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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第捌章 第四幕
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第捌章 第四幕 9P

全員が、まだ中に未練を残しているかのように必死で身振り手振りの合図を送って来たが、首を横に振り、梯子まで人質たちを引き連れて戻ると当初の予定通り一人ずつ降ろして行く。今はもう無理だ。これだけの人数を逃がすのが精一杯なのだ。無理は出来ない。


最初の一人は男。下の警備の為だ。腰の剣を持たせると全て分かったと男はするすると下へ降りて行き、そのまま、梯子下に留まり、他の者降りて来るようにと合図を出す。先ずは年寄りと女からだ。幸い、小さな子供は居らず、体を動かすに苦労する大年寄りもいなかった。特に問題もなく、全員が梯子を降りた。全てが完了したことを確認したルーは一番最後に梯子を降りた。


体力や精神的にかなりの疲労が見える人質には悪いがこれからもう少し頑張って貰わなければいけない。一番先頭をルーが陣取って広場までの道を引き返す。


少しでも早く戦闘区域を逃れなければならない。十分に距離を取ってから先の話を聞くつもりではあるもルーは薄々、何があったのか、勘づいてはいた。


一先ず、盗賊団の敷いた境界線まで来るとほっと一息吐こうと足の進みを緩める。


「救出が大変、遅くなって済みません。これでも急いで来たんだ」


ルーは此処まで来れば、大丈夫だろうと後ろを振り向きながら出来るだけ穏やかな声色で口を開いた。今の格好で刺激をさせないようにと言うのは無理な話だが。段々と落ち着きを取り戻して来た何人かは気付いている。だから何も言わないのだ。


「……分かってる。四人連れて行かれているんだろ? パッド爺とムーが外に連れて行かれて確か、ルージュとヴェールがいたって話だけど居なかった。まだ、終わっていないんだよね」


「済まない―――― ルー、お前がどれだけ苦労して来たのか分からなかった……俺たちを逃がすので本当に手一杯だったんだな。そうだ、その通り……四人残っている」


苦々しげな顔で少し頬のこけている男が言う。二人を前に道を歩いて来たから。何よりも先頭が一番、危険なのだ。


「パッド爺さんとムーは別働隊がどうにかするから安心してくれて良い。でもルージュとヴェールはどうにもなあ……まあ、最後の人質だから簡単に殺すことはないと思う。まだ、希望はあるんだ。それにまだ、僕もこれから戻るし」


「お前っ! まだ、行くってのか? 無理はするな。これ以上はその別働隊ってのに任せとけって! 血まみれじゃねーかっ」


皆が一様に頷き、同意する。ルーの惨状を見れば、皆同じ考えを持つのは当然だろう。しかし、幸いにもまだ、外傷は負っていないのだから動ける戦力としては申し分ない。人手が足りないのだから。


「生憎、これは僕の血じゃあないからね。怪我もないし、二人も待っているだろうし――――僕がいないと駄目なんだよ。一緒にやってる仲間はダメダメだからねー」


肩を竦めて含み笑いをしながらルーは前を向いたまま、歩き続けた。


「絶対に行かないといけないかね? ルー坊や、あんたの年頃なんてそんなにいない。あんたは、これからいっぱいやることがあるんだ。こんな所で死なれちゃ困っちまうよ」


その背中の覚悟を見た壮年の女性が目に強い光を持ち、寒さに震えながらもしっかりとした声で引き止めようと説得する。


「ソル婆ちゃん、まだノアさんやレザンさんの所に居候してるランディが最前線で頑張っているんだ。だからね? 僕も行かないと。今、あの二人は命懸けで頑張ってる。皆を助けようとね? そんな二人を見捨てて何て置けないよ」


「ふっ、二人? なんだい? それじゃあ、あんたも含めて若造三人でやっているのかい!」


目を丸くして悲鳴に近い声を上げる壮年の女性。あまりにも突拍子もない言葉に驚く一同。少なくとも何人かの仲間がいるかと思えば、たった三人。


「仕方ないさあ―――― 皆、婆ちゃん達を助けたくても下手に動けなくて……でも僕たちはこのまんまじゃあ、いけないからねってことで勝手にやってるんだ。下手に大人数でやっても勘付かれるし。で、今の所は少なくとも上手く行ってる。だけど、これは最後まで完璧にしないと成功とは呼べないからね。だからまだまだやらなくちゃ」


