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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第捌章 第四幕
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第捌章 第四幕 7P

「敵の数は二人……武器は剣だけか? 銃声を聞いたのだが?」


「けっ、剣だけじゃない! 銃もだ。何処からか分からないけど、うっ撃って来た。二人、銃でやられた―――― 精度は凄かった。だけど、銃よりも剣を持っていた奴の方もやばかった。気付いたら一人、二人血まみれで倒れてて、どんどんどんどん…………気付いたら、きっ、気付いたら。くそっ! 俺は何も、何も出来なかったんだ」


「いや、お前だけでも帰って来て本当に良かった。お前が帰って来なければ、もっと無駄死にするものが出て来たかもしれないのだからな」


全員が顔を伏せて亡き者になってしまった仲間へ思いを馳せる。示し合わせたように少しの間、黙祷を捧げる。しかし、悲しんでばかりでは話が進まない。もう戦いは始まっているのだ。


「よし、悲しむのは終わりだ。前へ進もう―― それで主戦力は剣士が一人で隠れている射撃手が一人と言うことは分かった」


「もしかすると、剣士は例の…………」


Aが緊張を含んだ声でとある可能性を思い浮かべた。


「うむ、そうだろうな。だが、今は主犯格の話をしている暇ではない」


一対多の戦闘の中でも動じず、上手く立ち回り、敵を翻弄する。とても効果的な戦法だ。嫌でも特定の人物を思い浮かばせる戦果。これだけのこと、誰が出来るだろうか。戦い慣れしていなければ、出来る事ではない。少なくとも町民の中で派手に出来る者はいない。


「敵は此方に向かって来ているんだな?」


「こっちに来てる。はっ、早く何とかしないと皆、やられる!」


唐突にデカレへ首元へ掴みかかるZ。デカレは、ゆっくりとZの手を振り解いた。


「分かったから落ち着け。よし、これから段取りを伝える、聞いてくれ」


全てを悟ったとデカレが立ち上がり宣言する。


「了解しました、D」


「……落とし前はきっちりつけていこーぜ!」


腕を組みながら唸るような苦しい声でAとHが呼応する。


「先ずは、鎮圧だ。そうだな、二人ほど人質を連れて行ってく。そうすれば、楽になるだろう。人員は七人。人質を連れながら敵に正面から接近。銃撃に警戒しながら敵の捕縛又は、殺害が任務だ。人質は場合によって殺す。兎に角、煩い蠅を黙らせろ。他二名は策敵を頼む、別働隊がいるかもしれない。大凡、見て回ったら合流だ」


名もなき盗賊団にとってランディ達がワザと取り逃した歩哨からの情報は有益であった。だが、ランディも馬鹿ではない。何故一人取り逃がしたかと言えば、それなりの理由がある。一つ目は、打開策をチラつかせ、敵に比較的安全な反攻作戦を考えさせ、その作戦を壊し、少しずつ戦力を削って行くこと。二つ目は、短期決戦に持ち込む為。どんどん戦力を削って行き、敵の選択肢を失わせる。


名もなき盗賊団も長期的にこの町で足止めさせられることは望んでいない。何故なら憲兵隊や王国軍からの応援が来るからだ。当然ながら少しでも多くの人質を助けるのならば、ランディ達にとっても短期決戦の方が良い。全ては、引き返せないほどの罠に嵌り込ませる為の布石。勿論、ハイリスク、ハイリターンな賭けだ。


「よし、なら俺が出る。後はR、U、W、L、K、Yだな。此処に残すべき戦力を考えての話しだが……Dよ、問題ないか?」


「B、行ってくれるか? 私が出ようと思っていたのだけれども――――」


「いや、総指揮でお前は残るべきだ。お前が倒れたら計画が潰れる。そうなったら俺たちは全滅だ。それだけは避けねばなるまい。だから俺に任せろ。お前達もそれで良いな?」


「異論なし」などと、六つの声が同意する。


「……武運を祈る。これから先は個々の判断で行動してくれ。もし勝ち目がなければ、直ぐにアジトへ戻ること。深追いをするな、くれぐれも無理はしないように」


デカレは、あまり的確な指示は出さずにあくまでも自由裁量で任せる。下手に細かな優先順位を設けると、その指示が足枷となって咄嗟の判断に迷って致命的なミスが起きるからだ。


外套を翻しながら七人は無言で首を首肯し、アジトを後にする。武装を用意し、人質も口、腕を布で縛って同行させる準備を整えた。今回は、槍を中心に距離を取る。剣の方は、取り回しや使い勝手に長けている為、歩哨の装備としては良い。けれども今は敵が来ることが想定で来ている。ならば、槍などのリーチが長い物を使い、集団の力押しで行く方が効果的であるからだ。


「……………」


仲間を見送った後、顎に指をかけながら考え事をするデカレ。これだけではまだ、足りないとデカレは考えている。デカレもただの馬鹿ではない。ランディの掌で踊るだけでは終わらないのだ。最後まで足掻き続け、例え、一人になったとしても最後まで戦い続ける。


「さてと私たちはこれから何をしましょうか」


「まあ、私たちは此処で様子見ですね」


「ああ、そうしてくれ。私は次の一手を考える。Z、もっと詳しく話を聞きたい。来てくれ。それとAには一つ頼みたいことがある」


「聞きましょう、何をすれば?」


仮面の下でにやりと笑うデカレは口を開いた。名もなき盗賊団もただでは終わらない。


「何、簡単なことだ――――」


                *


「外に出た人員は七人。人質を二人が同行してる。あれは…………パット爺さんとムーか。面白い組み合わせだ」


暫くの間、外から建物を眺めていたルーは建物の玄関で敵の動きを見た。


特に窓の下の見張りを散らす案がなく、何か動きがあるまで点々と動き、風に吹かれながら待つことにした途端にこれだ。世の中何が起こるか、本当に分からない。


「あの二人は、ランディとノアさんに任せるとして……」


これで中の人質は八人。アジトの中の人員も減った。好機だ。だが、軒先の見張りは全く、動くことがない。多分、予想されるのが見張りとして定時の連絡報告や緊急時以外は動かないのだろう。既に一度、様子が可笑しいことは分かっていて報告は終わっている筈。見張り中、見聞きしたことをアジトへ報告いることだろう。何よりも戦いは速さを尊ぶ。


今の動きについても軒先の見張りに何か報告が来ることだろう。彼らにも何か、追加の報告がなされるに違いない。何か、まだあると睨んだルーは、焦らずに機会を待つ。


「はあ……はあ……はあ……」


今は、例の歩哨がいる町側の側面をルーは監視している。見張りと建物の表側が左側にある。建物の影から悴む手に呼気を当てて温めている以外は全く、動かない。梯子は壁に立てかけている。先ずは、制圧が先だ。ルーの段取りとしては、歩哨がどちらともいなくなるか、それか片方が居なくなるまで待ち、一気に攻める。その後、軒に梯子を掛けて窓まで行き、そこから人質を解放する算段だ。


しかし何か、きっかけを作ろうにも下手に動けば、騒ぎが起きる。今は、目立つことは控えるべきだ。ぐっと堪えることも時には、必要。何のためにランディたちデコイとしての役割を買って出ているかを考えれば、急いて安易な行動には移れない。


舞台で役を演じるには、物語上での己の役割をきちんと理解する必要がある。


物語は何も登場湯人物全てがアクティブに動かねばならないことはない。時には、状況に流されることも必要だ。全てが上手く行くように動くのではなく、最後に結果が出るように動くことこそが、正解である。


「…………」

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