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白銀の龍の背に乗って  作者: 三木ゆう
第一章 転生者がドラゴンの背に乗って
37/42

第36話 ラウンド16

「9番、ライアン・メッズィーロとマックイーン。 ブルーガーファームからの出場です」


 エアリアルリングにおいて、一対一の場合は先攻が有利とされている。

 それは、後攻は常に対戦相手のタイムを切るというプレッシャーがあるからだ。

 先攻は速いタイムを出して後攻にプレッシャーを掛けようという攻めの姿勢、ポジティブなチャレンジができる。

 しかし後攻は、先攻のタイムが速くても遅くても、タイムを切らなければ負けるというネガティブなチャレンジとなってしまう。

 先攻と後攻を入れ替えて、違うコースで二戦分戦えばいいのにとレージは思うが、結局別の問題があるのだろう。


「うまいな、あいつ」


 リングを飛抜したライアンを眺めながらレージは呟いた。

 高い身長で、ドラゴンも少し大きめなため、飛抜がダイナミックだ。

 かと言って、基本もしっかりできている。

 しかしインメルマンターンは想定よりも大きく回ってしまったようで、多少ロスしてしまっていた。

 確かに、適切な大きさの半円を描くのは難しそうだ。

 全体的にはまとまっており、タイム減点もなく82秒という結果だった。

 かなりの強敵だ。

 さすが予選順位5位で通過なだけはある。

 ちなみに、予選でタイム減点がなかったのは六名のみ。

 そのうちのひとりなのだから、予選の実力がそのまま反映されるならラウンド8を突破し得るだろう。

 だが、とレージは思う。

 決勝トーナメントは多かれ少なかれ駆け引きがある。

 相手よりも1秒、いや0.1秒でも速ければいいわけで、実力云々がそのまま出るわけじゃない。


「って言っても、後は俺次第か……」


 もはや相手へのプレッシャーはなく、相手からのプレッシャーに打ち勝つのみだ。


「10番、レージ・ミナカミとシャルロッテ。ヴィンセントドラゴンファームからの出場です」

「いこうか、ロッテ!」


 ロッテに扶助を行い、勢いよく飛び出した。


「がんばれー!」


 テルの声が遠く聞こえてくる。

 ファーストリングに向かう前に頭を整理する。

 そして、いつものように空を見上げ、大きく息を吐き出した。


「よし、がんばろっ!」


 集中力が増す。全身が引き締まり、手綱を握る指先の細部まで神経が通る感覚がする。

 そして大きく旋回し、ファーストリングとは逆方向へ飛ぶ。


「ロッテ、一回やっとこう」


 そう言うと、レージは右足に力を入れてロッテをひっくり返すように扶助を行った。

 ロッテもそれに答える。

 すると、レージとロッテは前進しながら横向きにぐるっと一周した。

 これがロールだ。

 遠心力でふっ飛ばされそうになりつつ、レージはしっかりと脚でロッテを挟み込んだ。


「ははっ、できるもんだな」


 手応えを掴み、旋回してファーストリングへ向かう。

 あとはインメルマンターンのためのハーフループだ。

 こればっかりはぶっつけ本番になるが、なんとなく心配はしていない。

 ファーストリングは少し上向き角度がついた形になっている。

 上向きのリングは重力に逆らうため、推進に力が必要だ。

 ロッテも目一杯翼を打ち、前進していく。

 そして、綺麗に飛抜した。

 次のセカンドリングはそのまま上昇してから大きく旋回し、少し下降したところにある。

 リングの向きもそうだし、サードリングがその勢いのままいける位置にあるため、こういったアプローチとなる。

 セカンドリングを飛抜し、勢いをつけてサードリングを飛抜した。

 そして小回りしてフォースリングを目指す。

 いよいよ次のリングを超えたらインメルマンターンだ。

 フォースリングへ直線を取ってアプローチし、うまく飛抜できた。


「昇るぞ!」


 そのまま速度を落とさずに上昇する弧を描く。

 ロッテに抑えつけられるような遠心力を感じ、どんどん逆さまになっていく。

 円の四分の一を過ぎたところから下に掛かる重力と上に掛かる遠心力に訳わからない感覚になる。

