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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第捌章 第四幕
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第捌章 第四幕 6P


                 *


 盗賊団はその頃、外の異様な状況にピリピリとしていた。相変わらず、湿気た雰囲気の立ち込めた一階のフロアでは、咳きや呻き声の合唱がやまない。怪我人や病人の看病や休みを取っていた人員も流石に銃声で何かが可笑しいことに気付いた。しかしながらその以上を伝える為の仲間が一向に帰って来る様子を見せない。何か起こっていることは間違いない。当然、適材適所で盗賊団の運営を任されているリーダー格の五人はまだ、仲間を待つようにと念を押した後、休憩を切り上げて対策を考えると上に引っ込んだ。


「何も分かんねーよ……本当に大丈夫なのか?」


「いや、今はやはり待つしかない。情報が圧倒的にすくな過ぎる此処で無理に動けば、確実に少しずつ戦力を崩されるだけだ。今は堪えろ、Dだって誰だって考えていることは同じなのだから。俺たちは成功させなければならない」


「分かっている! 分かっているのだがな」


「ならば、今は仲間を信じて待て」


証明がランプだけの薄暗い室内で盗賊団はそれぞれ、苛立ちと焦燥を隠せない。何が起こっているのか、全く分からない。この一言に現状が尽きるからだ。


みっともなく貧乏揺すりをする者もいれば、立ったり、座ったりと落ち着かない者。


空っぽなカップを気付かずに口元へ運んでいる者。動ける者が十人くらいでそれぞれがちぐはぐな動きをしている。そして堂々巡りの会話。これもランディが狙った心理戦である。


戦いは何も武力だけを操るだけではない。敵を揺さぶり、ミスを誘発させ、その間に自分に有利な展開へ持って行く。強硬だけではなく、柔軟さも大切だ。しかし、マニュアルで動く彼らにその柔軟さはない。


手探りながらやっていた初期の頃とは違い、今は決まった手順があり、イレギュラーを発生させない状況を作ることで済ませてしまっている。つまりは、攻めに徹してしまい、守りには極端に弱い集まりとなった。勿論、現在の戦争に対する忌避により、血を流す、戦うなどと言ったことが極端に嫌われていることを鑑みれば、正しい選択ではある。だが、如何せん多くに目を向け過ぎて小さな所にまで目を向けなかった。幾つかの成功で自信を付けた結果がこの有り様だ。進歩のない惰性は身を滅ぼす。当たり前の通りだ。


「よし、後少し待って報告がなければ、俺が出る」


そう言い、一人が待っていられんと風邪に煽られて軋む音をさせる扉へ向かおうとした。


「だから、そう言うのが駄目なんだって。ふらふらと出て行ったら良い的なんだよ? 分かる?」


「皆、同じだって」


「離せ! お前らはふ抜けてんだよ、それがわからねーのか?」


二人が扉の前に立ち、一人がっちりと落ち着くまで脇から抑え込む。抑えつけられている者は、ジタバタと暴れる。もうランディが作った流れを止めることは出来ない。ならば、被害を少なめにし、新たな流れで押し潰すしかないのだ。闘いとは常に先を見据えなければならない。実生活でもそれほど、大差ないけれどもこちらは直近で命に関わる問題だ。生半可な行動で全てが崩れて自分だけの命ではなく、他の仲間の命さえも一緒に消し飛ばす羽目になる。


「落ち着いたか?」


「ちっ……ああ」


暫くして静けさが訪れる。


「俺たちはまだ、動くことは出来ない。だが、もし外の見張りで誰かが帰って来たのならば、直ぐにでも動くんだ。不穏分子を無力化した後、元の流れに戻すにはこうするしかない」


勝手な行動を取ろうとした一人を諭すように他の者が理由を話し、納得の行く答えを出した。


「わああってるよ、わあってるんだ…………」


床を力強く踏んでヤツ当たりをする。


「大丈夫だ、あいつらは簡単にやられるほど、軟ではない。何に手古摺っているのかは分からないけれども。絶対に情報が来る」


「それまでは何としても平静を保たねば、少しずつ崩されて行く」


何としても人員の無駄な消耗は避けて効果的な対策を取らねばならない。


そして二階ではその対応策が考えられている。これは死力を尽くし、互いに互いを潰し合うまで終わることない怨嗟だ。終わりはどちらかが淘汰されるその瞬間。これは古の時代から続けられた呪い。いや、生物としての定めだ。


どうにも出来ない焦燥感だけが残るこの場へやっと光が差し込んだ。


「みっ、皆……敵襲だ。敵襲、来る、来るんだ。強い、強過ぎるんだ――――」


扉が大きな音を立てて開き、外の僅かながらも力強い光が部屋へ差し込んだ。


たどたどしい言葉を並べながらよろけながら入って来た見張りの内の一人。


室内の全員が一瞬、呆然とするも直ぐ我にかえると仲間に駆け寄る。特に外傷はないけれども息絶え絶えで精神的なショックによる錯乱状態。少し休めば、元に戻るかもしれない。


「おい! Z、どうしたんだ? 何があったんだ!」


「だっ、駄目だ―――― ゴホッゴホッ、お終いだ……おっ、俺たちじゃあ、勝てっこ、勝てっこない…………無理だ、あっ、あんなの。何であんな化け物がいるんだよぉ! 」


揉みくちゃにされながらも一、二歩前に進んだのだが、膝から崩れ落ちる歩哨の盗賊。


大きく体を震わせながらうわ言を呟いてまるで熱に浮かされているようだった。


「なっ、何があった? 落ち着いて俺たちに説明してくれ、Z。何があったか分からなければ、対応のしようがない。おい、誰か! 水を持って来い。それとD達も呼んで来てくれ」


「おっ、おう……」


誰がどう見ても様子の可笑しいZを見て動揺が波及する。何があったのか、正直に言えば、聞きたくないと言うのが本音だろう。だが、その聞きたくない現状を聞かなければ、始まらない。また、ずっと彼らは聞きたくない事ばかりを聞かされ、嘆き悲しんで来た。今更、慄くほどの弾ではない。一先ず、壁際に仲間を運ぶ。ボロボロな壁にもたれ掛けさせて水を飲ませる。


全員で取り囲むかのように集まり、歩哨のZの一挙手一投足を逃さす、見つめ続けた。


だらしなく、壁にもたり掛かって仮面を少しずらして手元に運ばれた水を一気に煽る。


水を飲んだのと同時に階段から足音が聞こえ、階下からデカレと他の四人が顔を出す。


自然とZに集まっていた者たちが道を開け、デカレは堂々と通り、歩哨のZの目の前まで行く。


「よし、話せ……Z。お前はまだ、動けるのだから務めを果たせ」


屈んでZの目の高さに合わせると抑揚のない声でデカレが問いただした。


「ああっ、D。て、敵はふ、二人――――」


Zは、がっくりと項垂れて首を横に振った。既にランディが歩哨を片づけている。


「……分かった、分かったからもう少し落ち着いて話せ。私から質問をするからそれに答えるんだ。良いな? 返事はどうした?」


肩に手を掛けて気をしっかり持たせるデカレ。


「ああっ、分かった―――― 分かった」


過呼吸で今にも倒れそうなZ。溺れた人間のように縋りついてDに説明をするZ。状況は悪い方へ動いていると悟ったデカレがもっとよく話を聞こうと質問を進める。

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