頭巾をまた被り直しながらルーは言う。既に真っ赤に染まった手。もう止まることは出来ない。


「それじゃあ、僕は此処で。皆はこのまま、広場を目指すんだ。もう皆気付き始めて蜂の巣を突いたような感じになってるだろうから安心させてあげてよ。温かいスープでも作って貰ってゆっくりするんだ。その間に僕たちが頑張って朗報を持って来るからさ」


振り返ったルー。真っ黒な洞穴のようになった頭巾の下へ隠れた顔は見えない。しかし、譲れない覚悟を感じさせる声は変わらない。その後は何も言わずに元来た道へ戻って行く。人質の六人はその背中を見送ることしか出来なかった。


「待っててくれ、今行くからね。二人共っ!」


                    *


少し時間を遡り、ルーが人質と逃走をしている最中。ランディたちは、着々とアジトへ歩を進めていた。敵を引き付ける役名は大変だ。この通り、相手のテンポに合わせて行動するのだからどうにももどかしい。我慢強さが試されるのだ。


勿論、ランディの後ろにはノアが控えている。


今、考えうる限りの万全な布陣だ。だが、敵も今度は対策を考えて来ていることだろう。


油断は禁物。次の手を読んで適切な対策を取らねばなるまい。勿論、ランディは抜かりない。


「そろそろ、第二陣の登場をお願いしたい所だけれども……それよりもルーは上手くやっているかな? そっちの方が気がかりだ――――」


色々と頭を悩ませることばかりでちっとも良いことがない。まあ、それでも追い詰められて手立てがなく、ジリ貧になって進退を考えさせられるよりかはまだ大分マシである。武器の用意も万全。一応、剣を一本だけ盗賊から取って来た。出来る限り、自分の剣は使いたくない。武器は、消耗品だ。余裕があるならば、温存。勿論、危険があれば惜しみなく物資を使うことも辞さない。


温存に気を取られて足元を掬われては仕方がないからだ。状況を整理しながら大きな盤に見立ててコマを進めるがごとく、今後の展開を考えていた。そんなランディが通りの真ん中をぶらぶらと目立つように歩いているとまたもや、忙しない足音が聞こえて来た。


「これが終われば、とっても楽になる……」


遠くに見える敵を見据えながら呟くランディ。肩を回したり、首を回したり疲労で凝り固まった体を解し、先頭の準備を開始。段々と近づいて見える盗賊の中に二人、町民の姿が見えた。


「何か、考えている通りに進んで怖いくらいだ」


さてさてどうしたものかと、ランディは頭の中で考え始める。


どう動くべきか。


敵はきちんと効果的な手を打って来た。二手、三手先のことも読んで来るだろう。特にノアだ。


ノアは敵にとって未知数。ならば、早めに撃ち取っておきたいだろう。その対策も勿論、取っている。ノアに対して当面の心配はする必要がない。


だからこそ、目の前の人質に対して尽力することが最優先の課題だ。剣を下段に構えながら何時でも攻勢に転じられるように体勢を整える。決して引いてはならない。相手に心の隙を気取られると、利用されるのだ。じりじりと右足を前に出し、身を低く、剣に右手を添える。


接敵には最適の条件が整った。人質を含めて七人ほどが目の前に揃う。人質は二人、薄く日焼けした若い娘と、年老いた老人。体力を相当に消耗しているのか、元気がなく、布で口を塞がれていて、手首を後ろに縛られて盾になるように立たされている。陣形は槍を真っ直ぐにランディへ構えた前衛が三人その後ろに二人が人質にナイフを突き付けている形だ。相対する集団に、デカレの姿は見えない。まだ、表舞台には出るつもりがないらしい。


「仕方ない、無理にでも出て来て貰うか…………」

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