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「そうですね。ただ馬鹿らしくなっただけですよ」
「どういう意味かしら?」
「聖女だってだけで特別扱いをされます。それは裏を返せば親身になってくれる相手がいないということです。だから寂しくてわざと周囲を困らせるようなことをしました。両親、お友達、誰でもいいので私を叱ってくれると思って」
私はそこで寂し気に笑って見せる。
「でも結果はご存知ですよね。誰もが容認しました。ならば続ける意味はありませんから」
「そうですね」
取り巻きたちは心当たりがあるようで視線をテーブルに向けている。
「それであなたは小説や舞台に出てくる悪役令嬢のような振る舞いを辞めたってことね。では、そちらが素なのかしら?」
油断なく私を見るブランジァン。疑いがまだ晴れたわけではない。
「私の素に関してはご想像にお任せします」
「用心深いのね。もっと短絡的な思考の持ち主かと思ったわ」
そう言ってブランジァンは用が済んだのか去って行った。彼女がいなくなると取り巻き連中の不満が爆発した。
「随分と失礼な方ですね」
「どうしてアニス様は反論なされなかったのですか」
「そうですよ、コケにされたんですよ」
彼女たちは私に何か行動を起こせと迫って来る。王族相手に。
「どうして私があなた達に命令されないといけないの?」
私が不機嫌そうに言うと「しまった!」という顔をみんなが一斉にした。ちょっと面白い。
「命令だなんて、私はただアニス様がコケにされたのが許せないだけですよ」
彼女たちは「私の為」という言動を崩そうとしない。自分に火の粉が飛ばないように予防策を張りながら自分たちの要求を通そうとしている。
「私はコケにされていないわ。寧ろされたのはあなた方でしょう。それが許せないと言うのなら私に頼らず自分たちだけで何とかしなさい。私を巻きこまないで」
私はこの話は終わりだとばかりに席を立った。
ブランジァンの言う通り、潮時だ。彼女たちにずっと付き合う必要はないだろう。ああいう連中は百害あって一利なしだ。
私がここまで言ったんだ。離れていく人間もいるだろう。
「何よ、あれ。偉そうに」
「ちょっとドラゴン退治で活躍したからって調子に乗ってるんでしょう」
「一人じゃ何もできないくせに」
「アニス様って本当にむかつきますわよね」
と、私の取り巻き連中が話していた。私はそれを死角に隠れて聞いていた。
きっとこれが初めてではないだろう。
彼女たちの意に沿おうが沿うまいがアニスはずっと彼女たちに陰口を叩かれていたと思う。それをアニスが知っていたかは定かではないけど。




