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上橋菜穂子「鹿の王」がコロナウイルスに苦しむ私たちにもたらす光と警告

作者: 木谷日向子

 この本を最初に読んだのは、もう5年前になるだろうか。子供の頃から上橋先生の本が大好きで、本を初めて自分のお小遣いで購入したのも彼女の作品だった。

 この話は、狼がもたらす謎の感染症を巡る壮大な歴史ファンタジーである。主人公は、奴隷として働いていた中、感染症を生き延び、唯一といっていいほどの免疫を身に着ける壮年の男・ヴァンだ。ヴァンは感染して命を落とすことは無かったが、その代わりに体が動物と同じ体質になってしまうという不思議な力を身に着ける。

 ヴァンが生き延びた奴隷窟の中で、もう一人同じように生き延びた者がいる。それはユナという名の幼い少女だ。舌足らずであどけないユナは、ヴァンの体質は身に着けないが、代わりに動物と同じような感性・視覚を身に着ける。(物を見た時に他の人間が感じない光を感じたりといった具合である)

 この2人を縦軸に、横軸ではホッサルという若い医術師が主人公となり、感染症の解明に走る様子が描かれている。

 私はこの物語を読んだ当初は大学生で、感染症のことを聞いても絵空事にしか考えられなかった。だが、再び本書を読み直した現在、もはや物語上で起こっている事件が現実味を帯びて心に迫ってくる感覚に逃げられなくなり、恐ろしくも読書を辞めることができないほど、物語としての質に引き込まれ、飲み込まれた。

 そしてより身に迫ったのは、登場人物たちが語る言葉である。

 感染症で亡くなる人と亡くならない人にある違いは何なのか。何故自分だけが生き延びたのか。

 感染症に侵された世界で生きる人物たちの問いが、現実味を帯びて自分の頭の中のワードに入れられていく感覚に陥った。

 現在、世界中で多くの人がコロナウィルスで亡くなっている中、幸いにも私と私の親族、親友たちは未だ感染はしていない。その現実と人物たちの考えている悩みがリンクして、深く心に突き刺さった。

 生と死を巡る物語の中で、ホッサルの恋人のミラルが言った台詞がある。

「私たちはみな、ただひとつの個性なんです。この身体もこの顔も、この心も、一回だけ、この世に現れて、やがて消えていくものなんですよ」

 この言葉を胸に、今日もコロナという死と隣り合わせの世界を生きていく。

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