 ただただ振り落とされないように脚でしっかりとロッテを挟み込み、どういう状況にも耐えられるようにする。

 そして円の頂点に達しようとするところで右足で強めの扶助を送り、ハーフロールをした。

 ぐるんっと回転すると平衡感覚が変に感じた。

 今は正常な状態だ。

 そう脳が判断したと同時に、視界にはフィフスリングが見える。

 円の半径は完璧だったようで、すぐに飛抜体勢に入る。


「よしっ!」


 無駄なく飛抜し、シックスリングへ向かうために左に旋回しつつ、高度を落とす。

 ここからはスピードに乗った状態で連続的にリングを飛抜することになる。

 まずシックスリングを抜け、セブンスリングはダブルリングとなるのでまっすぐ抜ける。

 そして降下しつつ右に少し旋回しエイスリングを抜けた。

 ナインスリングは直線的に配置されているが、リングに上昇方面へ角度がついている。

 このため、いったん下方に角度がついているエイスリングを抜けたら少しそのまま少し降下し、くの字に上昇していく。

 かなり地面に近づくが、ここで恐れてスピードを落としては勝てない。

 レージとロッテはトップスピードを維持したまま下降し、勢いよく上昇していった。


「ラスト!」


 ナインスリングを飛抜してファイナルリングを見据える。

 上昇しつつ右に大きく旋回して向かう。

 タイムはどうか。

 ここまでコース取りに関してはミスというミスもなく、無駄という無駄もなく来れたはずだ。

 あとは単純なドラゴンの性能差になる。

 レージはロッテを信じて、ファイナルリングを飛抜した。


「ただいまのレージ・ミナカミとシャルロッテの記録は……」


 ファイナルリングを抜けて地面へゆっくり下降していきながら、結果に耳を傾ける。

 やれることはやった。

 レージは手綱を強く握りしめた。


「78秒です。この結果、10番レージ・ミナカミとシャルロッテがラウンド8進出となります」

「よっし! やったなロッテ!!」

「くぃーん!」


 地面に降りて、よくロッテを撫でてあげる。


「レージ! やったね!」

「うん! ありがとう!」


 テルがレージたちに笑顔で駆け寄った。

 そして、ライアンがバツの悪い顔でドラゴンを引いて歩いてきた。


「……やるじゃねぇかよ。あのインメルマンターンはうまかったぜ」

「……ありがとう。ライアンも、ダイナミックな飛抜で迫力あったよ」


 相手を認める。

 それができるんだからライアンだって根っから悪い奴じゃないんだろう。


「でも、リゼルさんには敵わないからな!」


 捨て台詞を吐いてライアンは踵を返した。

 リゼルのタイムは73秒。有言実行の一位通過から、ラウンド16でもトップタイムだ。

 確かにすごい。

 このコースであと5秒縮めるとなったら、別のコース取りを考えるか、そもそものスピードを上げるしかない。


「もう、男の子ってどうしてこうなの?」


 やれやれとテルは首を振り、改めてレージを見据えた。


「レージ、本当にすごいよ! ドラゴンに乗り始めてまだ数ヶ月でここまでくるって本当にすごい! でもね――」


 テルはロッテに視線を移す。


「ロッテちゃんがそれにも増してすごすぎるよ! 教えたことはもちろん、教えてないことも知ってるかのように次々にこなすんだもん。ちょっと異次元だよ」

「くぃん」


 なんとなくロッテがドヤ顔しているように感じるのは気のせいじゃないだろう。

 これにはレージも全肯定だ。


「本当にロッテすごいな!」


 改めて撫でるとロッテは嬉しそうに喉を鳴らした。

 インメルマンターンは確かにうまくいった。

 でも、レージの中では円の大きさをイメージしきれていない部分があったのは確かだ。

 あれだけ綺麗に弧を描き、どんぴしゃの大きさの半円にできたのはロッテの力が大きいだろう。

 次に向かうところ、そこでどういったテクニックを使うか、全てわかっているような……。

 まさかね。


「次も頼むぞ!」

「くぃーん!」


 ロッテは元気良く鳴き、翼をばさばさと動かした。

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