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ブランジァンと話した日を境に物がよくなくなるようになった。
カバン、筆記用具、教科書など。
発見される場所は学校の敷地内にある噴水の中やごみ箱の中。
リュウやディランは基本的には周囲の生徒が直接的な攻撃に出ない限りは動かない。
物の紛失程度なら友人同士の問題。友人同士で解決をするのが筋だからだ。
だけど、彼らは私のことを疑っている。私が偽物のアニスではないのかと。だから今回始まった苛めを私がどう対処するのか見るつもりのようだ。
どうしよう。どう、対処しよう。
犯人の見当はついている。
私の取り巻きだ。その筆頭はルルシア。証拠はない。でも現行犯逮捕は難しくはない。待ち伏せをすればいいだけ。都合の良いことに私には護衛がついているから目撃者は私一人だけということにはならない。
水に浸された教科書は乾かして使えるようにはなったけどぐしゃぐしゃだ。本物のアニスなら買い替えるだろう。アニスでなくても貴族の令嬢ならそうする。
令嬢は金銭を持たないからそうする場合は父親にお願いをしなければならない。私の場合は公爵だ。
怖くてできていない。
それが原因で余計に疑われているのは分かっている。でも私はアニスじゃない。
彼らが愛したアニスでない以上、私がアニスを名乗っているからって同じ待遇は望めない。そもそも本物のアニスなら虐められることはなかった。
私はボロボロのカバンを見つめる。ゴミ箱や池に捨てられ、たぶん踏まれたりもしたのだろう。
そう言えばあの人たちはカバンがボロボロになっていることにも気づかなかったな。興味がないのだろう。
「随分とボロボロね」
びくりと体が少しだけ跳ねた。
気配もなく背後に立たれ、声をかけられたからだ。
「ブランジァン先輩」
ブランジァンは名前を呼ばれるとにっこりと優し気な笑みを私に向けた。
「何か御用ですか?」
「少しあなたのことが気になって」
「私のこと、ですか?」
アニスについて探りに来たのだろうか。
「そんなに警戒しないで。最近、お友達と上手くいっていないみたいだったから気になって」
ああ、なんだ。そっちのことか。
私が本物かどうか確かめに来たわけではないのね。良かった。
「彼女たちはお友達なんかじゃありませんよ」
「あら、そうなの。いつも一緒にいるのを見かけていたからてっきり」
つまり、いつもアニスのことを気にしていたということか。
警戒を深めないと。
彼女は友好的な笑みを浮かべてくる。初めて会った食堂の時も。だけど、何を考えているか分からない。友好的な笑みの下でどんな凶器を隠し持っているか全く見えないのだ。
そういう人間が一番厄介だ。
「『聖女』につられてのこのこついて来ただけの連中です。私が自分たちの思い通りにいかなくなったのが気に食わないみたいですね。彼女たちにとっても私は便利な道具だったみたいなのでおあいこですね」
「‥…そうね」
ブランジァンは私のボロボロのカバンを優しい手つきで撫でる。
「これ、新しいのに変えたら」
「そうですね、そのうち」




