つ人に羨ましがられるかもしれない……
俺は今、突然腕を掴まれて後ろ向きに引っ張られたと思ったら、美少女(笑)に何故か鬼の形相で睨まれている。正直言って迫力が凄いのと、普段の可愛い顔とのまさかのギャップで萌え…………るわけねーだろ普通に怖いわ。
掴まれた腕をグイグイ引っ張って離そうとするも、引っ張り返すこいつの力が異常に強いせいで抜け出せない。エリート帰宅部VS運動部とはいえ、女子に負けるのは少し…………いや、かなり悲しかった。筋肉が全然ついていない自分の細腕を恨んだのは多分今回で……何回目だ? いちいち詳しく覚えてないせいで数えきれないな……皆も嫌なことをいつまでも引きずるのはやめようね! 人生楽しいのが一番だから! ……まぁ誰も聞いてないんすけど。脳内でこういうこと言うとなんだか寂しくなるね。
『……何話してたの?』
「いやそれだけじゃ分からないです。てことでさようなら」
そんな感じでサラーっと帰ろうとすると、腕にかかる力が強くなる。
『白澤さんと休み時間に何を話してたの?』
白澤さん……? うーん…………最近どこかでそんな感じの名前を聞いた気がするんだけど、あまり深く関わらないだろうから忘れちゃったな……
「……最近聞いたことがあるような名前な気がするんだけど、詳しく思い出せない。つーか地味に結構痛いから離してくれ」
ちなみに最後のは割とマジだ。さっきから俺の細腕が悲鳴をあげてるんで早めに解放してください(懇願)
『とぼけないで! それに離したら逃げるでしょ?』
「……何で俺は身に覚えのないことで説教されてるんだろう……そもそも俺がそいつと何を話してたってお前には関係ないだろ。人の話にいちいち首突っ込むなよ」
『……関係あるわよ』
「どうして?」
『そっ……それは………………』
なんか知らんけど言葉に詰まってるな……まぁいいや。今のうちに帰るか……
「黙ってたら分かんないから帰るわ」
相手が返答に詰まって俺から意識が逸れた一瞬の隙をついて、彼女の腕を振り払う。
『ちょ……待って!』
後ろから何か聞こえた気がするような……うーん……蚊の羽音かな? そうだ、きっとそうに違いない。(自己暗示)夏はまだまだ先……とも言えないが、気の早い蚊だなぁ……あとひと月ふた月くらい後でやって来なさい。
──────しつこい蚊の羽音を無視して家に帰ったが、鍵を閉めたらインターホンが鳴らされた。それも無視して机に向かう。テスト前の最後の復習にしばらく取り組んでいたら、インターホンの音も聞こえなくなった。そこから先は何故かめちゃくちゃ集中できたので、体力的に限界を迎えるまで勉強に没頭した。7時をしばらく過ぎた頃、お腹が空き過ぎて限界だったので勉強をやめる。
いい感じのものがないか考えていると、久々にラーメンが食べたくなった。水を張った鍋を火にかけながら、ラーメン用の具材がないか冷蔵庫を物色する。幸いメンマとチャーシューともやしが確保出来たので、もやしと麺を鍋に投入。カップ麺は二分くらいで食べると美味しいらしいが、こんな感じの袋麺はどうなんだろう……
悩んだ末、結局いつも通り三分で食べることにした。うん、やっぱ美味しい。
完食したら早めに風呂に入り、とっとと寝て、爽やかな朝を迎える……はずだった。じわじわと迫り来る恐怖に、この時の俺はまだ気付く由もなかった……
──────目が覚めると、俺は学校の廊下を歩いていた。不気味なくらい無音の、まるで俺しかいないような世界だった。人がいないのならば、まずは職員室にでも行って誰かいるか確認するべきだと思い、歩き出したが……
背後からコツンと音が聞こえ、何も聞こえなかった世界が崩壊した。振り返ってみると、そこには"やつ”がいた。
「夢の中までこいつかよ……とっとと起きy……」
その時俺は気づいてしまった。体が石のように固まって動かないことに。
「え? ちょっ……これマジ?」
「……ねぇ、博幸……休み時間、白澤さんと何話してたの?」
……すっかりヤンデレっぽくなってしまったあいつがいた。
「待て! 話せば分かる!」
「問答無用! 撃て!」
「うわあああああああああああぁぁぁ!!」
──────「……ああぁぁぁ!! ……なんだか某首相の最期みたいな夢だったな……寝る前に歴史の勉強なんてするんじゃなかった……」
ともかく無事にいつもの起床時刻の一時間前に起きれた。余裕を持って登校して、学校行ってテストやって寝る。よし、プランは完璧。そうして俺は、いつもよりかなり早く家を出た。
──────こんな早く来れば、確実に一番乗りだろ……と思いながら教室の引き戸を開けてみると、何と言うことでしょう!
最も二人きりになりたくない美少女ランキング一位に輝いたあいつがいるではありませんか。 ……勿論俺は気づかれないようにそっと戸を閉めた。ところがどっこい、三秒後くらいにあいつが飛び出してきた。
『何逃げてんのよ』
「あーもう……朝から最悪だよ……」
『本人の前で言うことじゃないでしょそれ……』
「帰るか」
『無視しないでよ』
「……」
『ちょっと?』
「……」
『無視……しない……でっ……』
なーんか泣き声が聞こえたような気がするんだけど気のせいだよね? …………あーダメだ、これ完全に泣いちゃってるよ……小学校低学年の頃はなんか俺の手を握ってたら泣き止んだけど、今思い出すと普通に恥ずかしいなあれ……
『……手、握って』
「やだ」
『……前は握ってくれたじゃん』
「知るかよ」
『……今大声で叫んだらどっちが悪くなるんだろうね?』
「……もうやだ……」
そんな感じで嫌々奴の手を握る。これ他のやつに見られたら確実に俺が泣かしたと思われるんだよなぁ……中学の頃の二の舞はしたくない。俺、泣いていいよね? 脅迫されてるんだよ? ていうか通報してもいいよね?
──────そんな感じで、俺はせっかく空いた時間を十分くらい無駄にした。 ……なんかあいつの手が小さくなってた気がしたけど気のせいだよね?
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