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「くそっ」
「後退しろ」
「馬鹿やろっ!仲間の動きをもっと見ろ。死ぬぞ」
東の森、ルトアニア王国とルフト王国の境にある森だ。そこで魔物が大量発生した。
騎士団を大量投入してとの討伐だ。先ほどから悲鳴と怒号が飛び交っている。
魔物の突進や魔法の着弾で地面が揺れる。
普段なら安全な場所に待機している私だが今回は現場にいた。みんなの様子を見ながら怪我を負っている騎士や体力の限界が来ている騎士に瞬時に治癒魔法をかけて戦えるようにする為だ。
安全地帯まで運んでいる余裕は今回はなかったのだ。
「っ」
激しい振動に膝を地面につく。私の周囲にいる騎士は魔物と対峙していることに集中しているので誰も私を見ていない。
私は今のうちに回復薬と増幅薬を飲む。
頭がぐわんぐわんしている。指先は長時間氷水に浸けたみたいに冷たい。
「おい、へばっている暇はないぞ」
騎士の誰かが私の腕を引き上げた。
「すみません」
騎士の力を借りて何とか立ち上がる。
「聖女様、治癒魔法も助かるんだが支援魔法も頼む」
「はい」
アニスの魔力量を考えたら断るのは不自然なので受けたが、正直そんな余裕はない。
「っ」
真横を魔物の攻撃を受けた騎士が吹っ飛んできた。
「大丈夫ですか?」
私はすぐに駆け寄り騎士の状態を見る。肋骨が三本折れているが内臓を傷つけてはいない。足と腕が逆サイドに曲がっている。かなりの大怪我だ。治癒魔法がかかるには時間がかかる。これを治癒したらまた薬を飲まないとダメだ。加えて騎士たちの支援なんて無理。どうしよう。でも、何とかしないと。私は今、聖女アニスなんだから。
「アニス、支援はいい。治癒魔法に専念しろ」
ディランの指示は私にとって有難いものだったのですぐに頷き、重傷者に治癒魔法をかける。その間は無防備になるので数人の騎士が私を守るように囲んでくれた。
私は彼を治すことに集中していたのでディランが私に注目していることに気づかなかった。
まずは肋骨の骨折。掌に魔力を集中させる。完治。次に足の骨折、完治。最後に腕の骨折、完治。これで治療は終了した。
たったこれだけなのに魔力が体から抜けて倒れてしまいそうだ。眩暈と頭痛が酷い。私はポケットから最後の薬を取り出す。飲もうとした瞬間腕を掴まれた。掴んだ腕の先にはディランがいた。
見られた。
どうしよう。落ち着いて、これだけの大規模な討伐戦。魔力が足りなくなってもおかしくはない。
「規定量を超えているだろう。これ以上は容認できない」
「!?」
どこから見ていた。飲んだ本数やタイミングまで見られてた?だとしたらまずい。
アニスの魔力量なら摂取するのは討伐戦の中盤以降になる。これは突っ込まれてもなにも返せない。
「そろそろ魔物退治も片付いて来た。ここは森だからわざわざ浄化をして元に戻してやる必要もない。時間をかけてゆっくり瘴気を浄化すればいい」
そう言ってディランは私の手から二つの薬を取り上げた。
「他には?」
混乱と焦りで言葉が出てこなかった私は首を左右に振って、持っていないことを示すしかなかった。
終わった。私は聖女を偽った罪で処刑されるだろう。どうにかこの混乱に乗じて逃げないと。
こんなところで死にたくはない。大丈夫、現場はかなり混乱しているからチャンスはあるはず。今は大人しく待とう。




